試し撃ち その1
部誌に投稿した作品です。
アーサーの元に親友がやって来た。
要件を聴くと、新しく開発された魔法具を売り込みに来たらしい。いつも仕事をせずに、あちこちをうろつき回っている友人であるから、多分魔法具の売り込みは尋ねて来た理由の十分の一以下だと思うが。
「最近物騒だから作らせてみたんだ」
そう言う親友はその手に、紐がついた筒を持っていた。
「物騒、な。クライドロ、一体何が物騒なんだ?」
呆れ交じりに尋ねるアーサーに、クライドロは気楽に返した。
「ローディオと『教会』の超過激派が、聖国の復活目指してフェルメリア狙ってるらしいね。馬鹿だよな~。いくら聖王の末裔が見つかったとしても、無理だろ。旧聖国地域の関係なんて、とっくに縁が切れてるどころか、場所によっては最悪なのに。聖国が滅んでから何百年経ってると思ってんだか」
「ちょっと待て」
あっさり爆弾を投下した親友に、アーサーは突っ込んだ。
「どこからそんな情報を仕入れて来たんだ、お前は」
「間諜からに決まってんじゃん」
胸を張って言うことではない。
「……お前が持っているそれは、人間用なのか?」
「違う。魔物用。子供でも魔物を殲滅できるように作ってみたんだ」
「殲滅するのか……」
戦争の恐れがあっても、対人用ではなく対魔物用の魔法具を開発するところが、何ともフェルメリアらしい。
『神に見捨てられた地』との異名を有するフェルメリアでは、この国に跋扈する強力な魔物に対抗するために、あらゆる努力が払われている。
クライドロ曰く、件の魔法具を開発した理由は、『戦争で人手不足になった時に、魔物が街を襲ったら大変だろう』とのこと。
――魔物を『追い払う』でもなく『倒す』でもなく、『殲滅する』事を目的とするあたりに、フェルメリアの厳しさを窺い知ることができる。
「これさえあれば、魔物が大量発生したり、伝説級の魔物をうっかり怒らせたりしても大丈夫だぞ」
「そんなことがそうそうあって堪るか。フェルメリアはともかく、アレキサンドリアでそんなことが起こったら、国家転覆ものだぞ」
いやに高性能な魔法具を売りつけようとするクライドロに、アーサーは言い返した。
ちなみに、クライドロの魔法具は、高性能であると同時に目玉が飛び出る程高価だ。材料費が異様に嵩むので、それ一つで、下手な小国ならば国家予算の半分が吹き飛ぶらしい。
「備えあれば憂いなしっていうから、バコーン持ってれば安心だぞ」
「おい、バコーンとは何だ」
「これ」
クライドロが指示したのは、手に持った魔法具である。
間違いなかろうが。
「お前が名付けたのか?」
「そうだけど?」
「やはりか……」
クライドロの名付けにおける感性は、常に余人の想像の斜め上辺りを爆走している。
「バコーンは効果範囲を決められるんだ。対一個体用のドコーンと、大群用のドカーンもあるよ」
「……一体どうすればそんな名称になるんだ?」
「ドコーンとドカーンの方がちょっと安いけど、バコーンの方が応用利くからお勧めかな」
アーサーの呟きは、クライドロに届かなかった。
「一家に一個どう?」
「いるか」
「え~」
「高すぎる。他を当たれ」
そもそも、国家予算級の値段で一家に一つは無理がある。
「バコーンはほんとにすごいんだぞ」
「知るか。どこがどう優れているかも分からずに高い買い物をするのだったら、馬鹿だろうが」
「そっか。よし、アーサー、試し撃ちするから場所貸してくれ」
「そう来たか……」
言い出したら聞かない親友を説得するのも面倒で、アーサーは、残念な名前の魔法具の試し撃ちを見物することにした。