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プロローグ

 高校の卒業式を終えたばかりのことだった。


 クラスメイトたちとの別れの挨拶を一通り済ませた俺は、幼馴染の真理まりの姿が見えなくなったことに焦りを覚え、校庭の中を走り回っていた。


 どこぞの誰かから告白でも受けているのではないかと心配をしていたわけだが、校門の外に目をやったことで、心配の形は全く違うものに変わることになった。


 俺の目に飛び込んできた光景は信じられないものだった。まるで、糸で操られている人形のように真理がふらふらと車道の中央分離帯を歩いている。人生の大半を一緒に歩んできた幼馴染だ。後ろ姿とはいえ、見間違えるはずがない。あの短い黒髪と、小さな身体は間違いなく真理のものだ。


 俺は今までの人生を振り返ったとしても、出したことのないような大きな声で、真理の名前を呼んだ。いや、叫んだといった方が正しいだろうか。どちらにせよ、俺の声も車のクラクションの音も真理の耳には届いていないようだった。


 危ないことをするのは勘弁してほしい。俺はそう思いながら、慌てて校舎から出る。だが、思いが通じるはずもなく、真理は俺の存在に気が付くと、悲しそうな顔をしながら、車道に足を踏み入れた。


 既に、真理の近くまでトラックが迫って来ている。このままではねられてしまうと思った俺は、無我夢中に真理の傍に駆け寄り、そして、真理の身体を突き飛ばした。


 何かしらの衝撃を身体に受けることになると思ったが、痛みを感じることすらなかった。即死したのだろうか。そんなふうに思っていた俺は、後頭部に感じる柔らかな感触に気が付き、おもむろにまぶたを開けた。


 涙を流す真理の顔が見える。どうやら、真理が膝枕をしてくれていたようだ。俺は起き上がり、辺りを見渡した。


 車も走っていなければ、無機質なアスファルトも文明の産物も目にすることが出来ない。あるものといえば、誰からの制約を受けることなく自由気ままに育つ木々たち。どこかの森の中のようだが、通っていた高校の近くにこんな場所はなかったはずだ。


 想像していたものとは少し違うが、俺は天国に来てしまったのだと悟り、そして、肩を落とした。今の状況そのものが、真理を助けることが出来なかったことを意味するからだ。後悔の念を抱きながら、自分の不甲斐なさを怨みながら、これからどうしようかと考える。


 天使でもやって来て、どこかに導いてくれるのだろうかと考えていると、一人の少女が俺に声を掛けてきた。


「ここは天国ではありませんよ。良かったですね」


 声のした方に目をやると、少女が枯れ木を椅子代わりにして座っていた。透き通った白い肌に、金色に輝く長い髪。そして、美人の部類に入る西欧人のような顔立ちをしているその少女は、リリムと名乗った。


 リリムは今の状況について説明をしてくれた。だが、俺には突拍子すぎる話だった。


 俺と真理の二人がいる場所は、既に俺たちがいた世界とは違う世界なのだそうだ。つまりは、俺たちは異世界に飛ばされてしまったということ。更にリリムは人間ではなく、俺が持っている魔力を使って冥界から召喚された魔族らしい。


 いつもの俺なら、そんな話を信じるわけがないのだが、トラックにはねられたはずなのにこうして何不自由なく体を動かすことが出来ることや、少女の背中に生えている蝙蝠のような漆黒の羽を目にした俺には、リリムの話を否定することは出来なかった。


 俺は、「ごめんなさい。ごめんなさい」と、目の下を赤く腫らしながら謝罪を続けている真理の頭を撫でると、ポケットの中から取り出したハンカチを真理に差し出した。


「ほら、泣き止みなって。そんな顔を見ている方が辛いよ」


「でも……」


「むしろ、助けてやれなくて、すまんな」


 俺がそう謝ると、泣き止もうとしていた真理が再び目に大きな涙を浮かべ、俺に抱き付いてきた。俺の心臓の鼓動の速度が速くなる。


 相手が幼馴染とはいえ、俺は彼女いない歴が人生を過ごした年数と同じ人間なのだ。こういったことに免疫がない。ましてや、俺は真理に対し恋心を抱いている。


 リリムが俺たちのことを見て、にやついていることに気付き、俺は誤魔化すように、「俺たちはこれからどうなるんだ?」と、聞いた。


「それなら、冥界の主から言伝があります」


 冥界の主か。それはまた、スケールが大きいことで。


「主様には、天界の神がこの世界に派遣した勇者と戦っていただきます」


 俺は首を横に振り、拒否の姿勢を見せる。


「戦うって言ったって、俺はただの高校生だぜ。まあ、卒業したから正確には違うが、それでも、無理な話だ。それと、俺の名前は春弥はるやだ。主様なんて呼ばないでくれ」


「そうですか。では、春弥様」


 リリムが俺の傍に寄って来て、顔を近付けてくる。俺は冷静を装いながら、「何だ?」と、聞いた。


「春弥様には戦っていただかなくては困ります。そのために、この世界に来ていただいたのですから。それに、勇者に勝てば二人揃って元の世界に帰れるのですよ。お望みなら、この世界で得た財産だって持ち帰れます」


「つまり、勝たないと俺たちは元の世界に戻れないということか? というか、敵が勇者ということは俺は物語でいう悪役の立場なのか? もしかして、魔王とか?」


 リリムが顔を背ける。図星のようだ。俺はため息をついた。


 本来ならば、断るところだろうが、今は自分のことだけを考えておけば良いという状況ではない。この世界には真理も来ているのだ。俺のことはともかくとして、こいつだけは元の世界に戻してやらないと。やるしかない。俺は心の中で、そう決意する。


「大丈夫ですよ。私めがサポートいたしますし、それに……」


「それに?」


「春弥様には魔族を召喚する能力があるのですから」


 リリムはそう言うと、不敵な笑みを作るのだった。 

 はじめまして。さわがになおと申します。


 初めての投稿ですが、よろしくお願いします。

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