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フェルメリア雑記  作者: 詞乃端
アルくんのおはなし
15/54

初戀(はつこい)の味

以前部誌に投稿した作品です。

ほのぼの系?


 初恋の味というものは、忘れることができないものらしい。


「初恋の味って、何味なんだ?」

 真顔での問いかけに、ウィンは耳を疑った。

「アル、熱でも出ました?」

「いや、なんでそうなるんだ」

 渋い顔になったアルに、ウィンは真顔で答える。

「君は、そういうものに明らかに無縁そうに見えていましたから」

 ウィンという人物は、真面目すぎるが(ゆえ)に、失礼なことを平然と言うことがある。

「なんでだ? 初恋の味って、あちこちで売ってるから、簡単に食べられるんだぞ」

 何やら話が食い違っている気がする。

「……一体何の話ですか?」

 困った顔になったウィンに、アルは手に持っていたものを見せた。

「【(もも)(かげ)屋】の揚げパン。初恋の味なんだってさ」

「……」

 どうにも反応に困る。

(こう)(れん)通りの屋台のドーナッツも、ビルカのおっちゃんのとこのフルーツジュースも、初 恋の味って宣伝してるけど、どれも味が違うんだよな」

 それが不思議で、先程の初恋の味は何味か、という疑問に至ったらしい。

「そういうものは、人によって違うものなんですよ」

「そんなもんか~」

 アルは、相槌(あいづち)を打ちつつ、揚げパンを口に運んだ。

「じゃ、ウィンの初恋の味って、何味?」

 あっさりした質問に、ウィンは口に含んでいたお茶を吹きそうになった。

 恨めしげにアルを見るも、当の本人はキョトンとしている。

 山での生活が長く、他人と触れ合う機会が少なかったせいか、この少年は人間関係の機微にはやや疎く、さらに色恋沙汰の何たるかを全く解していない。

「他人の色事に関しては、積極的に話題にしない方がいいと思いますよ……」

「そうなのか?」

 少年は、目を丸くして首を傾げた。

(……碧風(へきふう)(きみ)、アルを(がけ)から落としたり魔物の巣に放り込んだりする前に、教えることがあったでしょう……)

 ウィンは内心で嘆息(たんそく)し、アルの祖母に苦情を言った。

「アルの方は、どうなんですか?」

「まだわかんないな」

 そう答える時点で、まだまだ子供である。

 アルの同族一同は、アルに恋愛の『れ』の字も見当たらないことについて、詰まらないだの、からかいがいがないだのと嘆いていたが、その責任は彼らにもあるとウィンは(にら)んでいる。

 そもそも、嘆く当人達も恋愛についてはからっきしであるから、アルのことは言えないのだ。

「――死ぬ前に、分かるかな」

 ポツリ、と(つぶや)かれた言葉は、溜息(ためいき)のよう。

 自分の体は、自分が一番理解している。

 それでも、終わりが何時(いつ)かなんて、分からないけれど。

「それは、君にしか分からないことですよ」

 ウィンは、少し悲しそうに笑った。


 ――この少年は、いつ気付くのだろうか?

 (おのれ)でもそうと知らないまま、()の少女に向けている瞳に。

 心の奥底、静かに()らめく灯火(ともしび)に。

 今まで湧き上がることがなかった、密やかな熱い想いを。


 ウィンは、天上(てんじょう)天下(てんげ)唯我独尊(ゆいがどくそん)集団に、盛大に文句を言ってやりたくなった。


 ――アルがあの子に振られたら、ここまでアルをにぶにぶに育てた、あなた方のせいです!!


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