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台風・豪雨

 台風来い!と布団の中で願っていたら頭に浮かび、1時間半かけて文字に起こしました。もう3時半です。明日警報出てなかったら僕は死にます。ぜひ読んでください。

「だぁっ!やっぱ混んでんなちくしょうめ」

 国道の上、薄いグリーンの車体から雫が滴る。……ってかまあ滴るってレベルじゃないんだけど。

 まだ暑さが残る9月上旬。日本は台風がダイレクトにヒットしていた。車のラジオはやれ降水量が300ミリだとか、瞬間最大風速が40何メートルだとか言っている。正直なところいまいち分からん。

 もっと分かりやすい説明はないものか。例えば……1分でこの世の全てに絶望するくらい濡れますよとか、パンチラ見飽きるくらい風吹きますよとか。分かりにくさが倍増したな、うん。

 そんなことはどうでもいいんだ。問題は目の前。車車車車車車車車車車……青信号。

「はぁ……」

 ピクリとも動きやしない。先頭寝てんじゃないの?こんな雨の音うるさいのに?車んなかに響きわたってますけど!?

「こちとらあと2分でリミットなんだよ!!」

 そう叫んで動くはずもなく、だらだらのろのろと車は進み、やっとこさ駐車場に入ったときには出勤時間を気にしても仕方のない時間になっていた。

「走っても遅刻歩いても遅刻……」

 ここまできたら逆に優雅に出勤するべきだ。俺はサッと鞄を開けたのち、中に手をスッと入れ、お気に入りの折り畳み傘を……折り畳み傘……

「……ん゛ん゛?」

 ない……え何で?結構高いやつだったのに。……あ。昨日同期のやつに貸した……ってか持ってかれたんだった……。

 うちの会社に地下駐車場なんてもんはない。それどころか屋根すらない。……えぇ?


「はっはっは水原くん……今月3回目だよ?」

 大雨の中猛ダッシュ、という決して優雅とは言えない出勤をした挙げ句の説教。

「いや、その……今日はノーカンじゃないすか?……はは」

 目線を左下に泳がせる。この10歳くらい上の上司は苦手だ。いつも笑顔で追い詰めてくる。全然目が笑ってない笑顔で。怖ぇんだよ。

「でもね?まだ9月入って半分も経ってないんだ。もう少し社会人としての自覚とか……」

 始まったよ長いんだよたかが遅刻だし今日はさすがに許してくれよ……。

 大体なぜ警報も出てんのに働かなきゃならんのだ。学生時代はよかった。ひたすらに台風に祈りを捧げりゃ休みになっていた。それが社会人になってみろ。台風が来ようが来まいが出勤。狂ってる……狂ってるぜ。

「聞・い・て・る?」

「……へ?っやその……はは」

 お説教が15分延びましたとさ。


「やぁやぁ大変だったねぇ水原くん。重役出勤するならさ、もうちょっと偉そう……にっ……プッ……それがビショビショでっ……っくく」

「ツボんなばかたれ」

 頭をふいている俺に話しかけてきた同期の女。肩まで震わせやがって。

「お前だって髪濡れてんじゃねぇか」

「私は徒歩出勤だから仕方ないのさ」

 そうは言ってもこの女、東雲〈しののめ〉の髪は、ふいたのが分かるくらい本格的に濡れたのを物語っている。

「でも傘さしてたらそんなに濡れねぇだろ。ってことで、ほれ」

「え?なに?」

 東雲はまじまじと俺の差し出した右手を見る。

「いやだから傘だよ傘。昨日貸したろ?」

 そう、こいつが昨日傘を半ば強引に持っていったのだ。今日ほどではないが、普通にザザ降りの雨。家まで徒歩5分と前に聞いていたのだけれど、そこまで俺も鬼じゃない。傘は渋々貸した。

「あ、傘ね。うん、返すよ?返したいんだけど……」

「?家に置いてきたのか?」

「いや!持ってきた!そこは忘れてないよ?てか、さしてきたもん」

「あっそう。……え?お前自分の傘は?」

 えへへ、と照れたように東雲は笑う。

「持ってきてない」

「何で!?帰りどーすんの!?」

「そこまで考えてなくてー……えっと、途中で気づいたんだけど、戻るのおっくうで……まぁ帰りも借りたらいっか!って思ってたんだけど……」

 思ってたんだけどー……と小声で言いながら東雲の目線は左下に泳いでいった。


「勘弁してくれよー……」

 俺は無惨な姿になった傘を右手に呟いた。

「あはは……台風なめてたね。ちょっと油断した途端これだよ」

 東雲はひきつった笑みを浮かべた。

 骨組みがボッキボキになっており、まず修復不能。お気に入りだったのに……。

 今日は何なんだ。遅刻するわ雨に濡れるわ傘壊されるわ。俺が一体何をしたってんだ。遅刻したけど。

「3000円くらいすんのに……」

「え!うそ!!」

「前に言ったよ……」

 東雲の顔から笑みが若干消えた。

「えっと……ごめん……ね?」

 しおらしくなりやがって。そんくらいで俺が許すと思ったら大間違いだ。

「飯おごれよ晩飯。そしたら許す」

「……社食じゃダメ?」

「ダ~メっ」

 東雲を追い詰めるように、思いっきりの笑顔でそう言ってやった。

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