世界の終わりに何をする?
空気孔から耳障りな空気の音が聞こえる。
時計はすでに9時を指していた。
世界の終わりまであと3時間。
桐山優斗はアルバムのページをゆっくりとめくっていた。友人とふざけあってある写真や、家族写真などを見ていると、涙が出そうになった。だけど、今日は笑って過ごそうと決めていたからこらえた。
アルバムには特に仲良くしていた三代や杉田との写真が多かった。修学旅行で中央都市クレデウスに行った時にとった集合写真や先生との写真。そして、こっそりとった片思いの神崎美咲の写真。
アルバムをすべて見終わると、優斗は体を伸ばした。さっき食べたご馳走のせいで眠くなってきた。だが、寝ている場合ではない。
「母さん、ちょっと出かけてくるよ」
優斗は玄関で靴を履きながら言った。
「わかったわ。早く帰って来てね。今日は最後なんだから」
30分くらいだよ。そう答えて、優斗は外に出た。
どこもかしこも壁に囲まれた地下世界が眼下に広がった。もう明かりが消えているので、薄暗くて不気味だ。だが、優斗が生まれた時からこうなので、不思議に思わない。
50年前、地球に隕石が衝突し、地上は人が住める状態ではなくなった。人々はなんとか生き残り、地下シェルターをつくった。
それが、今優斗が住んでいる世界だ。
人々は奥へ奥へと突き進み、今や何十もの層がある地下帝国になったという訳だ。
優斗が住んでいるのは、59層通称「スマイル」と呼ばれるところだ。
1週間前、地下帝国の人々を揺るがせる大事件が報道された。
反政府組織の「紅」が、地下シェルターの核の部分となる鉄骨に爆弾を仕掛けたというのだ。そこには、エネルギー動力室もあり、そこが爆破されれば、この地下帝国はひとたまりもない。政府は必死に探したようだが、この日を迎えてしまった。
もう、世界の終わりを黙って待つしか人類には残されていなかった。
はあっとため息をついた。
世界の終わりだというのに、住宅街も静かなものだ。
みんな家族と残された時間を過ごしているのだろう。
地下シェルターは複雑な構造をしていて、優斗もたまに迷ってしまう。エレベーターを乗り継いで、56層の待ち合わせ場所に向かう。
56層は、空き地が多く、人が近づかない場所だ。優斗は友人とよくそこで遊んでいた。
いつもの倉庫に、三代と杉田はいた。
こっちを見て手を振っている。
三代はぽっちゃり系でガキ大将風だ。杉田はのっぼで痩せている。成績もトップクラスだ。どちらも優斗の親友だった。
前から、最後の日はこの2人に会おうと決めていた。
「よう」
優斗が声をかけると、2人は頷いた。
「今日が最後だって実感ないな」
「俺もだよ」杉田が言う。
「俺は今日ゲームを大量に買ってもらったぜ」三代はドヤ顔で言った。
「いつやるんだよ!」すかさず優斗と杉田がツッコミを入れる。
ひとしきり笑ったあと、杉田が口を開いた。
「今日はずっと勉強してたんだ」
「こんな時に!?よくやるな」 優斗は目を見開いた。さすが秀才。だけど理解できない。
「俺はアルバムを見てたんだ。懐かしかったな。三代が入学式の時にパンをかじりながら大慌てで写真を撮った時とか、学園祭でバンドやった時のやつとか、杉田の誕生日会の時のとか・・・」優斗は言葉が続かなくなった。今までの思い出が甦り、涙が頬を伝った。
暗がりの2人の顔を見る。
2人とも泣いていた。
涙はとどまることを知らなかった。優斗は唇を噛みしめる。
「何でこんな事になっちゃったんだろう」
「俺たちが何かしたっていうのかよ?」
「全部あいつらのせいなんだ!紅とかいうやつのせいでっ」
2人は優斗の言葉をただただ黙って聞いていた。
三代達と最後の別れをした後、優斗は60層に向かった。優斗にはまだやり残した事があった。死ぬ前にそれだけはやっておきたかった。
60層は、地下帝国で中央都市クレデウスの次に大きな街だ。建物が建ち並び、たくさんの人々が行き交っている。
街を見渡すことのできる高台で、その人物は待っていた。
優斗が生まれて初めて愛した人物、神崎美咲だった。美咲は柵に捕まりながら輝く街を眺めていた。足音で優斗に気づいたようだ。
彼女はウェーブのかかった短い髪を耳にかけながらこちらを見た。そして微笑む。
「話したい事ってなに?」 美咲が聞く。
「今日で世界が終わるから、気持ちを伝えたかった」
優斗は真っ直ぐ美咲を見た。
「俺は今まで美咲のことが・・・」
「待って」
美咲が遮った。
「私も君に伝えたかった。君だけに」
「何?」
「私は、この爆弾事件を起こした反政府組織紅の幹部なの」
優斗は言葉を失った。
そして、優斗の心の中の何かが終わった。
お久しぶりです。やっと新作できました。今回は始めて携帯で投稿したので時間がかかりました。文字数も少なめになっています。
SFはやっぱりおもしろいですね。
今度は能力バトルの長編が書きたいな。
ではでは、感想をお待ちしています。