10:悪役令嬢に友達と渾名ができた
遅くなりました! ごめんなさい!
目覚めは最高だった。なにしろ高級ベッドで眠ったものですから。ふかふかでいつまでもごろごろしていたいけれど学院があるし、朝御飯は食べたいし。
この世界にはどうやら時計が無いみたいだから何時まで遊んでて良いのか分からないんだよね。チャイムは鳴るらしいけど基本感覚なんだとか。嗚呼、前は遅刻ギリギリまでだらだら出来ていたのにっ!
そんなことを考えながら着替える。昨日は包帯が真っ赤になっていたから慌てて薄い布に取り替えたんだけど……。うん、大丈夫そうだな。傷口は固まってるからこれ以上血が出てくることはないと思いたい。クローゼットの近くにあった等身大の鏡を見てから意気揚々と扉を開けた。
食堂に着いた。人がほとんどいないな。私もこのくらいの時間に起きた方が良いのかな? ほら、私って悪役令嬢だし。
……嘘です。私が一人の方が楽で良いなと思ったからです。静かにご飯が食べれるなら私は早起きの為の努力を惜しまないよっ!
周りの人がぎょっとしたように私を見るけど気にしない。うじうじ悩んでたって仕方がないもの! さあ、折角のバイキングだから楽しむぞ!!
今日の朝御飯はなにかな~? まずはパンコーナーから回ろうかな。そう思った矢先、私の視線はある一点に釘付けになった。
ふわふわの、柔らかそうなパンがいくつも積み重なっているのだ。その形は円く、真ん中には茶色い焦げ目が付いている。そう、それは――!
「パンケーキ……!!」
トレイの上にお皿を乗せて、更にその上に手のひらサイズのパンケーキを三つほど乗せる。トッピングとしてしゃきしゃきのレタスに卵サラダのペアとバターを乗せる。
「もうこれだけで幸せ……!」
早く食べたいけれど周りの人への気遣いは怠ってはいけないからね。人が空いている席を探せば見事に角っこが空いている。
早足で歩いて席に座る。さあそれではいただきましょう!
「いただ――」
「あ! シェフィーリア様!」
あれ? 私の名前を呼ぶ人がいる。顔を上げると入口付近にリリアンヌ様とミラーレス様がいるのが見えた。
私って悪役令嬢だけど声をかけても良いの? ぱたぱたと私の方に向かってきた二人は笑顔だから良いのかな。
「「おはようございます、シェフィーリア様!」」
「おはようございます、リリアンヌ様、ミラーレス様。お二人は朝早いのですね」
「いえ、それほどでも無いですよ。それより、その、朝御飯をご一緒しても良いですか……?」
上目遣いで見てくるミラーレス様が滅茶苦茶可愛い。これは「はい」のひとつしか選択肢は無いね。
「勿論ですよ、それではここで待ってますね」
「はい! すぐに戻って来ます」
とっても美味しいご飯を目の前にしてお預けなんてすごく困るけど、あの二人のためだもんね。我慢我慢!
「お待たせしました!」
「遅くなりました!」
すぐに帰ってきた二人と改めて席について今度こそ食事を始める。
「シェフィーリア様、それはなんですの?」
「これはパンケーキですわ。柔らかくてとても美味しいと聞きましたの」
私が切り分けたパンケーキを見つめるリリアンヌ様。目がキラキラと輝いているところを見るとそうとう興味が出たらしい。
「よろしければ少しお食べになりますか?」
「え!?」
あれ? もしかしてこういうことしたら駄目だった? 大人しそうなミラーレス様が声をあげるなんてそんな理由しか無いよね!?
「いえ違うんです。その……私も食べてみたいな、と」
なんだそういうことか。良かった~。
「ミラーレス様もお食べになりますか?」
「良いのですか!?」
可愛い。二人とも可愛い。一口サイズに切り分けて二人の皿にそれぞれ移す。そしてパンケーキをパクっと一口。
どうかな? 私もまだ食べてないんだけど。毒味させる感じになってないかな。
「美味しいです。ふわふわで甘い……」
「フルーツと一緒でも良いかも知れませんね」
おおっ! 二人ともパンケーキのミリョクに気づいてくれたかっ! さ、私もたーべよっと。
「美味しい……!」
「シェフィーリア様は本当に美味しそうに食べるんですね」
「可愛らしくて良いと思います」
何で私は微笑ましく見られてるんだ? ただパンケーキを食べてるだけなのに。
「リリアンヌ様、ミラーレス様。私と話してくださってありがとうございます」
感極まって涙が出てきそうだ。
「いえ、こちらこそ。助けてくださった上にこうしてお話もできるなんて」
「ありがとうございますシェフィーリア様。それと私のことは是非レスと」
「私はリリィと」
「私のことはシェフィーと呼んでください」
今日の朝は「二人と会えて本当に良かった」と思った時間になりました。
怪我について少しだけ追加。