留守番
それじゃあ、とあなたが手を振る。
「じゃあね」
精一杯の明るい声で見送った。
そして、ひとりきりになる。定位置だった部屋の隅にうずくまるけれど、部屋はいやに静かで落ち着かなかった。
――これでよかったんだ。
誰もいなくなれば、この場所は朽ち果ててしまう。私が残ればそれだけは防ぐことができる。
少しくらい寂しくても、これが正解なんだ。
賑やかな輪に入るのは苦手で、でもみんなの笑顔が好きで。
そんな私にとって、部屋の隅は絶好の居場所だった。
みんなの笑顔も見えるし声も聞こえる。うなずいていれば輪の中に入っている気にさえなれる。
それだけで、しあわせだった。
ひとりが去り、ふたり抜け。ついには私ともうひとりだけになった。
残ったもうひとりも話が得意な方ではないらしい。ただ、抜けると切り出せずにずるずると残ってしまった人。
気まずそうに視線をこちらへ向け、目が合うたびに逸らされた。
私もなにか話すことができればよかったのだけど、久しく会話などしていなかったからなにを話せばいいのかわからなかった。
そして、ついに最後のひとりが腰を上げた。
「それじゃあ」
聞きたくなかった言葉。
でも、受け入れるしかない。あなたの笑顔のためならば。
誰もいない部屋にひとり。
思い出だけがとめどなく溢れる。
泣いてしまいそうになるけれど、笑わなければ。私が大好きな部屋だから、大好きな笑顔で満たさなければ。
下手くそな笑顔で、私は今日も留守を守る。