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無黒語  作者: 吾桜紫苑&山大&夙多史
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Infi-16 後始末

「あん? そういえば……」

 海原を行く一隻の船を見下ろしながら飛翔していたウロボロスは、はたと気づく。

「もうあたしが龍殺したちに付き合う意味ってなくなりましたよね?」

 どういう形であれ、リッチは島ごと滅びた。ウロボロスの〝消滅〟の力で処分しなければいけないものも呑み込んだ。

 あとは報酬を貰って帰ればいいだけだし、その報酬を渡してくれる相手はあの中にいない。

 ならばウロボロスがこれ以上留まる理由もないだろう。

「挨拶も必要ないですね。次の仕事押しつけられても面倒です」

 白羽くらいにはなにか言っておいてもいいが、今船に近づけば他の面子の相手をすることになってしまう。確実に。作戦後で多少弱っている龍殺しと腹黒をここで抹殺するのも悪くないとは思いつつ、今回は寛大な心で見逃してやることにした。

「ん~、直帰してもいいですが、どうせならこのままお義父様に温泉旅行のペアチケット貰いに行っちゃいましょうかね」

 元々それが目的で今回の作戦に参加したのだ。日本に帰るよりも近い。ついでに紘也の近況なんかも聞けたら万々歳である。

 そう決めたウロボロスは船の進路とは別方向に飛翔していくが――

「おや?」

 ふと、なにかを感じて振り返った。

 視線をさっきまでアンデッドの島があった場所に向ける。

「まだなんかやってるようですけど……まあ、あたしには関係ないことですね」

 リッチが滅びたのは間違いない。となれば、彼らがやっているのは単なる事後処理だろう。ウロボロスは一瞬で興味を失くし、目的地であるロンドンの方へと飛んで行くのだった。


        ***

 

 島ごと消滅された魔法の余波も落ち着き、ただの海原となったその場所に、一隻の漁船が浮かんでいた。

 葛木修吾は今はもう小さな点となった船に視線をやる。

「どうやら、朔夜君は向こうの船に乗ったみたいだね」

「……いいの、修吾? これ以上独立秘匿遊撃隊(わたしたち)が彼らと接触して?」

 心配そうに訊ねてくる六華に、修吾は爽やかに笑って答える。

「ハハハ、朔夜君なら問題ないよ。彼が本気で気配を消すことに徹すれば、同じ船に乗っていても最後まで誰にも気づかれないさ」

 せいぜい、勘のいい者が僅かな違和感を覚える程度だろう。例え彼の方から接触していたとしても、大したことにはならないはずだ。

「修吾がいいなら、私もいいことにするわ」

 六華は口元を僅かに綻ばせて一歩下がる。すると、その向こうで副官の女魔術師が緊張の糸が解けたようにぺたんと尻餅をついた。

「正直、今度こそ死ぬかと思いました……」

「誇るといい。貴様はあの秋幡辰久の副官などをして未だ生きているんだ」

 船の縁に腰かけて剣の手入れをしていた日下部朝彦が言う。

「余程悪運が強いのだろう」

「悪運とか言わないでください!?」

 腰は抜けてもツッコミの勢いは健在だった。意外と元気そうである。心配はいらないだろう。

「おい、この場に戻ってなにをするつもりだ?」

 と、グリフォンが腕を組んで修吾を睨みつけた。

「僕らには最後の仕事が残っているんだ。とはいえ、さっきのさっきまではそんな仕事なかったんだけどね」

「ならば契約外だ。王たる俺が今回の件で手を貸すのはここまでとしてもらおう」

「修吾、鷲獅子が喜んでサービス残業すると言っているわ」

「そうだな、雪女。貴様と決着をつけるサービスくらいならしてやらんこともないぞ?」

「楽しそうね。鷲獅子の氷像が見られるなんて」

「ですから船の上でそんな殺気を振り撒かないでくださいッ!?」

 睨み合うだけで衝突する威圧と冷気の嵐に副官の女魔術師が堪らず叫んでいた。このままでは船が転覆し兼ねないため、修吾はパンパンと手を叩いて二人の喧嘩を止める。

「仲がいいことはけっこうだけれど、そこまでだよ」

「「仲よくなどない」」

 息ピッタリだった。

「ハハハ、ここからは僕たちだけでも問題ないよ。お疲れ様、グリフォン君。報酬は後日届けよう。彼女にもよろしく言っておいてくれ」

「……フン」

 鼻息を鳴らすと、グリフォンは猛禽類の翼を広げてその場を飛び去っていった。

「修吾、俺もここまでだ。またなにかあれば呼べ」

「ああ、朝彦君もありがとう」

 朝彦は小さく頷いて空高くジャンプをした。すると東の方角から飛んできた漆黒の巨鳥が彼を掴み、そのまま日本に向かって飛翔していく。

「ああもう!? この部隊の面子は誰も彼も勝手なんですから!? この場にいない人も含めて!?」

「ハハハ」

「笑いごとじゃないです!?」

 副官の女魔術師は部隊の一員というわけではないのだが、頻繁に関わっているためかほとんど仲間と言っても差し支えない存在になってしまっている。彼女のツッコミがいい具合に舵取りになることもあるので、修吾としては寧ろ正式にメンバーになってほしいとさえ思っていた。

 主任の補佐をしながらそれは、ポジティブな修吾からしても流石に無茶だとはわかっているが……。

「それで修吾、私たちはなにをするのかしら?」

 六華がきょとりと小首を傾げた。修吾は改めて島があった場所を見る。

「うん、まずは六華、この辺り一帯を底まで凍らせてくれないか?」

「? わかった」

 こくんと頷くや否や、凄まじい冷気が漁船を中心に周囲の海を一瞬で凍結させた。『灰色の魔女』のディノとの戦闘時よりも、深く広く。

「ホントさらっとこういうことしてのけるからここの面子はもうホントもう……」

 副官の女魔術師はなぜか頭を抱えていた。

 修吾は氷の大地に降り立つと、意識と感覚を周辺に向けつつ歩き始める。

「魔法士の彼が使った最後の魔法。あれほど無駄に無駄を重ねたような力を行使したにも関わらず、周囲の被害は最小限に抑えられている。島一つ消し飛ばす威力だ。本来、近くにいた僕らがこうして無事であるはずがない。周辺諸国も地震と津波に襲われていたことだろう」

 やがて、修吾は『それ』の反応を見つけて立ち止まった。護符から日本刀を取り出し、足下の氷を豪快に斬り崩す。

「指向性を与えられた力が、全てを消費し切れずに余剰分を残すとどうなるか?」

 穿たれた底の見えない大穴に式神を飛ばすと、しばらくしてふわりとバスケットボールサイズの黒い岩石が持ち上がった。

「このように、魔石となる場合がある。しかもあれほどの魔法だったからね。大きさはこんなものだけれど、現代魔術師の勢力図を引っ繰り返し兼ねないレベルの力が圧縮されている。他の組織が嗅ぎつける前に僕らで回収しておかなければならない」

 連盟で管理するのが一番かもしれないが、まずは上司の意見を仰ぐべく通達はせず持ち帰るべきだろう。

 副官の女魔術師が恐る恐る魔石を指差した。

「それを、どうするんですか?」

「秋幡主任に任せるつもりだよ。もし連盟にも報告しないことになったら、バティスト君かヴィンフリート君にでも渡して有効な活用方法を模索してもらうとか?」

「あの変態魔科学者と北欧の神秘学者にですか? 大丈夫なんですか、彼らで?」

「ハハハ、昔はやんちゃしてたみたいだけど、今は独立秘匿遊撃隊(ぼくら)の仲間じゃないか。大丈夫さ」

「仲間を信じる修吾、好きよ」

「ああ、このポジティブ思考が不安でなりません……」

 微笑む六華とげんなりする副官の女魔術師に、修吾は爽やかに笑いつつすっかり晴れ渡った空を見上げた。


「さて、僕らも帰ろう」


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