Noir-03 されど馬鹿は帰りたいと叫ぶ
「……ん?」
すっかり見通しの良くなった住宅街。
一休みを全力で主張した馬鹿が子どものように地面をのたうち回ったため、仕方なく一旦周辺状況の把握がてらこれまでの状況説明を済ませた矢先、竜胆が軽く首を傾げて声を漏らした。
「どうした、竜胆」
「んー……なんつーか、妙な臭いがすんだけど……なんだこれ?」
「ウロボロスとホムンクルスならお前らと合流前から別行動とってるが」
「ついた時から臭ってる奴とは別。……つかすげえ面子だな」
「それだけいれば俺とかいらねーじゃん! 帰りたい!」
「一応敵はアンデッドの最上位だからな、依頼人も警戒してるらしい。つーか、そいつが出てこいって話なんだがな」
「へえ、んじゃその人の臭いって訳でもないのか。言われてみれば人間っぽくねえな」
「これ以上おっかない面子とか俺ヤダし! もう帰らせろよ!!」
「人間っぽくない、ねえ……ま、俺達だけが動いてるわけもねえか」
騒音は無視してひとまず結論付けた疾は、竜胆と、ついでに地面に転がってる物体に目を向けた。
「さて、取り敢えず今後の打ち合わせと行くか」
「なあ、それより俺の話聞こう? 帰りたいお布団でぬくぬくしたい」
ぐだぐだと戯言をほざく馬鹿は放っておいて、疾は話を進めていった。
「まず、最優先事項は迷宮化の解除だ。外の連中との連携だけじゃなく、島の中の奴らとも連絡が取れねえからな。それを利用されて同士討ちになるのも馬鹿馬鹿しい」
「あー、そりゃ厄介だな。俺らは面識もないし、真っ先に狙われそうだ」
「そこの馬鹿がいる限り、厄介な奴ら拾うだけ拾って逃げ回るんじゃねえの。余りの情けなさっぷりに連中も戦意を失いそうだが」
「何その役割!? やだよ俺帰りたい!」
自覚がなさ過ぎる上に諦めの悪い発言はスルーした。竜胆も無視して、疾に問いかける。
「迷宮化の解除ってのは、結構手間がかかるのか?」
「手間っつーか、正規の手段では迷宮の攻略が必須ってとこだろ。アンデッドがわらわら湧くから、手間といえば手間か」
「なー、それ俺らにはちょっと荷が重くね? 局長に相談しないの?」
ようやく会話に参加してきたと思ったら全力で後ろ向きの発言をする瑠依を、疾は鼻で笑ってあしらう。
「アホ抜かせ、正式な仕事扱いされて堪るかよ。報酬0になる」
「報酬もらってんの!? なあそれ俺らにもあるよな!?」
「あるわけねえだろ。俺は依頼を受けた側、お前は必要と判断して俺が呼んだ側」
「呼んだ違う、あれは誘拐という! ってかじゃあ俺らが疾から依頼を受けてるって事じゃねえの!?」
叫んだ瑠依を、疾は思わずまじまじと見つめた。気圧されたらしく、瑠依は顎を引く。
「な、なんだよ」
「お前……そんな事を考えつく頭があったのか」
「そこまで言っちゃう!?」
「ほお、じゃあ1つ聞いてやる。迷宮化された土地を歩く際の注意事項を言ってみろ、呪術師の端くれ」
「…………壁を順番に壊せばいつかは出られる?」
盛大に視線をキョドらせながら返ってきた答えに、竜胆が額を抑える。疾はそれを横目に、ふっと笑って見せた。
「小学生レベルだな」
「なんでそーなる!?」
実際に小学校に通う白羽と同レベルだったから異論は認めない。
「瑠依……迷路と迷宮は違うからな……? 階層の様子が毎度変わる事で探索の阻害を、階層数を調整することで足止めをするのが迷宮化のメリットだ」
未だに額を押さえたままの竜胆が、疲れたような声で答えを口にする。瑠依はと言えば、ぱかっと口を半開きにしていた。成る程、馬鹿っぽい顔である。
「馬鹿は放っておくとして。迷宮に真っ向から挑むなんてのはツルハシ……もといウロボロスのような神話級に任せれば良いとして」
「今なんて?」
「身喰らう蛇がツルハシ……?」
絶句する2人を無視して疾は続けた。実際ツルハシはツルハシらしく、迷宮を掘り進めるだろう。蛇だし。
「こっちは一応仮にも多分半人前呪術師の瑠依と、生きた年数分だけ知識豊富な竜胆がいるからな。迷宮化魔術を形作る魔術の源でも探すのが1番だ……が」
「あー成る程、そう繋がるのか」
竜胆が頷いて、周囲を見回した。溜息混じりに、結論を口にする。
「案外数だけはいる上に一定時間で復活するゾンビってのは、迷宮化解除にはかなり邪魔だなあ。トラップもあるし」
「そういうこった」
片っ端から消し飛ばしていったはずのゾンビが、残骸同士を寄せ集め、ふらふらと頼りない足取りで3人を包囲していた。
「つーかこの辺はウロボロスが掃除する予定だったんだがな。使えねえ」
「さっすが、この程度は楽勝か。何で別行動なんだ?」
「あの阿呆共に合わせるのが怠い」
「……明らかに疾のせいだろ、この状況」
呆れ声で竜胆がそう言った。まるきり同意見の疾は、それでも責めるような竜胆の眼差しを切って捨てた。
「共同戦線張るくせに作戦も何もかも無視して味方を危険に晒す足手纏いに、何を気遣えと? 寝言は寝てから言え」
「どの口が言う!?」
静かにしていたかと思えば、瑠依が噛み付く勢いで会話に参戦してきた。床に溶けていたくせに機敏に起き上がったので、丁度良いと命じる。
「おい、十二分に休憩を貪ったサボり魔。ゾンビ共を一掃しろ」
「また!? もうやだよこいつら!?」
「こいつらの復活は魔術によるものだ、一欠片も残さず消し飛ばせば復活しない。つまり横着して適当に狩った瑠依の自業自得」
「理不尽!?」
いつもの如くギャーギャー喚きだした瑠依は、案外精神的にも体力的にも余裕があるらしい。ゴキブリでも死ぬトラップの嵐に巻き込まれておいてこれ、実にタフな生物だ。
「竜胆はサポートな。馬鹿がサボるようなら遠慮なくゾンビ投げつけてやれ」
「了解」
「竜胆さん!? ねえ俺が主なのに最近疾のいう事ばっか聞いてねえ!?」
涙目で何か訴えかけていたが、既に戦闘態勢に入った竜胆は聞く耳を持たなかった。険しい顔で、1点を見据えている。
「おい、疾」
「なんだ」
「帰ってこなかった調査隊っての、もしかして、鬼狩りも含まれてたのか?」
「詳しくは聞いてねえが、そういうことじゃねえの」
そう応じて、竜胆色の瞳が捉えるアンデッドに疾も目を向けた。鍛えられていると一目で分かる外見に、白い光を纏ったショートソードをひっさげたそのゾンビからは、自分達と同じ力の気配がする。
異変を察知しただろう鬼狩りが、返り討ちにされて操られている。その意味を敵が理解しているのかは知らないが、少なくとも竜胆は理解したらしい。
「チッ」
剣呑に舌打ちして、竜胆が身を深く沈めた。獣が獲物に飛びかかるような威圧感を漂わせ、低い声で吐き捨てる。
「どこの死霊術師だかしらねーが、ふざけた真似しやがって。ぶっ飛ばす」
「なんで竜胆ガチモードなの!? 怖いよ!?」
一方馬鹿は馬鹿らしく、現状が把握し切れていないらしい。腰が引けている契約者を放置して、竜胆は一気に地面を蹴った。一瞬で肉薄した相手に、白く光る腕を振るう。
鬼という鬼を狩り尽くすその攻撃は、同じく白い光を纏った武器が受け止めた。
「シッ!」
戸惑うことなく、躊躇うことなく、竜胆は更に身を捩って蹴りを放つ。身軽な動きで後退した敵を追おうとした竜胆に、横合いから矢が射かけられた。
「ちっ」
舌打ちと共に矢を払い落とし、竜胆は足を止めて身構える。剣呑に眇められた目は、新たに現れた弓手を捉えていた。
ザッ。
足音が響き、竜胆の背後から棍を構えた人物が現れた。敵は竜胆を囲むように油断なく間合いを計り、一斉に飛びかかる。
「雑魚に紛れて精鋭を投入してきたか。ただの死体ったって、生前強い奴はアンデッドとしても強力だしな」
「なにそれ聞いてない!? レベル一律じゃねえのかよ!?」
「……ゲームじゃねえんだぞ」
馬鹿のすっとぼけた発言に、疾が白い目を向けた。瑠依は目を泳がせながら、更に喚く。
「つーかもうこれホント俺らだけとか無理じゃん! 帰りたい!」
「無理? はっ、まさか」
戯言を鼻で笑って、疾は顎をしゃくった。
「っらあ!」
竜胆が吠える。豪腕が敵の身体を捉え、敵を地面に打ち据えた。
次の瞬間、弓を引き絞っていたゾンビが吹っ飛ぶ。倒れ伏した敵に容赦のない蹴りが打ち込まれ、今度こそ消し飛んだ。
「この程度で竜胆が苦戦するとでも思ったのかよ」
「……わーい、チートばんざーい」
遠い目をして惚けたことを口にする瑠依を、疾は遠慮なくどついた。
「おい、いつまでぼさっとしてる、後衛。とっとと一撃でこの辺り一帯のゾンビ吹っ飛ばす準備しやがれ」
「一撃ってアホか!? 疾じゃあるまいし、無理無理無理に決まってるだろそんなもん!? 俺は歴とした人間だ!?」
「阿呆。今回の敵はそれを島単位で成し遂げるんだぜ、そのくらいやれ。あと俺もただの脆弱な人間だ」
「ダウト!」
何事か喚く瑠依は無視だ。海戦を一手に引き受けたり、敵を島単位で吹っ飛ばしたりする人間擬き共と比べれば、疾はかなり脆弱な一般人の枠に入る。
そしてこの馬鹿は、呪術を何だと思っているのか物凄く奇妙な形に歪めてこねくり回した結果、他者を呪う事は一切出来ない変わりに魔術ばりに万能、というよく分からない代物の使い手だ。しかもベースが呪術なせいで、うっかりしていると疾でも呪いに侵される程の威力を持つ。要するに、普通に強いのだ、一応。
「ぐだぐだ言ってねえでとっととぶっ飛ばせ、ノロマ」
「そもそも疾がやれば良いのにサボってるんじゃん、何この理不尽! 帰りたい!!」
本人には一切合財の自覚がない上に末期的なサボり魔なせいで、現状宝の持ち腐れとなっているが。
後、別にサボる気はない。わざわざ指名で仕事が入ってしまった以上、楽はするがサボりはしない。瑠依と同じにするなと疾は思う。
「別にそっちでも良いが、アレをどうにか出来るのか」
顎でしゃくってみせたのは、大聖堂の方角。そこには空気が歪んで見えるほどの魔力が集積しており、複数の魔法陣が出番を今か今かと待ちわびていた。
「……なあ、疾?」
「何だ馬鹿」
「……アレ、何?」
「ゾンビとトラップで足止めを喰らう連中を仕留める、魔術砲撃」
「無理無理死ぬ死ぬもうヤダ帰りたい帰らせろ馬鹿ぁあああ!?」
肺活量にうっかり感心してしまいたくなるほど見事な絶叫に、一言。
「うるせえ。黙って雑魚掃除しろ」
「理不尽!!」
ぎゃあと叫びながらも、心は折れなかったらしくリュックからガラクタを取り出している。シャー芯を呪術具に見立てていくとはなんとも間が抜けているが、効果は取り敢えずこの辺の連中を相手取るには十分だろう。
「さて」
丁度一斉放火したのだろう、一際明るく瞬いた大聖堂から一斉に魔術が射出された。真っ直ぐにこちらに着弾しようとするそれらを見て、疾はにいと笑う。
「んなチャチい魔術で殺せると思うなよ、老害が」
身体強化、発動。
両足に集中させた魔力を糧に、宙空に飛び上がった。島の中央、最も高い場所に位置する大聖堂が、視界を阻むものなく全容が見える高さまで上がり、つま先に魔法陣を展開する。
10㎝×10㎝。ギリギリ片足を置ける最小限の足場に、支えるもの何一つない高所で疾は器用にバランスをとった。
目を眇めて、魔術を視る。数え切れない程の魔術が疾とその遥か下方にいる2人を狙っていた。魔術1つ1つに中級クラスの威力が込められており、確かにこれはトラップやゾンビと並べて対処をするのは骨が折れるだろう。やわな障壁で何とか出来るものじゃない。
が。
「はっ」
疾は、鼻で笑った。
「100年前の魔術師が作った魔術砲台如きで、現代の魔術師を殺せると思うな、老害」
言い放ったと同時。
全ての魔術が、粉々に砕けて、消えた。
魔法陣ごと破壊された魔術は、効力を失いただの魔力の塊となる。それらは更に壊されなかった魔術を揺らし、効果を失わせた。
とはいえ、これで終わりではない。大聖堂の砲台は未だ健在で、次なる魔術砲撃を放とうと魔力を集積させている。
終わり無い魔術砲撃。数で押し込めるだけの火力と数を持つ遠隔射撃。
致死の兵器とも言うべきそれらを一瞥し、疾は両手に銃を呼び出した。
「丁度いい。実験させてもらおうか」
不遜な言葉を皮切りに、疾は周囲に無数の魔法陣を展開した。
銃口から、二種類の弾が吐き出される。
魔力で出来た弾が魔法陣に当たると魔術が射出され、砲撃を迎え撃つ。かと思えば弾を弾き、別の場所にある魔法陣を起動する。
抗魔の弾は直接魔術を掻き消し、あるいは減弱させて確実に魔法陣の魔術で打ち消せるよう補助をする。
単純に銃を撃つより遥かに範囲も手数も多い戦法。ある程度狙い撃ちせずとも、魔法陣が大きい為に当てやすく、疾の負担が少ないのが利点だ。
「へえ、割と便利だな。だが空中向きじゃねーか……狭い場所の方が便利そうだ」
小さく独り言を漏らしつつも、疾は視線を大聖堂から逸らさない。ひたすら砲撃台と思しき方向を見て、視て——。
「——ははっ」
楽しげに、笑う。
「リッチのくせに、案外面白い魔術組んでるじゃねえかよ。これは期待出来るな?」
そう言って、疾は砲台に組み込まれた魔術を、1つ残らずバラバラにした。
***
「魔術師連盟の犬共が……」
青年が残していったモニターを強く睨み付けながら、アスク・ラピウスは怨嗟の声を漏らした。
招き入れるのは予定通りだが、如何せん被害が大きい。そろそろ単騎での強力な個体を増やしたいと思っていたが、雑魚共も有象無象も無限に湧いて出てくるわけではない。ここまで減らされるのも問題だった。
そして。
「トラップだけでなく大聖堂まで……くそっ、何なのだあの連中は」
侵入して早々片っ端から引っかかっていく雑魚の典型例のような少年は、直ぐに死んで仲間になるかと思いきや、存外しぶとい。直撃しても死なない不気味さに、一体どんな小手技を使っているのかと苛立ちが募る。
ガタイの良い青年も、精鋭達を集中してぶつけているのにその身1つで容易く対処してみせる。情けない少年を狙う敵の牽制までになってみせる様子からは、まだまだ余裕が見て取れた。
そして極めつけがもう1人の少年だ。アスク・ラピウスをして相当な年月をかけて完成させた自慢の砲台をあっさり破壊され、挙げ句その方法すら分からない。無駄に整った顔に浮かぶ不遜な笑みが、いやにアスク・ラピウスの神経に障った。
「どうするか……」
現状を打破するために、何かを投入すべきだ。が、まだ連盟の犬共に灰色の魔女を披露する気はない。だとすればその他のアンデッド投入だが、まだまだ数の少ない奴らを消耗するのは気が引ける。
出来れば、失っても全く惜しくない戦力があれば——
「……ふふふ、はははは!」
それに気付いたアスク・ラピウスは笑い声を上げた。気付かなかった己を笑い飛ばし、アスク・ラピウスはペプレドを呼ぶ。
「お呼びでしょうか」
「あの小生意気な魔法士のガキの側にいた、子どもがいただろう」
「ああ、あの捕まえた」
嫌らしい笑みを浮かべて頷くペプレドに尋ねてみる。
「あれは今何をしている?」
「青年の方が調べ物中のため、入口で見張り番をしているようです」
それは好都合だ。アスク・ラピウスはにいと嗤い、命じた。
「あの子どもを犬共にぶつけろ。何、適当な口車に乗せれば良いだろう。青年には気付かれないよう、上手く誘導しろ」
「御意」
***
「ノワー。ノーワー」
大量の本が積まれた部屋。机に向かい黙々と本に没頭する青年を、幼い声が呼ぶ。呼ばれた当のノワールは、顔も上げずに答えた。
「監視をしていろと言っただろう。何かあったのか?」
「ひまー」
「……何もないんだったら、来るな」
「だって、ひまー。なにもこないー」
監視という「仕事」を与えられた当初は張り切ったフージュだったが、何も来ないままぼうっと突っ立っているだけと気付いてからは直ぐに飽きた。しかもノワールが部屋に防音の魔法を張り巡らせているせいで、扉を隔てると互いに何も聞き取れない。
会話すら出来ないのは余りに退屈すぎて、フージュは監視をやめて部屋に入ってきたのだ。
唇を尖らせるフージュに、ノワールは溜息をつく。
「来なくていい。というか来たら困るから来るな」
「なにがー?」
「……なんでもない。とにかく、今は調べ物中だから邪魔をするな。黙ってこの辺のものを読むならいいが」
「やだ、つまんない」
「だったら黙って見張りをしていろ」
とりつく島もないノワールの言葉に、フージュはぷうと頬を膨らませた。が、ノワールが応じる様子を見せなかった為、渋々元々指示されていた立ち位置である、扉の外へと戻る。
「つまんないなー」
独り言を言って、フージュが天井を見上げた。ぶち破っちゃおうかなあと些か危険な方向に向かいかけた思考は、横合いから声をかけられたことで実行に移されなかった。
「フージュ様」
「……あれ?」
こてん、と首を傾げた先には、緑色の髪を垂らした目隠しの少女。先程ノワールとフージュを案内したペプレドだった。
「どうしたの?」
「我が主より、伝言です」
「でんごん?」
「『島の中を歩き回っているネズミを黙らせろ』と」
「私、ノワに言われて、かんしのお仕事だよ」
反論したフージュに、ペプレドはニヤア、と笑った。びくっと肩を震わせたフージュには構わず、ペプレドはさらりと嘘をつく。
「ノワール様には、事前に許可を頂いております。……ここはお暇でしょう? 遊びたくはありませんか」
フージュがぴくっと反応した。ペプレドは更に笑みを深め、囁くように言う。
「ゴミを相手していただければ、幾らでも「遊べ」ますよ。楽しそうでしょう?」
「……ノワが良いって言ったんだよね?」
「ええ」
「行く!」
退屈していたフージュは、笑顔で頷く。そしてそのまま、双刀を抜き放つ。ペプレドが、ちょっと顔を引き攣らせた。
「じゃあ、あっち行くね!」
「え、あの」
それ以上何も聞かず、フージュは扉と反対側の壁に双刀を思い切り叩き付けた。
ドゴォオオオオン!!
轟音が鳴り響き、もうもうと煙が立ちこめる。
「ゲホッ、ゴホッ……ガキがなにをっ」
盛大に咳き込みながら顔を上げたペプレドは、絶句した。
双刀が叩き付けられた壁が、綺麗に消え去っている。そして、少女はどこにもいなかった。
「……あのガキ!」
当たり前のように拠点を破壊した子どもにあげた怒りの声は、誰にも聞かれずに吸い込まれた。