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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

汚れよ、我は返りぬ

作者: 藤黒

 どうも、「李桜」から「藤黒」と名を変えた者です。

 今回は、自分を無感情の人形だと思っている主人公の女性と、新たな家族と展開される御話です。

 然し毎度の事乍ら、作者としては未だ未熟故、少々至らぬ処も有ると思いますので、其処はどうぞ宜しくお願いします。

  序章


 

 そう私が呟くと、隣に座っていた女友達は笑って、そんな事無いよ、と云って呉れます。

 然し私には、彼女の言葉でさえ、“嘘”の様に聞こえて仕方が無いのです。生前、両親は私に云いました。


<御前には、最早生きる価値などない>


 肉親が、唯一愛していた両親から聞いた、そんな醜い言葉。私には理解出来ませんでした。如何して娘の私に、そんな言葉を投げられるのでしょう。

 私は其れを彼女に相談したのです。

 彼女は暫く、う~ん、と唸ってから、ぱっと顔を上げて私に云いました。


「ねえ、紀子ちゃん! 私と一緒に暮らそうよ! 紀子ちゃんは私の大切な友達だもの、放って置けないわ!」



 彼女の家庭はとても裕福でした。父は大都会の或る会社の社長、母は彼の有名なモデル、姉は弁護士。彼女は此の家庭において、誰かの職業の跡継ぎになるのです。


「好いですね、貴女は。・・・とても素敵な家族がいらっしゃって・・・」

「何を云うの、紀子ちゃん。貴女も今日から、私達の大事な家族なのよ?」


 彼女はそう私に云うと、まるで太陽の様に笑って、云いました。

 当時私には人並みの感情も、両親と共に葬ったので判りもしなかったのですが、暖かい、と唯其れだけの温もりは感じました。

 其の時時刻は、午前二時でした。彼女はとっくに別室にて就寝し、私は彼女の直ぐ隣の部屋で日記を書いていました。内容は勿論、新しい家族との新しい思い出。一日一日を書き留めるのに、家に来た初日にこっそりと買っておいたのです。


「あら、何を書いているのかしら?」


 彼女の姉(今私にとっては、義姉も同然の存在)が、私の日記を見る為に、覗き込んで来ました。突然の事だったので、当然私は驚き、椅子事倒れそうになりました。


「な、ななな・・・」

「ふふ、そんなに焦らなくても好いわ。義理とはいえ、可愛い私の妹だもの。何かあったら大変だし、書いている物が有ったら、気になるわ」


 くすくすと笑い乍ら、義姉は云いました。彼女と同じ様に綺麗に笑うものですから、私は一時唖然として、見惚れてしまいました。

 義姉は、私の日記を舐めるように見た後、私に、有り難う、と一言だけ云って、自室へ戻ってしまいました。


「・・・何がそんなに、有り難かったのでしょうか」


 私には矢張り、人並みの感情が無い様です。綺麗に其処だけ切り取られた様に、ぽっかりと穴が開いているのです。故に、私の何が義姉を感謝させたのか、見当もつきませんでした。



 次の日、私は彼女と共に、街へ出掛けました。

 私が新しくあの家庭で暮らすうえでの必需品を、わざわざ家族全員で選んで頂けるという事でした。


「さあ紀子ちゃん、好きなのを選び給え」


 彼女の父(今ではもう義父と云いましょう)が、私に気前好く云って下さいました。然し私の眼前に広がる家具は凡て、高級品にも優る物ばかりで、どれを選んでいいのか判りませんでした。

 私の心情を悟ったか、彼女が義父に云って呉れました。


「御父さん、紀子ちゃんは未だ家に来たばかりなのよ。だから行き成りこんな風に選ばせられても、迷ってしまうわ!」

「ふむ、そうか。では紀子ちゃん、私達が選んであげよう。其れでも好いかい?」


 義父はそう云って少し微笑むと、店員に向けて、此れ等を頼めるかな、と注文しました。此れ等、とは私の眼前に在ったほとんどの家具でした。

 次に向かったのは宝石店でした。余り着飾らない私に、少しは着飾りなさい、と義母が云ったからでした。

 確かに今の私の格好は、袖口が異様に少し膨らんだ形をしている白いワイシャツに、紫一色のネクタイ、瑠璃色の短いズボンに、膝下からはまるで海の様に青いブーツを履いています。傍から見れば、少し可笑しな格好でしょう。

 すると、彼女が云いました。


「そうだ。此れなんて如何かな?」


 彼女の手に在ったのは、二つのサファイアでした。きらきらと、店の電灯に合わせる様に輝き、美しくも儚い青い星の様でした。彼女は私の手にサファイアを置くと、じゃあ此れは私たち家族からの贈り物という事で!、と云いました。

 先程は義父に家具を頂いたうえに、此れ程迄に高価な宝石を頂いた私の心は、現れるようでした。此の世に産まれて初めての“贈り物”だったのでした。生前生きていた本当の両親からは、一度も贈り物を貰った事が有りませんでした。

 私達は其の日、買い物を無事に終え、帰宅しました。勿論就寝前に、私は何時もの様に日記を書き記しました。


“三月八日。今日は新しい家族と共に、買い物へと出掛けました。私が望んだ本当の家族の風景が、今の家族に在ったので、とても羨ましく思いました。御義父様が私に、沢山の家具を下さり、彼女と御義姉様と御義母様からは二つのサファイアを頂きました。どれも高価な物ばかりで少し戸惑いましたが、暖かな皆様の表情を見ていると、矢張り貰っておくべきですね、と思ってしまいます。彼女に先程、貴女の望みは何、と聞かれ、私は・・・”


 其処まで書いたところで、私の手は止まりました。日記に、どんどん滴が落ちて行きます。

 “私の望み”。其の言葉を思い出すと、胸の辺りがきゅっと締まり、とても苦しくなるのを感じます。そうですか、やっと思い出しました。幼い頃生前の両親から課せられた、此れが“無知”という感情モノですね。

 理解していく間にも、私の目から流れ出て来る涙は、次々と日記の頁に零れ落ちて行って、書いた後の文字をシミと化していきます。


「如何して・・・今更・・・」


 “暖かさ”とは“無知”、“無知”とは“絶望”。嘗て私が両親から唯一教わった感情で、今の家族に新しく芽生え始めた、卑しくも醜く、汚い感情。

 今の家族に不服を持つ私なんて、本当は、居ない方が好いのではないでしょうか。心中を図って死んで逝った私の両親の様に、私も亦、彼等の様に死んで逝くのでしょうか。



 私は豪邸を出て、一つの丘に遣って来ました。

 飛び出して来たものですから、息が上がり、中腰になって慌てて整えます。此処に居ると誰かに知られては、きっとあの家族にも知らせが届く筈でしょうから、絶対に其れは避けておきたいです。


「・・・此れでやっと・・・」


 私は予め持っていた銃を、自身の頭へ向けました。“死”への恐怖で手が震えますが、もう此れしか手は有りません。

 意を決し、思い切り引き金を引きました。パァン、と乾いた音が辺りに響き、私の身体は大きく動いて倒れて行きます。


――――私は気付いてしまいました――――


――――此の世において、人は皆、綺麗な人なんて居ません――――


――――ましてや私なんて、以ての外です――――


――――知りたく無かったのです――――


――――怖くて、辛くて、悲しくて――――

 如何だったでしょうか?

 気分を害されるような事をお書きしました事、御詫び申し上げます。然し私は少々残虐な性格故、如何してもこうなってしまうのです。

 どうぞ、此れからも宜しくお願い致します。

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