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フェルメリア雑記  作者: 詞乃端
竜の御話
2/54

竜退治

以前部誌に投稿しました。

 その森の中には、『竜』が住む塔がある。

 その主は、(くさり)(とら)われし娘。

 長い黒髪と緑の瞳とを持つ、『竜』という呼び名に似合わぬ美姫(びき)

 けれどその美貌(びぼう)は、幾年(いくとせ)を経ても変わらぬままで、その知恵はいかなる賢者をも(しの)ぐ。――娘が知らぬことは、ただ『(おのれ)』のみ。

 それゆえ、人々は娘を『竜』と呼んだ。


   ◆◆◆


 ある時、『竜』の塔に向かう者がいた。

「人々を(まど)わす邪竜め、この私が成敗してくれるわ!」

 ――その騎士は、意気揚々と森の中を分け入って行った。


 けれどもその森は深く、方向音痴だった騎士は、迷子になってしまった……。


 一週間後。

「おのれ、邪竜め! 幻惑(げんわく)結界(けっかい)とは小賢(こざか)しい!」

 ようやく森から出られた騎士は、(わめ)いた。

 それでも、正義の騎士は(くじ)けなかった。


   ◆◆◆


 しばらくして、騎士は再び『竜』が住む森へやってきた。

 騎士は、『方位磁石』という魔法の品を手に入れたので、今度は迷わずに進むことができた。

 騎士の目の前に現れたのは、古びた塔。

 騎士は、ためらうことなく中に入る。

 そして、騎士が見たのは邪竜の化身(けしん)

 鎖に(いまし)められた、娘。

「見つけたぞ、邪竜!! ここで会ったが百年目―――――」

 騎士の長々とした口上を、『竜』はきょとんとしたまま聞いていた。

「――――――このフェデリックが成敗してくれる!!」

「はい?」

 (いま)だに事情が飲み込めていない『竜』に向かって、騎士は己の(つるぎ)を振り上げた。

 甲高(かんだか)い金属音。

 騎士は剣を呆然(ぼうぜん)と見つめた。

 彼の剣。騎士となってから苦楽を共にし、幾度(いくど)も彼の命を救ってきた剣。騎士の半身とも呼べる剣。

 それが、半ばから真っ二つに折れていた。

「ぬ、ぬおおおおおおおおおおおお!!」

 頭が真っ白になった。

 そして、騎士は叫んだ後、その場から走り去っていった。


 塔の中には、全く事情が分からなかった『竜』が取り残された。

「結局、あの人は何をしに来たんだろう……?」

『竜』は首を(ひね)る。

 それから、折れた剣の片割れに手を触れた。

 何だかさっぱり分からないが、なんとなく罪悪感がある。

「そういえば、鍛冶屋(かじや)さんがいい鉄が欲しいって言ってたな」

 折れたままにしておいては悪いので、鍛冶屋に頼んで、生まれ変わらせてもらおう。

『竜』はそう考えて、一人頷(うなず)いた。


   ◆◆◆


 さらにしばらく後。

「いざ、尋常(じんじょう)に勝負!!」

 騎士は()りずに『竜』のもとに来ていた。

 前に折れた剣の代わりに、伝説の英雄が用いたという剣を(たずさ)えて。

「……何をしに来たの?」

『竜』は、相変わらず事情を分かっていなかった。

 疑問符を浮かべている『竜』に向かって、騎士は伝説の剣を振り上げた。

 甲高(かんだか)い金属音。

 今回も結果は同じだった。


 また騎士が走り去った後、首を捻っている『竜』が残された。

「……あの人は一体何をしに来たの……?」

 それから、折れた剣の片割れに手を触れた。

そして、『竜』は少しだけ眉根(まゆね)を寄せる。

「今度の剣は、あまりいいものじゃないや」

そこらの鉄屑(てつくず)と大差ない。

その品質は、近くの村の鍛冶屋が普段扱っているものと、変わらないだろう。


伝説の剣の、伝説たる所以(ゆえん)は、伝説の英雄に使われていたから。

騎士の手にあるのなら、それはただの古臭い剣に過ぎなかった。


   ◆◆◆


その後、騎士は幾度も『竜』が住む塔にやってきたが、ついに『竜』を倒すことが叶わなかったという。


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