Extra story / Tadashi Danzyou 3
目の前で繰り広げられているのは、かつて嫌と言うほど見てきた光景。
あの頃と違って、オレは学生でもなんでもない。
今オレがこの理不尽なイジメを止めたところで、別にオレがイジメられるわけではない筈だ。
でもオレは何もできない。何も言えない。
…どうしようもなく、怖い。
自分がイジメられるのではないかと、二年間もおびえ続けてきたんだ。
仕方のないことだ。
…仕方のない、筈だ。
舞台の上のイジメられている少年と目が合う。
その顔は、あの時のあいつの、かつての親友のものと全く一緒だった。
やめてくれ。オレをそんな顔で見ないでくれ。
オレは何も言えない。オレには何もできない。
オレは一生、自分を偽り続けるしかできないのだから。
そう、一生…。
…嫌だ。
「…めろ。」
最初のつぶやきは、小さすぎて観客の声にかき消された。
オレは思い切り息を吸い込み、立ち上がる。
「やめろ!!」
全てが止まった。舞台の上の理不尽も、観客の罵声も。
壇上の暴虐者たちに、オレは叫んだ。
「そんなことはもうやめろ!お前らだってもう気付いてるだろ、こんなことしても自分が壊れていくだけだって!」
次いでオレは周りの観客へ向かって叫ぶ。
「お前らももうこれ以上やめろ!見たくもないものを見て楽しむふりなんてしなくていい!こんなものを楽しむ人間なんていない!もしいるとしたら、そいつはもはや人間とは言えねえ!」
オレは叫び続ける。もう、誰に、何のために声を荒げているのかも分からない。
「オレは今までずっと自分を偽ってきた!自分の本心を出すことで傷つくのを恐れて、逃げて、隠れ続けてきた!
でももう偽れねえ!逃げも隠れもできねえ!
オレは気付いちまった!これ以上、こんな惨めな生き方はできねえことを!この思いは、もうどんな恐怖にも吹き飛ばされねえ!
オレはこれから這いつくばってでも、自分の本心をさらけ出して生きてやる!」
静まる劇場。その中で、オレの荒い息の音だけが響く。
無限にも感じられる時間の中で、突然轟音が静寂を破く。
それは、劇場に響く割れんばかりの拍手だった。観客の誰もが立ち上がり、手を叩いている。
「な、なんだ、一体?」
長い拍手の後、観客たちの姿が薄くなっていく。
一人、また一人と消えていき、最後にはだだっ広い観客席にオレ一人だけが残っていた。
「あれは全員、今まで偽ってきた君自身たちさ。」
突然声が聞こえて、オレは慌てて舞台を振り返る。
壇上には、かつての親友が一人残っていた。
いや、あいつの姿をした何か、と言うべきか。
「お前は一体なんなんだ?」
「それに答える前に、やることがある。」
そいつはオレの顔を指さすと、指から白い弾を生み出し、俺に向かって撃った。
「えっ?!」
弾はオレの顔に直撃し、オレの視界にヒビが入る。
不思議と痛みは感じなかった。
そして何かが、オレの顔から剥がれ落ちた。
「それは今まで君が演じてきた役の仮面だよ。」
オレは割れた仮面を拾い上げる。
それはピエロの仮面だった。
顔で笑って、心で泣く、悲しきピエロ。
「最期に役目を果たせた。君に会えて本当に良かった。
力をあげる。偽りの姿を撃ち抜ける、君が先に進むための力を。」
そういうと、そいつの体は透けていき、オレの中へと消えていった。
唐突に湧き上がる様々な感情や記憶のなかで、オレはすべてを理解した。
ここがなにか、自分がどういう状態か、今のは一体なんだったのかを。
さあ、オレは生まれ変わった。
これからは感じるがままに生きよう。
さしあたってはまず。
「…だるいから寝よう。」




