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フェルメリア雑記  作者: 詞乃端
クライドロの話
19/54

約束

以前部誌に投稿した作品です。

ビミョウにシリアス?

「届くことのない指先」を読んでいないと、ちょっと分かりにくいかもしれません。

怒られた。何故、怒られたのかは分からないけれど。

「何言ってるの!」

そう言う少女は、(ぐん)(じょう)色の瞳に鮮やかな光を浮かべていた。

「なんで怒るんだ? 少なくとも、フェルメリアの王は、(てい)の良い人柱なのはほんとだよ」

フェルメリアの王は、王都の結界を構成する重要な鍵だ。それ故、歴代の王たちは、王都から出ることは叶わなかった。――頑張って王都の結界の陣を(いじ)ったから、クライドロは王となっても、王都の外へ自由に出歩けれるけども。

「だったら、どうして王なんかやっているのよ」

「約束だったから」

彼の人と、フェルメリアを護っていくと、誓ったのだ。それは、もういない人との約束。彼の人の世界が、とうの昔に――最愛の男を失ったときに――壊れてしまっていたことは、彼の人が自ら命を絶って、ようやく気付いた。彼の人が何処へでも行けるようにと、クライドロが引き継いだ王座は、彼の人を()(がん)に引き留める、唯一のものだったのだ。クライドロが今亡き人のためにできることは、もはや、約束を守り抜くことしかない。

「馬鹿っ」

頭を(はた)かれた。

「シファナ、なんで怒ってんの……」

少女が怒る理由が分からず、クライドロは困惑するしかない。

「ディーリアスが馬鹿だからよ!」

呼ばれたその名は、クライドロの真名。限られた者以外には、秘されるもの。

「どうして、自分のために王で在り続けないの?」

シファナの真剣な表情に、クライドロは少し考え込んだ。

「――シファナは、約束を守ることは他の人のためだって、思っているかもしれないけど、俺は自分のために約束を守ってるよ」

全部、自分のためだ。約束を守っていれさえすれば、彼女と繋がっていられる。そもそも、守りたいと思わなければ、約束なんてしなかった。

「馬鹿……」

シファナが、泣き笑いの様な顔をしたのが、クライドロには不思議だった。

「……じゃあ、私と約束したら、守ってくれるの?」

「もちろん」

クライドロにとって、たとえ言葉だけであろうと、誓約は絶対のもの。


「ディーリアス」

少女が口にしたのは、クライドロにとって救いであり、鎖であった。

「それなら、私の理想の王になって」


   ◆◆◆


後から思えば、シファナはクライドロを護ろうとしていたのだろう。その時のクライドロの頭には、彼の人との約束を守ることだけしかなくて、国の事も自分の事も、大切だとは思っていなかったから。他の誰でもなく、クライドロを選んでくれた少女は、彼のその危うさに気付いていたのだと思う。シファナは妾腹(しょうふく)だったとはいえ王族で、恐らくは彼女の父王より、王座の重さを理解していた。その彼女だったから、クライドロの危うさが、何時かクライドロに致命的な何かをもたらすと分かったのだ。

彼の人とシファナに感じていた「大切」は、性質が違うものだった。彼の人に感じていたのは、微かに甘くほろ苦いもので、シファナへの想いは、ただひたすらに温かい。


大切だった。このまま一緒にいるのが、当然だと思うほどに。

哀しかった。少女がいなくなってしまったときに、彼女はクライドロの唯一無二ではなかったと、思い知らされたから。シファナの温もりが、己が手から零れてしまった喪失感は、確かにクライドロのどこかを穿(うが)った。それでも、彼女の後を追えないと思ってしまった。まだ、クライドロは、己の唯一無二たる絶対を見出していないと、本能が(ささや)いて。

――シファナが向けてくれていたものと同等以上の想いを、彼女に返せない自分が、情けなかった。


彼の人に死んでもよい理由を与えたのは、クライドロだった。そして、シファナの死の原因を作ったのも、クライドロだった。

――もう手の届かない場所に行ってしまった少女と、産まれ得なかった小さな命を想う。

シファナのために、今のクライドロができることもまた、二人の間の約束を守ることだけ。


クライドロがサボり魔なのは、約束が「まじめに仕事をする」ではないからです。

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