the mad monster and white bullets 7
上着を脱いで絞ると、水分が滝のようにあふれ出てくる。
全身ねちょねちょしていて気持ちが悪い。
巨犬が「ん、なあに?」と言いだしそうな無邪気な表情でこちらを見ているのが逆に憎々しい。
「ああ、もう!だから嫌だったんだ!」
「な、なんかすまねえ兄ちゃん。まさかいきなり噛みついて来るとは思わなくて…。」
「想定外。」
『向こうはじゃれついて遊んでただけのつもりなんだろうけどねー。』
じゃれつかれるたびにこんな生きた心地がしない思いを味わうなんて、たまったもんじゃない。
「これで分かったろ!こいつは危険だ!さっさと行こうぜ!」
上着を羽織りなおして、俺は歩き出した。
リョウたちも後から付いて来る。鞘華は随分と名残惜しそうだ。
「ごめん、でも私にはリョウ君がいるから。」
巨犬の鼻を撫でながらそう言って、鞘華も追いついた。
…こいつ絶対可愛いものに目がないタイプだ。
いつも無表情で名前はあんなにごついのに。
まあ、名前は関係ないか。
巨犬は尻尾を振りながら、座ってこちらを見送っている。
こうして遠くからみれば可愛く見えないこともないな、と、そんなことを考えながら森の奥へと向かおうとしたとき。
「わん!」
突然突風が吹き荒れ、俺たちは思わず目をつぶる。
目を開けて最初に見たのは、見覚えのある巨大な犬の顔。
「ハッハッハッハッ。」
そう、俺たちは一瞬で巨犬に追いつかれ、回り込まれ、行く手を遮られていた。
巨犬の大きくてきらきらした目を、激しく振り回される尻尾を見れば、こいつが何を言いたいのか嫌でも分かる。
もっと遊ぼうよ、と。
こいつはそう全身で訴えかけてくる。
…冗談じゃねえ!
「逃げるぞ!」
俺たちは回れ右して全力で走り出した。巨犬は見送るだけで動かない。
だがある程度距離が開くと、巨犬はすごい風を起こしながら走りだし、あっと言う間に追いつかれ、回り込まれる。
無駄なランニングを繰り返すこと数回。
俺たちは、巨犬に完全に遊ばれていた。
しかも巨犬はまだまだ満足した様子はない。
むしろヒートアップしてる雰囲気を醸し出している。
「ゼエ、ゼエ…。どうするよこれ…。先に進めないぞ…。」
息を切らせながら、弾正さんが言った。
「…私に任せて。」
そう言うと、鞘華はおもむろに近くの木に近寄る。
「…?どうするんだ?」
「まあ見てて。」
鞘華は銀雪を構えて横に振るい、巨大な丸太を作ると、それを持ち上げようとする。
「ふんっ…。」
「手伝おうか?」
「荒木はいい。他にやってほしいことがある。弾正、手伝って。」
「マジか…。走って疲れてるんだけどね…。」
ぶつくさ言いながらも弾正さんは丸太の反対側を持つ。
鞘華と弾正さんはそのまま丸太を巨犬の前へと持っていく。
巨犬と比べると、太い丸太もまるで小枝のようだ。
巨犬は丸太を目にすると、それに吸い寄せられるようにじっと見つめる。
それを見て、俺も鞘華がなにをしたいのか分かった。
「リョウ、ハンマーになれ。」
『…?うん、いいよー。』
ハンマーになったリョウを構えて、俺はその時を待つ。
鞘華たちは巨犬の前で丸太を二、三度振ると、俺の方へ放り投げてきた。
それ目掛け、俺は思い切りハンマーを振るう。
「そりゃ、飛んでけ!」
明後日の方向に猛スピードで飛んでいく丸太。
「わんわん!」
それを追いかけて、巨犬は一目散に駆けていった。
「今だ!逃げるぞ!」
俺たちはその隙に、巨犬が行った方とは逆方向に走った。
こうして俺たちは、新たな仲間と共に無事に先に進むことが出来た。




