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ただ、それだけのこと 一
フェルメリアの「神に見捨てられた地」としての側面の話なので、次回以降に残虐・流血描写出てきます。
苦手な人はご注意を。
ガラガラという馬車の音は、彼等にとって希望への足音だった。
新天地は、決して良い話ばかりが聞ける場所ではない。『神に見捨てられた』と言われる地。それでも、己の故郷が奉ずる神を見限った彼等には、こちらの呼び名の方が余程好ましかった。
――『神に見捨てられた地』の所以を、彼等が絶望と共に噛み締めるのは、それ程遠い時ではなかったけれども。
◆◆◆
ソレは飢えていた。
とてもとても飢えていた。
喰らっても喰らっても、ソレの奥底にへばり付く欲求は治まることを知らない。
もっともっともっと、と。
止まること無き渇望に任せて、ソレはさ迷い歩く。
そして見つけた、其れ。
ソレは歓喜した。
其れを持っていると、ソレは、もっとずっと喰らうことが出来たから。
それでも、足りない足りない足りない、と。
其れを持ったまま、ソレは、また動きだした。
もっと喰らえる方向へ。