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フェルメリア雑記  作者: 詞乃端
アルくんのおはなし
6/54

Happy Birthday

これも数年前に部誌に投稿した話です。

「少年の旅立ち」と一緒で、未熟感丸出しですが、ご了承ください。

ほのぼの?コメディー系

「よしっ!」

 アルは、思わずガッツポーズをした。

「どっから見ても、バースデーケーキだろ」

 アルは満足げに言った。

 彼の目の前には、白いものが一つ鎮座していた。

 それは、たっぷりと塗られた生クリームの上に、イチゴがのせられた、丸いケーキだった。

「後はこれに入れて」

 アルは鼻唄交じりに箱を取り出した。

 と、―――

アルがその気配に気づいた時には、もう遅かった。

「ケ―キ―――っ!」

「味見や―――っ!」

 二つの影が、白き獲物に躍りかかる。

「あっ、食うなよ!それプレゼントなのに!」

 アルの制止も空しく、ケーキはあっという間に、襲撃者たちの腹の中へ消えた。

「うまかったわ~」

「アル、腕上げたね~」

 アルの気も知らずにケーキの感想を言うコンビに、怒る気力をも根こそぎ奪われ、

「げふっ」

 アルは吐血し、倒れた。


    ◆◆◆


 その日の職場での雑談は、ふとしたことから、誕生日の話になった。

「皆が集まれる日が、俺の誕生日みたいだよ」

 アルは大真面目に言った。

「ハ?」

「え?」

 店主と女給の少女が目を丸くした。

 その時は、彼らが働いている食堂が忙しい時間帯を過ぎたところで、皆で遅い昼食をとっていた。

 相手の反応に、アルは首をかしげた。

「マスターとティナの誕生日は、決まった日なのか?」

「自分が生まれた日ナンダカラ、決まっているノガ当たり前ナンダヨ!」

訛りが強い口調で、マスターがアルに突っ込んだ。

「へー、そうなのか」

 アルが納得したように、相槌を打った。

 道理で、他の皆は、自分の誕生日がいつあるのか分かる訳だ。

「トコロデ、皆が集まれる日ッテどういうことナンダ?」

 マスターが、アルに尋ねた。

アルの祖母は時間に関して相当ルーズだ(長生きしすぎて時間の感覚がおかしくなったため)。そんな訳で彼女は、その日が何月何日なのか、どのくらい時間が経過したのか、ということがわからないことがしばしばある。だからアルの誕生日も、覚えていても、その日がきたとわからない(実際は、覚えられなかった……)。

けれども彼女は、かわいい孫の誕生を祝う機会が無いのは嫌だったようだ。結局、自分の知り合いを巻き込み、彼らが集まれる日が、孫の誕生日ということにしてしまった(アルの祖母には、お祝いは大勢でやるものだという固定観念があった)。

そのため、アルは自分の誕生日がいつあるのかわからない。ちなみに、アルは十七歳だが、すでに何十回も誕生日がきている(宴会の口実にされているとも言う)。

その話を聞いて、マスターは実に複雑そうな顔をした。

「いいノカ、それで………」

「んー、いつもめちゃくちゃになるけど、楽しいよ」

 アルは、あくまでも真面目に答える。

「いいな」

 それまでアルの話を聞いていたティナが、ぽつんと言った。

「誕生日、一緒にお祝いしてくれる人がいて」

 それは、ひどく淋しげな呟き、だった。

 そういえば、とアルは思い出す。

 ティナの誕生日は、来週だった。


    ◆◆◆


 アルにとって、ティナは、川で流されているところを助けてもらった恩人である。アルは、恩は必ず返すものだと、祖母に躾けられていた。

それに、ティナに淋しい顔をされるのはなんだか嫌だった。

だからアルは、ティナにバースデーケーキを贈ろうと思いついた。

何故か誕生日の度に、自分のバースデーケーキを作らされていたので、アルはケーキを作ることができた(普通、自分のバースデーケーキを自分で作ることはないと、最近知った)。

ティナが喜べばいいなと、なけなしのお金をはたいて材料を買い、ゴミ捨て場から拾ってきたので作るのはまずかろうと、道具を新調した。

のは、良かったが。

「なんで、イファとメティーが食べるんだ!ティナのために作ったのにー!」

完成したバースデーケーキは、祖母の知り合いに食べられた。

がっくりと床に手をついたアルの肩を、金髪の若い女と、体長六〇cmの特大ハムスターがたたいた。

「また作ればいいさ」

「きっと、喜ばれるでー」

 元凶は呑気なものである。

 金髪の若い女がメイティア。特大ハムスターがイファルド。このコンビはアルの祖母の知り合いで、食べ物に目がない。彼らには、知人の食べ物を横取りするという、困った習性があった。

「もう一個作る金がない……。ティナのプレゼントが……」

 アルは、深く落ち込んでいた。

「っていうか、ティナって誰?彼女?」

 と、メイティアが訊けば、

「あんなにちっちゃかったのに……。アル、大きくなったんやな~。オカン嬉しいわー」

 と、いつの間にか、アフロのカツラと割烹(かっぽう)()を着用したイファルドが涙を拭く。

 反省の色が全く見られない二人(?)に、アルがキレた。

「彼女じゃない!ケーキ返せー!!…げふっ」

 吐血した。

 アルはひどい虚弱体質のため、しょっちゅう吐血するのだ。

 さすがのイファルドとメイティアも、アルを怒らせるのはまずいと思ったらしい。

「あー、ゴメンゴメン」

「ちょっと、落ち着いてや―」

 コンビはアルから話を聞くと、何かを思いついたらしく、ぽんっ、と手を打った。


    ◆◆◆


 その日は、ティナの誕生日だった。

 けれども、むしろ沈んだ気持ちで、彼女は仕事場へ向かっていた。

 年に、一度しかない日。

 自分がいることを一緒に祝ってくれる人がいることは、当たり前だと思っていた。

 遠くにいる、兄を想う。

 兄は大事な仕事に就いている。だから、自分の誕生日を一緒に祝えない。それは、しょうがない。

 けれど、寂しいと思うのは、間違いだろうか。

 ティナはため息をつきながら、店の扉を開けた。


 パンッ、という破裂音とともに、紙テープが飛んできた。

「っ?!」

「誕生日おめでとう」

 ティナの目の前に、クラッカーを持ったアルが立っていた。アルは、何やら悪戯(いたずら)が成功した子供の様な顔をしていた。

「こっちこっち」

 ティナは訳がわからず、アルに手を引かれるまま歩き出した。

「あれっ?仕事は?」

 ティナは混乱しながら、アルに尋ねた。

「今日は休み。臨時休業だから」

「え、どうして?」

「ティナの誕生会するから」

 思わずティナは立ち止った。

「……どうして……?」

 アルはあっさり言った。

「マスターと決めたんだ。ティナがここにいること、皆で祝おうって。皆で祝うと、楽しいし」


 家族以外の人間に、そんなことを言われるなんて、思いもしなかった。


「あぁぁぁ―――!!イファもメティーもなんでここに!!!」

 アルが叫んだ。

「何?その居ちゃいけないモノを見たような叫び」

「シツレイやな~。ウチらもアルの彼女のお誕生日祝いに来たんやで~!」

 料理がのったテーブルの近くに先客がいた。何故か、フォークとナイフを両手に持っている、金髪の若い女と赤毛の特大ハムスターだった。どうやら、アルの知り合いらしい。

「彼女じゃないって!!それにどうせ料理が目当てで来たんだろ。どう見ても食べる気満々じゃないか………」

「違うねん!御馳走のほかに、アルの彼女と仕事場が気になったんや!」

「好奇心二割で、食欲八割なんだよっ!」

 胸を張って言うことでもあるまい。

「ぜ、絶対むちゃくちゃになる……」

 経験あり過ぎのアルが、頭を抱えた。ちなみにアルは、イファルドとメイティアを厄病神と認識している。

 そんなアルを見て、ティナは吹き出してしまった。


 イファルドとメイティアの提案は、確実に、自分達が御馳走を食べるためのものであった。

 けれどアルは、まあいっかと思った。

 ティナが、今までにないくらい楽しそうに笑うのを、見ることができたので。


   ◆◆◆


「…そういえば、イファとメティーは、そもそも何しに来たんだ?」

 今更ながら、アルがコンビに尋ねる。

「あー、アディーに伝言頼まれたの。何だったっけ?」

 アディーとは、アルの祖母の愛称である。

「忘れたわー。きっと御馳走食べれば、思い出すんやない?」

「………」

 知り合いの頼みより、御馳走が大事らしい。

『…ばば様……、人選しっかりしようよ………』

 アルは心の中で、祖母に突っ込んだ。


 後日、コンビは、アルの祖母にしめられたそうな。

 彼女曰く、

「何をしに行ったのだ。貴様等は」


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