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フェルメリア雑記  作者: 詞乃端
他の人のお話
38/54

炎竜姫と傭兵の攻防 その1

以前部誌に投稿した作品です。

ラブコメ系の話。

「結婚することにしたから、戸籍作って」

「元のところに戻してこいよ」

橙色(とうしょく)の髪の女と黒髪の青年との間で交わされる、どこかちぐはぐな会話。

「――他に言うことはないのかっ!!」

縄でぐるぐる巻きにされたうえに、隣の女にがっちりと抱きしめられている男は、そう叫んだ。


   ◆◆◆


(きし)んだ音を立てて、彼の横を馬車が通り過ぎる。ジャワードは、馬車に積まれている(おり)の奥の瞳と目があった。鎖に繋がれた子供の、(うつ)ろな双眸(そうぼう)。それは、彼の胸の底に(さざなみ)を立てた。ただの(うろ)と化した(まなこ)から、ジャワードは目を逸らす。何も感じてはいけない。何かを感じたら、仕事にならなくなるどころか、己の身を危険に(さら)しかねないから。

一陣の風が吹き、ジャワードの頭に巻いた布を揺らした。巻かれた布は、彼の髪を隠すための物。砂漠の民の血を示すジャワードの黒い髪も、褐色の肌も、彼が今いる場所では異質でしかなかった。

ジャワードは、商品達を運んでいく馬車を黙って見つめる。

そこでは、秘密裏に人身売買が行われようとしていた。傭兵であるジャワードは、その会場の警護のために雇われていたのだった。こんな仕事よりも、遥かに安全で、儲かる仕事は確かにある。けれども、異国の民の血を引くジャワードには、排他的なこの国で合法的な仕事に就くことは、土台無理な話であった。

運ばれていく商品達は、人であり、ヒトでなかった。――尖った耳、肌を覆う毛皮、鋭く発達した爪――ヒトに似た形をとりながらも、彼等にはそれらの様な確実な差異が存在していた。世界に蔓延(はびこ)るヒト――人族より、数が少ない異種族達である。

現在、どの国であっても、奴隷(どれい)制度は廃止され、人身売買は禁止されている。それでも、ジャワードが今いる場が存在していられるのは、一部の人間の傲慢(ごうまん)のためだ。即ち、ヒトではない異種族を、人間と同じく扱う必要はない、という。また、ある種の権力者にとって、異種族を愛玩(あいがん)することは、ステータスの一つになっているのである。大概、需要がある限り、供給の場が消滅することは、無い。

ジャワードが無意識に吐きだした溜息を()き消す様に、競売の始まりを告げる鐘が鳴り響いた。


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