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フェルメリア雑記  作者: 詞乃端
竜の御話
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とあるところに、塔があった。

そこには、『竜』がいた。

鎖に(いまし)められた、娘。

娘は、自らを竜と称していた。

濡羽色(ぬればいろ)の長い髪。緑玉石(エメラルド)(ごと)き瞳。彼女の美貌(びぼう)は、人々が思い描く竜の姿から、かけ離れたものだった。

だが、塔の周りに住む者達は、彼女が竜であると信じていた。

なぜなら、娘は年を取らず、様々な知識を持っていたからだ。

幾年(いくとし)()ても、その姿は変わることなく、その知恵は人々に恩恵(おんけい)をもたらした。

それゆえ娘は、尊敬と畏怖を以て『竜』と呼ばれた。


あらゆる事柄を知る『竜』にも、知らないことがあった。

それは、『自分』。

『竜』は、(おのれ)の名を知らなかった。

それどころか、どうして塔にいて、鎖に(つな)がれているかも、分からないという。

 もしかしたら、知っていたかもしれない。

 しかし、その記憶は、己のほぼ全ての事柄と共に、娘から失われていた。

 『竜』は、どんなに遠くで起こった事も知ることができた。その彼女も、過去に起きたことだけは、知ることができなかった。


 そんな『竜』は、(ただ)一つだけ、覚えていることがあった。

 待っていること。

 誰を。何を。

 それすら、分からず。

 ただ、待っていることだけを、覚えていた。

 ある時、誰かが彼女に、記憶を探しに行けばどうかと尋ねた。

 しかし、『竜』の力を以てしても、その身体(からだ)束縛(そくばく)する鎖を断つことはできない。

 だから、娘は待つことにした。

 記憶にあるように、いつかやって来るだろう、誰か、あるいは、何かを。



 Copyright © 2011 詞乃端 All Rights Reserved. 

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