first battle with the monstrous rabbit 4
「荒木!離れて!」
鞘華の声を聞くと、俺はハンマーを思い切り横に振り、その勢いに身を任せてその場を離脱する。
「銀雪よ、私を縛ろうとする鎖を斬り裂け。」
直後、俺の横を銀色の光が抜けていく。
そう、彼女に隙を見せればこれが来ることになる。
この衝撃波の塊で黒い鎖を破壊し、前に出れば鞘華が、出なければ俺がもう一つの錠前を破壊する。
それで俺たちの勝ちだ。
その筈だった。
化けウサギは迫りくる銀光を見ると、にやりと笑った。
そして自らの操る黒い鎖の一本を銀の光にぶつけた。
「なっ!」
想定したより手前で爆発が起こり、俺はバランスを崩す。
慌てて体勢を立て直し顔を上げると、目の前には黒い鎖。
「荒木!」
鞘華の叫びの甲斐なく、俺は腹に一撃受けて吹き飛んだ。
「がっ…。」
「大丈夫、荒木!」
鞘華が駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫だ…。それより、あいつを。」
「分かってる!」
鞘華は隙なく銀雪を正眼に構えている。
一方、化けウサギはニマニマと笑いながら鎖を振り回している。
こうなるとこちらが不利だ。
俺に大技がない以上、鞘華の衝撃波が効かなければ決め手がない。
それに対して相手は近、中距離ともに攻撃手段があって、しかも黒い鎖はいくら壊したところで再生する。
このままじゃやられる。どうしたらいい?
必死に頭を巡らせるが、何も浮かばない。
化けウサギがこちらに一歩踏み出してくる。俺は立ち上がり、再びリョウが化けたハンマーを構える。
手段がなくても、諦めるわけにはいかない。
ここで諦めたら、一生目覚められなくなるかも知れない。
余りにも危険で無謀な戦いが始まろうとした、その時。
ふいに化けウサギが、チョッキから何か取り出し、開く。
それは時計だった。
「クケケケ…。遅刻ダ。」
そう言い残して、唐突に化けウサギは走り去り、霧の中へと消えていった。
こうしてウサギとの最初の戦闘は、限りなく俺たちの敗北に近い引き分けに終わった…。
「大丈夫か?骨とか折れてないか?」
「もう大丈夫だって。そもそもここは現実じゃないんだから、多少の怪我なら問題ないだろ。」
『だーかーらー。ここで怪我するとどんな影響があるか分からないんだってば。無茶しないでよー。』
大丈夫だと言う俺を心配して、鞘華とリョウは半強制的に俺を寝かせて休ませている。
鞘華なんて休まないと斬るなんて言い出す始末だ。
それじゃあ本末転倒だろうに。
「ごめんなさい。」
ぶつくさと文句を言っていると、鞘華が唐突に謝ってきた。
「私があの時錠前を二つとも斬るべきだった。あれが唯一のチャンスだったのに…。」
「いやいや、あの一瞬で正確に斬れる時点で十分に凄いよ。」
「でも…。」
「頼むからこれ以上謝らないでくれよ、自分が情けなっちまうじゃねーか。俺はなんにもできてねえんだから。」
そう言うと、鞘華は目をパチクリさせた後、クスリと笑った。
「…ありがと。」
鞘華は俺が冗談で言ったと思っているらしい。半分はマジなんだが、ま、余計なことは言わなくていいだろう。
『そう言えば戦闘中、頭痛と一緒に誰かの記憶が流れ込んできたよね。』
「ああ、あれか…。」
あの時、俺は混乱の中で少しだけ温かい気持ちになった。何故だろうか…?
「あれは一体なんだったんだ?」
『これは推測なんだけどねー。多分あの大きな錠前を破壊したときに、それを構成する歪みに含まれる記憶が解放、放出されたんじゃないかなー?』
「成程な。」
そうなると、あの黒髪の少女がアリスってことになるのか?
『うーん、でも何か違うような…。』
「そうなのか?ま、うじうじ考えても仕方ないだろ。」
そう言って、俺は起き上がる。
「荒木、もう休まなくていいの?」
「ああ、もう十分休んだ。ありがとな。だからさっさと先に行こうぜ。俺たちは早く目覚めなきゃいけないんだから。」
「そうね。私も起きてやらなきゃいけないことがたくさんある。」
俺たちは再び歩き出した。




