試し撃ち その3
フェルメリアの新兵器は、珍しい時空系の攻撃呪式が採用されている。
こうなるまで、多くの紆余曲折があったようだ。
――炎熱系は、魔物のついでに他のものも吹きとばしたり燃やしたりするので、没。
氷結系は、魔物と一緒に周囲も銀世界の一部になってしまうので、没。
風系は、攻撃力がやや劣るだけではなく、攻撃した後が血生臭過ぎ、子供の情操教育に悪いので、没――。
最終的に取り入れられた時空系は、確実に魔物を殲滅でき、尚且つ、巻き添えが起こりにくい利点があるものの、その分他の系統の攻撃呪式より起動に大量の魔力が必要となり、制御も難しいらしい。
――そんなことを延々と語り続ける相手に、アーサーは眩暈を覚えた。彼の親友であるクライドロも、話していると疲れるときがあるのだが、目の前の相手から感じる疲労感は、それとはまた別物である。
同郷の筈なのに何故であろうかと、アーサーは淀んだ目で溜息をついた。
さっさと追い出してしまいたいが、そうもいかない。何せ、先程から魔法具についての熱過ぎる想いを語りに語っているのは、フェルメリアの魔法具・魔道器の製造を統括する組合の長だ。機嫌を損ねれば、フェルメリア製の優秀な製品がアレクサンドリアに入ってくなくなる恐れがある。
ちなみに、魔法具は魔法効果が付与された道具の事であるが、魔道器の方は、魔法具の中でも魔法効果を有する武器や防具の事を指す。対魔物戦において、ただの鋼の剣よりも、魔道器の剣の方が明らかに優位だ。最下級の魔道器であっても、魔法効果により鋼以上の耐久性を有しているからである。
先の合成獣騒動は、奇跡的に死者や怪我人こそ出なかったものの、家屋や城壁が破壊される等の被害があった。
王都に現れた合成獣は、とある錬金術師が好事家向けに造り出したものだったらしい。
ところで、この騒動の中での被害の半分は合成獣のせいであったが、あとの半分はクライドロの魔法具のせいだった。如何に魔法具による二次被害を防ぐ工夫がなされていても、効果範囲全体を隈なく破壊し尽くすという時空系攻撃呪式の特性上、多少の巻き添えは仕方がないことであったのだ。
で、あるのだが、流石に王都防衛の要である結界の核の一部が巻き添えになってしまっては、いくら合成獣討伐の恩があるとはいえ、アーサーはクライドロに賠償を請求せずにはいられなかった。
たとえ親友であろうと、それが過失であろうと、王自らが王都の守りを疎かにしたとも取られる行動は、アレクサンドリアの威信に関わる。さらに言えば、国の威信の低下は、最悪、他国との戦争に繋がりかねないものだ。
アレクサンドリアの現国主として、アーサーは他国に侮られる様な動きをすることは許されない。
そして、アーサーはクライドロから賠償金を取り立てることに成功したが、何故かフェルメリアの魔法具・魔道器組合長がアーサーの元へ出張ってきた次第である。
――ようやく話が本題に入ったものの、アーサーは実に反応に困った。
組合長曰く、先の賠償金はクライドロが自腹を切って払ったらしい。さて、如何な王とはいえ、個人が用意するには莫大な資金をどうやって捻出したのか。答えはフェルメリアと、親友らしいものだった。クライドロは魔法具・魔道器の素材を採取し、それを魔法具・魔道器組合に横流ししたのだ。一口に素材と言っても、魔物の皮や骨、植物、鉱物等、その種類は多岐に渡る。幸いにと言うべきか、フェルメリアは魔物だけでなく資源にも恵まれている。そのためクライドロは、最上級の素材が採取できる半面、足を踏み入れたら命は無いと言われる、フェルメリア北部のロマリア山脈に一週間程籠ったそうな。
――王としての仕事はどうしたのだと、アーサーは思ったが、クライドロが仕事をさぼるのはいつものことである。きっと優秀な部下達に書類を押し付けたのだろう。
……だからと言って、隙あらばどんどんクライドロから取り立ててくれと、笑顔で言ってくる組合長もどうなのだろうか……。
優れた製品を作るには、優れた素材が必要になることは分かった。組合長の、より良い魔法具を作ることへの暑苦しいほどの情熱も嫌々ながら理解した。今回の事で、味をしめたことも良く分かった。分かったのだが。
「……これでいいのか、フェルメリア……」
アーサーは、溜息交じりに呟いた。
アーサーは、組合長を理解はできても共感はできない。よくもまあ、こんな癖のある人物と付き合っていられるものだと、親友を心の底から尊敬したアーサーであった。
蛇足であるが、よくクライドロなんかの親友をやっていられるものだと、国内外から尊敬を集めてられていることを、当のアーサーは知らない。
フェルメリア王、クライドロ・D・シアリオス・フェルメリス。
アレクサンドリア王、アーサー・アレクサンドロス七世。
彼等はある意味、類友と言うやつなのである。
某国には、一緒に日常生活を送るだけで胃に穴が開きそうになる人が多数おります。
ちなみにアレクサンドリアでは、アーサーという名前の王様がそこそこ多かった、という設定。