Extra story / Sayaka Kitou 2
そして場面はまた変わる。
聞いてしまった。
京子と彼女のグループの子達が楽しそうに話す内容を。
わざわざ私と付き合ってあげていたこと。
私についてありもしない良くない噂を流したこと。
勝手に私の名前を出して相手を脅し、好き勝手やっていたこと。
「本当、ネクラはチョロくて助かるわー、ぎゃははは。」
「マジ利用しやすいし、流石ね、京子。」
「あたしだったらあんなのと付き合うとか無理だしー。」
アハハハ…。
…。
京子はただただ、微笑んでいた。
私は黙って立ち去った。何も聞かなかったことにして…。
『本当に、それでいいの?』
「嫌あああぁあああぁぁぁぁぁぁあ!!」
私は思わず叫ぶ。
気付けば周りの景色は打って変わり、蜘蛛の巣だらけの暗い洞窟の中、巨大な蜘蛛の巣に磔にされていた。
目から涙があふれる。
膝が震える。
もう何が何だか分からない。
折角忘れていたのに。
何も聞かなかったことにしていたのに。
『可哀想に。』
声がした。
顔を上げれば私の姿をした、何か。
『だまされて、利用されて、気付けば全てを失って。』
それは私に手を差し出す。
『私が助けてあげる。楽しかったことも悲しかったことも、私が全てを忘れさせてあげる。』
私はその手に唯一自由に動く自らの右手を伸ばす。
一刻も早く、この苦しみから逃れたかった。
手を取ると、少しずつ目の前が暗くなっていく。
意識が完全になくなる直前、記憶がよみがえる。仲間たちとともに竹刀を振り、笑い合った日々を。
「…ダメ。」
私は手を放す。
一気に視界がクリアになる中、それは私の顔で驚きの表情を作る。
『…どうして?』
仲間たちと過ごしたあの日々まで、なかったことになんかできない。
出来ることなら。
「…戻りたい。」
あの日々に。
再び涙が零れてきて、私は俯く。
目の前のそれは微笑むと、突然私を抱き寄せる。
私が驚きで目を見張る中、それはゆっくりと透けて、私に重なっていく。
『気付いてくれて、ありがとう。』
完全に私にそれが重なり消える前に、それは言った。
『…今ならまだ戻れるはずよ。』
完全にそれが消えると同時に私の中にたくさんのものが流れ込んできた。
そして理解した。
今私の中に消えていったのは、私自身が受け入れられず、弾き出していた現実であり、望みであり、苦しみであることを。
知識と記憶と感情の奔流が収まると、今まで見えてこなかったものが見えてくる。
思考がクリアになり、自分が今どうなっているのか、何をすべきか自然と思い浮かぶ。
「銀雪。」
呼ぶと、私の思いに呼応してその抜き身の刀は現れる。
右手でそれをつかみ取ると、私はそれを構えて目を閉じる。
銀雪よ、私を捕えて放さない蜘蛛の糸を全て斬り裂け。
私は思い切り刀を振るう。
銀雪の刃が輝き、視界が白く染まった。
ついで起こったのは強い風、凄まじい轟音。
それに構わず、私は操られているかのように無心で銀雪を振るい続けた。
気付いた時には、私を縛っていた蜘蛛の巣は消え去り、洞窟にはあちこち穴が開いて光が差し込んでいた。
こうして私は手に入れた。
人生を切り開く力を。
京子。
あなたはどう思っていたか分からないけど、私はあなたと一緒に過ごした時間、楽しかった。
だから、もうあなたに依存したりしない。
その思い出を、これ以上黒く染めたくないから。
さよなら、京子。
さよなら、弱い自分。




