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フェルメリア雑記  作者: 詞乃端
他の人のお話
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炎竜姫と傭兵の攻防 その3

この話では、人の常識における男女の立場が思いっきり逆転している描写があります。

「――おいっ! 止めろよっ!!」

「いや」

「だから止めろっ! 何してんだっ!!」

現在、ジャワードは、初対面の女に襲われるという、人生初・何とも有り難くない体験の真っ最中であった。ちなみに、ジャワードの上着は女に()ぎ取られてしまったが、下肢の衣類は死守している。最後の(とりで)を失ったら、いろいろな意味で逃げられなくなりそうな予感をひしひしと感じているので。

ファイヤードレイクにより女に連れ去られて後、しばらくしてジャワードは地上に降りることができた。慣れない空の旅から解放され、清浄な森の匂いにほっとしたの束の間、ジャワードは女に再び押し倒されたのである。ジャワードとて男であるので、そういう欲が無いことはない。が、しかし、下着姿になったにもかかわらず、色気が欠片も感じられないどころか、獲物を前にした肉食獣の様な雰囲気を(まと)っている女を相手にするのは、正直勘弁してほしかった。

圧倒的な力の差にも屈せず(火事場の馬鹿力のため)、頑固に抵抗するジャワードに、女は幾分悲しげに言う。

「なんで駄目なの?」

「こういうことは、好きな相手とするもんだろうが!」

今まで散々商売女と遊んでおきながら言う台詞(せりふ)ではないが、このとき、ジャワードは少しでも時間を稼ごうと必死だった。

「ならあたし()、伴侶だから問題ないでしょ」

「俺達初対面じゃないのか?!」

何時(いつ)からそうなったんだと喚くジャワードを見て、女は不満気に頬を膨らませた。

「血を()わしたでしょう」

その言葉にジャワードは、初めて出会った時の、女の奇妙な行動を思い出した。――あの行為の意味は?

「……血を、交わしたら、伴侶になるのか?」

「違う。伴侶だから血を交わすの」

恐る恐るしたジャワードの問いに、女は怒ったように答える。

女の言葉が理解できず、ジャワードは天を仰いだ。――焦るな、相互理解は、まずきちんと話を聞くことからだ。

そして女の話を聞いたジャワードは、頭が痛くなったのだった。


女の話を要約すると、次のようになる。

一、女の名はハマラといい、彼女は竜の眷属である竜人の血を引いている。

二、ハマラは、多種族国家であるフェルメリアという国の軍人で、彼女が他国の奴隷市場にいたのは、人身売買を取り締まるための囮になっていたからである。(あの奴隷市場では、フェルメリアから(さら)われてきた者達も、取引されようとしていたらしい。)

三、力ある真竜、ひいては竜の眷属にとっての伴侶の定義は、唯一無二、絶対の、生涯共に在る異性、らしい。ちなみに伴侶は、同族であろうが他種族であろうが、全く関係ないようだ。

四、竜達がどうやって伴侶を定めるかというと、会えば分かるとのこと。伴侶と巡り合って、すぐにそれと分かる場合もあるし、出会った当初は気付かずとも、(いず)れ必ず知るらしい。

五、互いの血を飲み交わすことは、竜族が《血の誓約》と呼ぶ行為であり、己の伴侶以外とは決して行うことはない。従って、伴侶以外の者が、竜族の血を口にした時、相手に殺されても文句は言えないのである。

六、(これが一番重要)ジャワードはハマラの伴侶なので、《血の誓約》を(ジャワードに無断で)行ったし、(ハマラの中では)ジャワードを押し倒すことも問題ないらしい。ところで、ハマラは一目見て、ジャワードが伴侶だと分かったとのこと。(それは一目(ひとめ)()れというのではないだろうか?)


「だからやろう」

「ちょっと待て!!」

迫るハマラを、ジャワードは何とか押し戻す。

「お前の一族はそうじゃないんだろうが、人族だといろいろな段階があるんだぞ」

「面倒」

「面倒言うな!」

ハマラには、どうにも言葉が通じない。ジャワードは脱力したかったが、腰紐に伸びてくるハマラの手のせいで、うっかり気を抜くこともできないのだ。

「とにかく、ほとんど初対面の未婚の男女は、こんなことしないんだ」

我ながら何を言っているんだと、情けなく思いながらも、ハマラの魔手から逃れたい一心で、ジャワードはそう断言した。

ハマラは真面目に頷いた。

「分かった」

「そうか」

ジャワードがほっとしたのも束の間。

「結婚してれば問題ないのね」

「なんでそうなるっ!!」

ハマラとジャワードとの()れ違いは、まだ続くようだった。


その後、結婚するためにフェルメリアに行こうと言い出したハマラから逃れようと、ジャワードは逃走を図った。が、必死の抵抗も空しく、ジャワードはあえなくハマラに捕獲されてしまった。『ジャワード』という名は、〈駿馬(しゅんめ)〉の意を有してるものだったが、如何(いか)な駿馬といえど、相手が竜では分が悪かったようである。


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