6話 幼馴染と魔女の契約を結んだら
救護所が設置されている建物の中に入った俺は俯きながら歩を進めた。怪我を負った兵士たちが各々、誰かに助けを請うように唸っている。そんな姿が痛々しくて、目に焼き付いてしまいそうで、俺は見ることが出来なかった。
リリムに案内され、一室に入る。白衣を着たエルフの女性の看護を受けながら、制服の腕の部分を赤く染めた真理が机の上で横たわっていた。
「真理。大丈夫か?」
俺の問いに、真理がゆっくりとこちらに顔を向け、小さく頷いて返す。体温が高くなっているのか、顔は赤く火照っており、呼吸することすら苦しそうだ。全くもって、大丈夫そうには見えない。俺はエルフの女性に視線を移した。
「一通りの治療行為は済んだのですが……」
エルフの女性が言葉に詰まる。
「どうかしたんですか?」
「この方の腕を貫いた矢には毒が塗られてあったんです。一応、毒を消す薬も飲んでいただいたんですが、人間にも効くはずの薬が効かないんですよ」
エルフの女性が肩を落とす。薬が効果を発揮しない以上、なす術はないということか。いや、そもそも真理だって紛うことなき人間だ。何故、効かないのだろうか。やはり、異世界から来ていることが原因だろうか。
真理の体は毒のせいで麻痺しているらしく、体を起こすことすらままならないらしい。俺は真理の傍に寄り、頭を撫でる。
「リリム。何とか治す方法はないのか?」
俺の問いに、リリムが徐に答える。
「方法が一つだけございます。真理様と魔女の契約を結ぶのです。魔女になれば、毒や病気への抵抗力が普通の人間とは比べ物にならないぐらい、強くなりますので」
そう言えば、この間。魔女がどうとかって言っていたな。
「どうすれば、魔女の契約を結べるんだ?」
俺の問いに、リリムが珍しく真剣な顔つきをする。そして、「春弥様と真理様が体を重ねるのです」と、答えた。俺は眉をひそめる。
「衰弱している真理の上に乗っかれと言うのか?」
「そういうことではなく、男女の関係になれということです」
男女の関係といえば、考えられることは一つだけ。こんな状況で性行為をしろとでも、この少女は言うのだろうか。
「いや、待てよ。そんなこと出来るわけないだろ?」と、当然の如く、俺は否定をした。
「何故、出来ないのですか? 躊躇している余裕はないんですよ。それに、真理様にも既に確認し、承諾は頂いております」
「そんな馬鹿な」
俺は真理の顔を見る。真理は小さく頷き、か細い声で、「お願い。春弥」と懇願するように、肯定する。
「でも、いきなりそんなこと言われても、俺経験ないし」
「大丈夫だよ。春弥。私もだから」
真理が笑みを作る。それが、余計に俺を困惑させる。そもそも、何が大丈夫なのか、俺には分からない。
「第一、そんなことしたら真理の体がもたないだろ」
「勿論、真理様の体力を削るような激しい行為は自重していただくことになります。ですが、真理様を助ける方法はこれだけなのです」と、リリムが強く言う。
真理に死なれるのは困る。だからと言って、体の弱っている少女を相手に、性行為をするのは倫理上やばいのではないだろうか。そんな考えが、頭の中を駆け巡る。
「真理。本当にいいのか?」
「だから、覚悟が出来てないのは春弥だけだよ」
俺の再三の問いに、真理が呆れたと言わんばかりの表情を作る。何を躊躇っているのだ俺は。想い人の真理が良いと言っているのだ。むしろ、真理と一つになれるように願い、また、そのときの状況の妄想までしたではないか。
「春弥のこと、大好きだから。大丈夫だから。その代り、一生傍にいさせて」
「分かった」
真理の言葉で俺も決心する。ここで、異世界で、戦場で、童貞を真理に捧げようではないか。俺はエルフの女性に部屋を出るように頼むと、真理が来ている制服を恐る恐る脱がした。腕には包帯が巻かれているが、制服と同じように赤く染まっている。
俺がアンダードレスに手を伸ばすと、「少し待ってください」と、リリムが制止する。そして、リリムは俺の唇に、自分の唇を押し付けてきた。更には、強引に俺の口をこじ開けると、自分の舌を俺の口の中に侵入させてくる。俺は逃げようとするが、それを察したのか、リリムが俺の頭をしっかりと掴んだ。
「おい、何をするんだ」
解放されるのと同時に、俺はリリムに問いただした。
「魔力が尽きていたようなので、僭越ながら私の魔力を春弥様に移させていただきました。これで、魔女の契約が出来るぐらいの魔力は回復しているはずです」
そう言えば、魔族の兵士を召喚するのに魔力を使い果たしていたことを忘れていた。
「だからと言って、キスすることないだろ。それも、ディープだぞ」
取り乱す俺をあしらうかのように、「それが手っ取り早いのです。さあ、先程の続きを」と、催促する。文句を言う時間すら、リリムはくれないようだ。まあ、美少女と口づけを交わすことが出来たのは、嬉しい気持ちもないではないが。
俺はため息をつきながら、真理の顔に目をやると、真理が俺を見つめながら小さく頷いた。
俺はアンダードレスを脱がし、ブラジャーのホックを外す。良く言えば、控えめで、謙虚で、悪く言えば貧乳の胸が露わになる。すると、リリムが「お邪魔虫は外に出てますね」と言いながら、部屋を出て行く。
俺は真理の体に抱き付き、真理にも「背中に手をまわしてくれ。痛かったら、爪を立てていいから」と、願った。そして、軽く真理と口づけを交わすと、真理の首筋に自分の舌を這わせることにした。
◇
ゴブリンが攻撃の手を止め、砦を守る兵士たちにも一時の休息が与えられる。俺は警備を魔族の兵士たちに任せ、真理の元に行くことにした。
真理の部屋に入ると、真理が俺に気付き、体を起こす。すっかり、元気を取り戻したようだ。看護をしていたエルフの女性が言うには、毒の症状が完全に消え去っているらしく、俺は魔力の凄さを改めて、実感させられることとなった。
「もう、大丈夫か」
俺の問いに、無言で頷く真理。頬を仄かに赤くさせているのは、毒による高熱のせいではないと思う。俺は人差し指で頬を掻きながら、窓の外を眺める。気まずい。気まず過ぎる。何せ、今から僅か数時間前に二人仲良く大人の階段を上ってしまったのだ。言葉が思いつかない。
何か言わないとと思っていると、真理が沈黙を破ってくれた。
「ごめんね。春弥。私なんかと、そのエッチするはめになっちゃって」
「そんな言い方するなよ」
「でも、春弥の彼女にも悪いし……」
俺は首を傾げる。俺の知らないうちに、俺に彼女が出来ていたのだろうか。いや、そんなわけがない。
「彼女なんていないし、出来たこともないけど」と、俺が否定すると、真理は口を大きく開ける。驚きが隠せないようだ。悪かったですね。彼女いない歴と俺の人生の歴史の長さが同じで。
だが、真理が驚いていたのはそのことではないらしく、「委員長と付き合ってるって聞いたけど」と、予想の付かない言葉を返してきた。
「委員長って、清水さんのこと? いや、確かにその子とは仲はいいけど、付き合ってはいないぞ」
「あれっ?」
真理が頭を抱えている。何か誤解をしていたようだ。
「真理の方こそ、俺なんかとエッチすることになって、嫌だろ。ごめんな」
俺の言葉を、真理が首を強く横に振り、否定する。
「全然、嫌じゃない。もっとしてほしいぐらい」
「おいおい、真理。冗談はやめろって。真に受けちゃうだろ」
「冗談じゃないよ。私。春弥のことが好きだから。幼馴染としてではなく、一人の異性として。春弥はどうなの?」
当然、ここで逃げるわけにはいかない。俺だって、空気の読める男だ。自分の素直な気持ちをぶつけるべきだということぐらい分かっている。
「俺も真理のことが好きだよ。幼馴染じゃなくて、一人の異性として」
「だったら、既成事実も出来たわけだし、私と付き合ってくれるよね」
真理が首を傾げながら、聞いてくる。否定なんて出来るはずがない。
「勿論だ。というか、告白は俺の方からしたかったな。それに、一生傍にいるって約束しただろ」
俺はそう言うと、ベッドの上に座り、身体を真理に近付けさせ、口づけを交わしたのだった。
あまりエッチな内容にはならず、予告詐欺をしてしまったようですね。すいません。
次回は「援軍が来たら」を投稿します。ハーレム候補のキャラクターを新たに登場させる予定です。(予定は未定)
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