Extra story / Tadashi Danzyou 1
オレがそのメールを開いたのは、飲み屋帰りのタクシーの中だった。
ほろ酔い気分で後部座席でうつらうつらしていると、ポケットの中のスマホが振動したのを感じた。
仕事関係のメールだといけないのですぐに取り出して、チェックする。
だがメールを開いた途端、スマホの画面が暗くなる。
「あれ、電池がきれたかー?」
「お客さん、どうかしましたか?」
「いや、何でもないよ。ちょっとスマホが…。」
そこから先の言葉を、オレは発することが出来なかった。
「お客さん?どうしました、お客さん?」
突然激しい光の点滅を始めた画面を見て、オレは意識が遠くなるのを感じた。
気が付くと、オレは劇場のような場所の観客席に座っていた。
前方の舞台には幕が下りていて、何も見えない。
辺りを見渡すと、観客席にはオレ以外にもたくさんの人が座っていて、ほぼ満席になっている。
妙なのは、オレ以外の観客皆が仮面を着けていることだ。
普通ああいう仮面は観客ではなく役者が付けるものだと思うのだが…。
その時、ブザーの音と共に劇場内が暗くなる。どうやら劇が始まるらしい。
幕が上がった。
薄暗い舞台の上、スポットライトを浴びながら最初に出てきたのは、オレの上司だった。
彼は観客席を、いや、観客席のオレの方を見ながら言う。
「お前のプレゼンは、全く心に響かない。本当に本気でやっているのか?」
その言葉は、オレが最近上司に言われたことそのものだった。
次に出てきたのは、去年まで付き合っていた元カノだった。
彼女は言う。
「いくらあなたが私に『愛してる』といっても、私はそれを信じられない。あなたの言葉は本当にあなたの本心?」
それは、彼女がオレに別れを切り出したときの言葉だった。
その次は、大学時代の射撃部の先輩。
「お前ってさ、なんかいつも本心を隠してるよな。それが不自然で、なんか気味が悪く感じることがあるよ。」
これは射撃部の飲み会で酔った先輩に言われた言葉。
みんな正しい。
オレは自分の本心を言えない。
いつもオレは、自分を隠し、偽り、演じながら生きてきた。
だって、そうしないと、オレは…。




