the opening of the war 1
そのメールの着信があったのは、バイトの帰りの電車の中だった。
題名は『Please help Alice.』 アリスを助けて。
どうせゲームかマンガの宣伝だろうと思ったが、一応メールを開いてみると、画面が急に黒くなった。
「…ん?」
スマホの画面を何回かタップしてみても何の反応もない。電源が切れたのかと思った時。
画面が突然明るくなり、点滅を始めた。
何か変なウイルスをもらったのか。そう考えたのを最後に俺の意識は途切れた。
後で聞いた話だが、そのあと俺は電車の中で倒れて、病院へ運ばれたそうだ。
ニュースをあまり見ないので知らなかったが、最近日本各地で突然意識を失う人が続出していたらしい。
病院で検査をしても、俺を含めて誰も異常はないのに意識が戻らない。
あらゆる医療機関が匙を投げた中で、とある優秀な科学者が治療に取り組むことを表明した。彼は、彼の研究所に俺たち患者全員を集め、研究し始めた。
暗い部屋に大きなコンピュータが一台置かれ、薄い光を発している。その光に照らされているのは、一人の男。
彼はつぶやく。
「…第一段階は上手く行ったか。だがまだ始まってすらいない。一人でも第二段階まで残れるといいのだが…。」
彼は立ち上がり、部屋を出る。
誰もいない部屋で、コンピュータのファンの音だけが鈍く響いていた。
ふと気が付くと、俺は道路の真ん中に立ち尽くしていた。
辺りは霧が立ち込めていてよく見えないが、建物の影が霧を通して見えるので一応町中にいるのは分かる。
ここはどこだ?
どうして俺はここにいる?
俺は一体誰…なのかは分かる。龍太だ。今年から大学生になって上京した荒木龍太だ。
どこまで覚えている?
いつも通り大学で授業を受けて、帰りにコンビニでバイト、晩飯を近くの牛丼チェーンで済ませて、家に帰るための電車に乗った。そこで変なメールを受信して、そしたらスマホの画面が急に光出して…。
ダメだ、そこから何も思い出せない。
持っていたカバンとスマホは見当たらない。電車に置いてきたのだろうか?
とりあえずこんなところで突っ立っていても仕方がない。俺は誰か人を探すために歩き出した。