妖精を捕獲せよ!! その3
なぜ何もしていないのに、怒られなければならないのか……。
アルは、締め上げられながら、遠い目になっていた。
理不尽だ。
アルは、自分が巻き込まれ体質だと、(生まれてから一七年目にして、ようやく)ちょっぴり悟りつつあった。
「お前のせいで、振り出しに戻ったぞ」
アルを締め上げている彼女は、地を這うような声で言った。
(ば、ばば様が後ろに見える~!)
アルはなぜか、彼女の後ろに自身の祖母(怒りモード)の姿を幻視した。
「フェアリーの捕獲が遅れて、私の夫が倒れたら、どうしてくれる」
ちなみに、マスターとティナには般若の面が見えたという。
「……お義姉ちゃん、アル君は悪くない、よ」
ティナの言葉の語尾が一瞬途切れたのは、兄嫁である義理の姉に睨まれたからだ。
「アナ、少しハ落ち着いタラどうダ?」
マスターは、内心焦りまくりながら、知り合いを宥めた。
アナという女性は下手な男より遥かに腕が立つため、一度怒り狂うと、ものすごいことになるのである。
幸か不幸か、今はまだ、ブチ切れた時の五割ほどの怒り具合である。
「そういえば、振り出しって何の?」
アナは事情を全く語ることなく、アルを締め上げていたのであった。
◆◆◆
「フェアリー?」
ティナが目を丸くした。
「北ノ山脈ニ閉じこもっテいル種族ジャないノカ?」
マスターが首を傾げる。
その横で。
アルは、目を泳がせ、冷や汗を流していた。
非常に分かりやすく、心当たりがあることを示している。
「何を知っているんだ?」
アナはニッコリ笑いながら、アルの胸元を掴んで引き寄せた。
酷く美しいが、同時に凄まじく恐ろしい笑みだった。
生憎、アルはそれに抗えるほど人生経験を積んでいない。
「き、昨日の夜、フェアリーの気配がしてたんだ」
マスターとティナに悪戯をしてた時のかも、と続けた少年の告白に、アナは目を細めた。
フェアリーは風の精霊の寵を受け、その力を借りることができる種族だ。
それ故、通常の探査魔法ではその姿を捉えることはできない。
それができるのは、フェアリーという種族以上に風の精霊の力を借りることができる者、もしくは強く精霊の加護を受け、彼らが常に従えている精霊達のことを、より敏感に感じとれる者ぐらいだろう。
ちなみに、精霊の祝福の度合いは種族により大きく異なるが、何事にも例外というものがある。
『精霊の愛し子』。
過分なまでに精霊に愛された存在を、そう呼ぶ。
それは種族や血筋に関係なく生まれ、絶大なる精霊の守護と力を得る。
そして、その証は瞳に反映されるのだ。
精霊の多大な寵愛を得た者の瞳は、徒人に在りえぬ色彩を宿す。
緑柱石と翡翠を合わせたような緑玉の瞳と、空の色より透明で、海の色より深い、不思議な色合いの碧眼が交差する。
――元はと言えば、フェアリーよりも、アル(こいつ)に対する風の精霊の加護が強かったから、忌々(いまいま)しい羽虫を見失ったのだ。
「それでは、フェアリーの捜索を手伝ってもらおうか」
フェアリーを見つけ出さないと、殺す。
【銀鱗亭】の面々には、そう、聞こえた。
アル君にとって、恐怖の象徴は怒りモードのおばあちゃんです。