選手権
悲惨だ。酷過ぎる。
殺し合い、生き残った百人が異世界へ転生できる。
異世界を救える優秀な力を持った者にその権利を渡すと……。
奴はそう言った。
初めは誰も反応出来なかった。当たり前だ。
恐らくここにいるのは俺も含め今さっき死んだばかりの連中だろう。それなのに、また死ぬかもしれないなんて笑えない冗談だ。
しかし、次の瞬間全員の手には武器が握られていた。
それらは剣や槍、弓などに加えマシンガンやチェーンソーと多種多様だった……が、中には明らかに”ハズレ”だと分かる物も。
俺のなんてその典型だ。
――ただの布だからな
こんな物、武器にも防具にもならいぞ。
優秀な者を選定するつもりなら同じ条件で戦わせなきゃ駄目だろ。
……もしかしてその人が一番効果を発揮させられる物を持たせたとか、そんな感じか?
いや違うな、だって俺の布だもん。
そんな事を考えていたら、何処からか悲鳴が聞こえた。
プレッシャーに耐えきれなくなったのか誰かが誰かを殺したなんて会話が聞こえてきて……それからだ。
そこからは周りの人が次々と殺されていく光景だけが広がっていった。
まさに地獄絵図だ。
そして俺は動けないでいた。
足が震えて立っているだけで精一杯、横たわる死体や血の匂いに吐き気を催してしまう。
「うっ、おうぇ……」
ビシャビシャ
耐えきれず、吐いてしまった。
「や、やばい。このままじゃ殺される。どうにかしないと」
しかし不思議だ。何故か俺はあまり狙われている感じがしない。
みんな散り散りになって殺し合っているが俺はまだ一歩も動いていないぞ。
まさかこんなとこで存在感の無さが役に立つとは……ヤベッ!!
そんなおいしい話がある訳ない。
二刀流を携えた男が迫って来ている……逃げるぞっ!!
「武器もないのに戦えるかよっ!!」
必死で逃げたが運動神経も並み程度の俺じゃあ……。
「は、はやい。追い付かれる」
ドンッ
誰かにぶつかり吹き飛ばされてしまった。
そのまま地面に後頭部を強打し転がってしまい、手に持っていた布が覆いかぶさってくる。
駄目だ、頭を打った……せいで、意識……がっ……
意識が朦朧としている中で銃声、金属のぶつかる音、断末魔、色んな音が聞こえてくる。
次第に覚醒していく……。
「はっ!! お、俺生きてる。まだ生きてる!!」
被っていた布をどけて立ち上がり、周りを見渡してみるとそこは血の海だった。
どのくらい気を失ってしまっていたのか。
こんな無防備な状態で良く殺されなかったよな。
布のおかげで存在感をさらに薄くすることができた、と言うのが俺の中で有力な説だとか言ってみる。
そんな事よりも……正直殺し合いが始まった時点でほとんど諦めていたがこれなら、もしかしたら百人の中に入れるかも。
少し勇気が湧いてくる。
周りの人たちは大方一対一の戦いに持ち込んでいるし、上手くいけば俺に気付くことなく終わってくれるかもしれないぞ。
再び存在感を消そうと布に手をかけると、目が合ってしまった。
――血まみれの女と
「あっ、どど、どうしよう」
近づいてくる。あれは確実に俺に気付いてる目だ。
なんで? なんでアイツだけ俺に気付くんだ?
手には包丁を持っていて血まみれな姿と合わさりかなりショッキングだ。
「あんた……勇太でしょ、勇太だよねっ!!」
ちょ、声大きいから!!
……え? 勇太って俺の名前だよね。長谷川勇太。
「なんで、俺の名前」
「やっぱ勇太じゃんっ!!」
「その声、もしかして」
「私だよ、吉田美奈」
少し長くなってしまいました。
次でちゃんと転生します。ごめんなさい。