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無黒語  作者: 吾桜紫苑&山大&夙多史
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Noir-07 作戦名『ごり押し』

 女魔術師が仲間のチームワークの悪さに激しい不安感に襲われている頃。

「あれ? シラツユちゃん、なんか変じゃない?」

「?」

 お子様のお守り真っ最中の白羽は、当のお子様からの唐突な首を傾げた。

「何がですの?」

「んーと、空気がへんな感じしない?」

「……瘴気ならそこかしこに充満しておりますけれど……いえ」

 今更何をと言いかけた白羽は、改めて意識を集中させる。赤毛の少女が言うとおり、これまでになかった奇妙な「力」の流れが生まれていた。

「なんか、呪いににてるね-」

「呪い……これが?」

 フージュの言葉に白羽が首を傾げる。呪いというにはおどろおどろしさが全くない。刺青呪術を用いる師匠を持つ身としては、呪術と呼ぶには違和感を覚えてしまう。

 しかしフージュは首を傾げつつも、重ねて言った。

「うんとね、呪いのこわい感じはないんだけど、力のながれ? みたいなのが似てるなあって思って。ノワの呪術みたいにきれいじゃないけど、それっぽいなあ」

「力の流れ……」

 白羽は少々ショックを受けた。それなりに観察眼を磨いてきた自負はあるのに、こんなお子様に負けるとは思っていなかった。

 密かにさらなる鍛錬を誓う白羽の様子に気づくことなく、赤毛の少女はこてんと首を傾げた。

「でも、すっごくふあんていな魔法だよね。私がこんな魔法使ったら、きっとマスターとノワにおこられちゃう」

「……確かに」

 今度こそ白羽は頷く。こんな術式を使おうものなら、姉からも兄からも拳骨を食らうことは間違いあるまい。ちょっとでも何らかの外力が加われば崩壊してしまいそうな危うさは、敵の術者にとって自滅を誘う絶好の隙だ。

 そして、そこまで考えた白羽は、新たな疑問に気づいた。

「これ、誰の仕業ですの?」

「ん?」

 真っ先に疑うのは目の前にいるお子様だ。あのノーコンぶりとこのどこかずれた感性を考えれば、こんな奇妙な呪術を扱ってもおかしくはない。

 が、白羽の目にはフージュが何らかの魔法を使っている様には見えない。さすがにこの技量で遠隔魔法をこなせるはずはないので除外。彼女の保護者が何者かは知らないが、この何でも情報を口にするお子様の言葉を信じるならば、彼の仕業でもないらしい。

 次にウロボロスも除外。彼女の基本的な戦闘スタイルは、魔力をぶっ放すか亜空間を開くかぶん殴るかだ。魔法や魔術と言った人間が少ない魔力を操るためのシステムは必要としない。錬金術には強いらしいが、今回は関係あるまい。

 そして白羽の知る限り、羽黒は呪術を使うにしてもこのような気の抜けた呪術などは使わない。

 となれば。

「やっぱりあの男、口だけですのね!」

「?」

 消去法で、白羽は確信した。ふんぞり返ってでかい口を叩くあの男は、口ばかり達者で実力はたいそうお粗末なものであったようだ。まったく、これで白羽に上からものを言おうだなどとは片腹痛い。

「戻ったらせいぜい高笑いしてやりますわよ!」

「シラツユちゃんどーしたのー?」

 よくわかっていないフージュをよそに、白羽はにんまりと笑った。

 よもや自分の兄をして「大迷惑」と言わしめるような訳のわからない呪術師が、兄の術式を介してこの島全域を不安定な呪術で浸食しつつあるとは夢にも思わず、白羽は愛刀をすっと掲げた。

「では、少しでも早くあの男を嘲笑うために、貴方には早々に退場いただきましょう」

 ガイィイイイイン!

 金属同士がぶつかり合うような音が響き渡った。

「アッハハハハハハ!」

 甲高い笑い声が響く。口を大きく開いて笑う様に、つられたように白羽も愛らしく笑う。

「あはっ。随分と楽しいお方のようですわね」

「アッハハハハ!」

 ゲラゲラと笑うのは、エメラルドグリーンの髪を束ねた少女。目隠しをしたまま笑うと、笑った口がやたらと目立ち、口裂け女のように見える。

 手には大鉈が握られていた。白羽の刀を弾いたということは、彼女自身の能力か外部の力に頼って強度を大幅に上げているのだろう。そうでなければ今の一合でたたき折っている。

「あっ、この子がかんぶだよ! 私をつかまえたひととは違うけど!」

「敵の方から来てくれるとはありがたいですわね」

 フージュが行儀悪く指を指して保証した情報に、白羽はにんまりと笑みを深めた。羽黒の雑にもほどがある「作戦」を、これほどあっさりと実行できるとはラッキーだ。

「では、これと戦えばお兄様にご褒美をお願いできますわね。梓お姉様との果たし合いが今度こそかなうかもしれませんわ♪」

「私も、これがうまくいったらノワにほめてもらえるかなー?」

 それだけは絶対ない、という確信は胸の内にとどめ、白羽はフージュとともに地面を蹴った。

「アッハハハハ!」

 出会ったときからけたたましい笑い声しか発しない少女──エニュオは、屈指の日本刀使い二人相手に、真正面から突っ込んでいく。

 血しぶきが飛び散った。

「え?」

「あれー?」

 間の抜けた声を上げたのは、白羽とフージュの両方であった。勢いよく飛びかかってきたエニュオは、あっさりと二人の刀に切り刻まれてしまったのだ。

「つまんないー」

 唇をとがらせて文句を言うフージュを尻目に、白羽はまだ警戒を解いてはいない。いくら何でもその辺のゾンビと同じ、あるいはそれ以下の戦闘力しかない相手が幹部を名乗りはしないはずだ。

「アッハハハハ!」

「「──!?」」

 笑い声が、真後ろから。

 驚愕とともに白羽が後ろを振り返る。同時に掲げた白刃に鈍い衝撃が走る。

「く……っ」

「アッハハハハ!」

 狂ったような笑い声が、耳に響く。歯を食いしばって、白刃は受け止めた大鉈を払いのけた。返す刀で袈裟切りに振り抜くが、あっさりとよけられた。

「どういうこと-?」

 フージュがよくわかっていないような顔で首を傾げる。だが、状況が理解できないのは白刃も同じだ。

 改めて白刃は後ろを振り返る。見間違いでも何でもなく、二人が切り裂いたエニュオの死体が転がっている。

「……傷が治って立ち上がるのではなく、新たに無傷の体が襲いかかってきましたわね」

 馬鹿馬鹿しいとは思いながらも、白羽はひとまず自身の観察結果を口にすることで飲み込んだ。事実を事実と認めなければ、考察はできない。

「おんなのこがふたりいるねー」

 フージュの方も首を傾げている。魔法士としても見慣れない魔術であるらしい。……もっとも、この子供が魔法士の魔法をすべて把握しているとはあまり思えないが。

 しかし、あれこれ考えている暇はない。

「アッハハハハ!」

 ゲラゲラ笑いながら、再びエニュオが突っ込んできた。白羽はとっさに寒戸を発動し、エニュオの大鉈を捌く。

 よくわからないが、この敵は切り刻んでも意味がないらしい。そうであれば下手に致命傷を負わせるのではなく、相手の情報を集めるために一合でも多く刃を合わせた方がいいだろう。決して、面白そうだから長くやり合いたいというわけではない。

 そう、たとえこのエニュオとの一合一合が、白羽の腕をしびれさせるほどの剛力を発揮していることに、心躍っているわけではないのだ。

「っ、これほどの、力の、持ち主は、珍しいですわ……!」

 白羽は一旦、発動していた寒戸を解除し、代わりに全身に魔力を浸透させた。白羽の武器である身体強化の術を駆使した刀使いだが、白羽は少しもしないうちに表情を曇らせた。

「……っ、どういうことですの」

 身体強化がうまく発揮していない。いや、正確には、普段よりも出力が弱い。鍔迫り合いなどすれば、あっという間に押し込まれてしまう。

「アッハハハハ!」

「う……っ」

 白羽の髪が一筋宙を舞った。エニュオがさらに、白羽へと大鉈を振るう。

「この野郎……っ」

 口調が乱れるのもかまわず、白羽は大鉈を強引に受け流して刀を掲げる。普段ならば羽のように軽い刀が、やたらと重く感じた。

「──って、フージュさんは何をしていますの!? さっきから私一人で相手をしていますけど!?」

 はっと気づいて白羽が叫ぶ。やたらと元気なお子様がある時を区切りに一言も発していない違和感に、エニュオから一旦距離を置いて確認する。

「……は?」

 白羽は、絶句した。

「わたしはわたしでいそがしいんだよー?」

 そこは、赤い血しぶきが彩る凄惨な舞が繰り広げられていた。

 銀線が走り、エニュオが切り刻まれる。崩れ落ちたとほぼ同時に斜め上からエニュオが大鉈を振りかぶるが、少女に届くことなくその身がばらばらと崩れ落ちていく。

 どこからでも、幾度飛びかかっても、エニュオは少女が舞い踊るのに合わせて切り刻まれていく。赤い血飛沫と銀線が、まるで舞を彩る衣装のように宙を踊った。

 倒錯的な美しき舞に、白羽は我を忘れて見とれる──どころではなく。

「何をしでかしてくれてんだこのガキぃ!?」

「ええー?」

 完全にヤクザ口調に戻って怒鳴りつけた。不満げな顔をしつつエニュオを次から次へと切り刻んでいる少女に、白羽はぎりぎりと奥歯を食いしばった。

 切り刻んでも切り刻んでも復活するエニュオに回数制限がないと判明したのは、まあ悪くはない。ここまできても魔力が減るどころか増えていく様子を思えば、白羽が無駄に消耗戦を仕掛けずに済んだともいえる。

 だが、問題は、「増えて」いることだ。

「敵の数増やしてどうすんだてめぇ!? こちとら対多数が得意だがな、むやみやたらに敵が増えるのは望むところじゃねえんだよ!」

 ……魔力だけでなく、エニュオ自身すら、「増えて」いる現状に、白羽は怒鳴りつける他のリアクションを思いつかない。

 切り刻まれてすぐに襲いかかってくるエニュオに意識を割いてしまったが、切り刻まれたエニュオの方も、さして時間をおかず元通りの姿に戻っていた。それに気づかず増えた方のエニュオと応戦している間に、どうやらこのお子様は復活したエニュオを延々と切り刻んで増殖させていたようだ。

「何でふえちゃだめなのー?」

 ところが、本人は全くといっていいほど悪びれていない。なんだかやや楽しそうな顔で増殖するエニュオを切り刻み続けている。

 ……駄目だこのガキ。

 白羽は心からそう思った。確かに個としての戦力はずば抜けている。接近戦の殲滅力だけならば、白羽どころか白羽の兄姉、あるいは未来の義姉であろう白銀もみじにすら比肩するかもしれない。

 だが、おつむが残念すぎた。

 戦い方を考えることもなく、ただただ目の前の敵を切り刻むことだけにしか興味を示さず、魔法を扱ってもノーコン。接近戦では倒せない敵が出てきた途端に役立たずどころか足を引っ張るとなれば、何故戦場に連れてきたのかと問い詰めたいレベルである。

 ウロボロスと疾に似たり寄ったりの評価を下されているとは夢にも思わない白羽は、保護者は兄の知人であるようだし、責任追及と八つ当たりをかねて三枚おろしにしてやりたいなどと思うのであった。

「シラツユちゃんー?」

 白羽の心情にこれっぽっちも気づかず、不思議そうにフージュが首を傾げる。白羽はだんだん頭痛がしてきた。

「……フージュさん。白露思うのですけれど、いくら切り刻んでも増える一方であれば、増やさずに仕留める方法を考えるべきではありませんの?」

「? どうやってー?」

「魔法を使ってみては?」

「まほうー?」

 なぜか不満げなフージュに、白羽は辛抱強く言い聞かせた。気分はもはや保育士だ。

「刀で切り刻んでも倒せないのならば、魔法で倒せるかもしれませんでしょう?」

「んー……やってみるー」

 言いながら、フージュの魔力が高まる。巻き込まれないよう素早く距離をとる白羽とは裏腹に、エニュオが一斉にとびかかっていく。

「えいっ」

 さすがに四方八方から敵が飛びかかってくる状況であれば、ノーコンの魔法だろうと当たる。島の一帯を焼き溶かした火属性魔法は、エニュオを黒焦げに──できなかった。

「うわっ!」

「なっ」

 フージュが驚いたように声を上げて双刀を振るうのを、白羽は息をのんで見上げる。

 エニュオは、全く魔法の影響を受ける様子が見られなかった。勢いすら消さずに突っ込んできた姿は完全に無傷。一度消し飛んで即座に復活したのかとも考えたが、数は増えていないところを見ると。

「……魔法が効かない?」

「ほかの属性もためしてみる!」

 フージュが水属性の魔法を放つが、やはりノーダメージだ。立て続けに魔法陣が浮かび上がり、あらゆる属性の魔術が撃ち放たれたが、どれもこれもかすり傷一つ作らない。

「確定ですわね……」

 魔法無効化。どんなからくりかは知らないが、エニュオは魔法攻撃が効かないようだ。となると物理攻撃で倒すべきなのだが、切り刻んでも増える一方。

 ……さらに。

「なんかだんだん、力がぬけていくよ-!」

「……やはり」

 気のせいではなく、白羽もフージュも、身体強化の効力が低下していっている。エニュオの大鉈はさして重くないはずなのに、力に押し巻ける場面が徐々に増えていく。早さも徐々に鈍ってきていた。

 相手の数が増える度に、こちらの力がそがれていく。そんな呪いでもまき散らしているのだろう。徐々に劣勢になっていく戦況に、白羽は舌打ちした。

「こうなったら、相手が復活するより早く細切れにして、二度と復活できなくしてくれますわ……! フージュさん、いきますわよ!」

「え? あ、うん!」

 結局力ごり押し作戦を選択して突貫するあたり、白羽も人のことをあまり言えないのであった。


***



 赤白の似たもの同士が、仲良く刀を振るっている頃。その保護者の片割れは、膠着状態に陥っていた。

「……」

 ゆっくりと息を吸い、吐く。足音を殺した慎重な足運びで歩を進めるノワールは、暗闇の中にいた。

 一歩、二歩。

「!」

 空気が、揺らいだ。

 ノワールは意識を右斜め上に向けた。展開した障壁に、甲高い音を立てて極小さな針が衝突する。

 ノワールが右手を振るった。水弾が立て続けに針が飛んできた方向へと撃ち放たれるが、被弾した気配はしない。それどころか、つい先程まで感じていた僅かな気配そのものが闇に溶けていた。

「……ち」

 舌打ちを漏らし、ノワールは再び周囲の気配へと意識を集中させる。

 ペプレドの空間捻転に呑み込まれたノワールは、現在、思わぬ苦戦を強いられていた。

 ただ空間を捩り、閉じ込めるだけであったならば。闇属性であり、常日頃から虚空間に所有物を纏めて投げ込んでおくほどに空間魔法の扱いに長けているノワールにとって、解除するのは片手間である筈だったのだ。

 だが、任務内容が内容であったため、閉じ込められた以上は必ずその空間内でこちらを狙っているだろうペプレドを捕らえ、尋問する必要があった。その為ノワールは敢えて空間に手を出さず、ペプレドを探すことを優先したのだ。

 それが、裏目に出た。

 おそらく、これはペプレドにとっても予想外の事態であったに違いない。よもや、捩れて別次元となった空間に、さらなる干渉を加えてくる第三者がいるとは普通考えない。下手をすれば当事者もその空間に呑み込まれ、未来永劫出られなくなる可能性があるのだから。

 ──なんらかの呪術的干渉・・・・・を受けた空間は、完全に閉じてしまっていた。

 おまけに、当の呪術がノワールをして手出しを躊躇わせるような、不安定かつ意味不明な構造だった。迂闊に触れれば更に事態を悪化させる可能性が高く、腰を据えて対処するには、同空間に閉じ込められた敵が厄介であった。

「っ」

 微かな風切り音がノワールの耳に届く。ノワールが身を翻すと、レイピアが影を貫いた。細身の刃が引き戻され、再び刺突を繰り出すのを、敢えて障壁を広く展開して迎え撃つ。

 小さな火花が散り、爆発が起きた。金属片が撒き散らされるのを、障壁が全て受け止める。即座にノワールが放った魔法はあっさりと交わされ、また気配が闇の向こうに消えていった。再び、舌打ちが漏れる。

(……キリがない)

 ペプレド(意地悪な)。その名が示すのは、じわじわと相手を消耗させるその戦術にあったのだろう。

 相手の攻撃は、ノワールに届かない。だが、ノワールもまた相手を捉えきれない。そうした膠着状態は、少しずつ、しかし着実に敵の精神力を削っていくものだ。通常とは少々言い難い精神構造の持ち主であるノワールだが、この状況は臨むところではない。

 闇に閉じ込められた、呪術的要素が混在した空間。それは、アンデッドにとっては絶好の狩り場であるようだ。混沌とした不愉快な気配に、ペプレドの気配が完全に紛れ込んでしまっている。元々暗殺の類を得意としているのだろうが、ここまで気配が読めないところで、様々な暗記を駆使して攻撃してくるペプレドは、おそらく実力以上の力を出せている。

 反してノワールは、呪術への影響を考慮して闇属性魔法を封じている上に、何故かやたらと魔術が構築しづらい空間となった場に苦慮していた。

 こういう嫌がらせをしてくる人間がまさに島に居るのは、ノワールも把握済だ。が、今回ばかりは疾が犯人ではないという事も、ノワールは半ば以上確信している。

 あの性格の悪いことにかけては右に出るものがいない男が、こんな気の抜けた呪術を扱うとは思いがたい。もっとドス黒い気配になるだろう。そもそも、力の波動が別物だ。

 何より。

 ノワールが魔法陣を展開する。常に干渉されることを前提に編み上げられた緻密な魔法陣が、魔力を流す秒にも満たない時間で、揺らいだ。構わず魔力を追加で流して補強し、発動する。

 四方八方へと、蒼い雷の花が咲いた。

 空気を介して全てを感電させるような魔術だが、今ひとつ電流が低い。防ぎきられた気配に、追加で魔法を放つも、敵はまたもや闇へと紛れた。

「……こんな馬鹿げた自爆、あいつがするものか」

 独りごちて、ノワールは1つ溜息をつく。

 魔術の構築が不安定であること。それ自体は、構築に費やす魔力を継ぎ足せば補える。ノワールにとっては手間ではあっても、さしたる問題は無い。

 だが、魔法士にも満たない魔力量の疾には、かなりのハンデを強いられるはずだ。たかだか魔術が扱えないだけでくたばるようなかわいい性格は断じてしていないが、わざわざ自分が不利な状況を作るような真似はしない。

「とはいえ、アスク・ラピウスにこんな芸当は無理だろうしな」

「──我が主を愚弄するな」

 殺気が膨れあがる。音も無く飛来した無数の刃を魔法で迎撃しながら、ノワールは軽く目を細めた。

「……大した忠誠心だ」

 それだけ返すと、相手の殺気がいや増した。だが、それと相反するように、ますます気配が闇へと溶けていく。この程度の挑発でぼろを出すほどには愚かでは無いらしい。

(……面倒臭い)

 小さく溜息を漏らしながら、ノワールは意識を周囲へと広げていった。

 他者の悪意を半自動的に感知するノワールは、本来この手の戦いは有利だ。が、正直、こういった回りくどい戦い方は余り好まない。というか面倒臭いので、纏めて吹き飛ばしたい。不安定な呪術紛いのせいでそれすら出来ない現状は、地味にストレスだ。

 それにしても、こんな不安定で出来損ないの術を、広範囲にばらまくような輩が、何故こんな死者の島にいるのだろうか。この程度の実力で生き残れるような、生半なアンデッドばかりではないし、討伐隊としてやってきた連中もそれに同じだろう。それが島規模に呪いを振り撒いているというのはやや意味不明である。

 どういう立ち位置の存在が紛れ込んだのか、ここを脱出したら一応調べる必要がありそうだ。そう思いながら、ノワールは再び膨れあがった殺気に対し、魔力を練って迎え撃った。 

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