私は魔法が使えない
魔法の解けたシンデレラ。多分それ。
「……ありえない」
部屋に飛び込んで、ドアを閉めると思わずしゃがみ込んでいた。
家族以外の誰かと会うときは、常にばっちりメイクだし、服装にだってすごく気を使ってる。
鏡の前に30分は基本で、少しでも髪がはねているだけで不機嫌になる。
それなのに、
着古したTシャツにジャージ。ボサボサの髪にスッピン。
せっかくの休日で、家族しかいないはずの朝食の席に、何故か彼がいた。
コンコン
「驚かせてごめん。あの」
「入ってこないで。ご飯もいらない。ほっといて」
なんでいるのよ―零れたのは涙声で、本当に嫌になる。
「ごはん、食べたほうがいいよ。花粉症の薬、飲まないとでしょ?」
「うるさい、うるさーい。いいのよ、今日は一日中部屋に」
「え?暇なの?じゃあ僕と出かけようよ。支度できるまで待ってるから。ちゃんとご飯も食べてね」
じゃ、あとで―そう言ってあっさり踵を返す気配に、反射的にドアを思い切りあけてしまった。
「なんでそんなマイペースなのよ!怒ってんのよ!」
「怒ってる?どうして?」
「どうしてって。こんな休みの、こんな朝からいるからでしょ!」
ノーメイクよ!?ジャージよ?髪の毛もボサボサで、ありえないじゃない!」
もう何を言いたいのかも解らなくなって、ぽろぽろと落ちてくる涙に任せていると唐突に彼が笑う。
「ありえなくないよ。だって君でしょ?変わらないと思うけど」
「変わらないってなに?メイクしたって無駄ってこと!?」
「え?だってメイクしなくても可愛いじゃん。僕の好きな人には変わりないし」
本当ありえない。しんじらんない。
邪気なく笑うから、足から力が抜けてへなへなと座り込んだ。
「あれ?大丈夫?」
「本当?本当にかわいいって思ってる?」
「思ってるよ。だから、ほら。出かけようよ。欲しがってたマニキュア買いに行こうか」
彼の伸ばした手につかまって、立ち上がる。
スッピンだけど。
ノーメイクだけど。
ジャージだけど。
古Tだけど。
髪はボサボサで、泣き顔で、ぶっさいくだけど。
彼は魔法使いだから、シンデレラはハッピーエンド。多分、ね。
【三題噺】花粉症、マニキュア、シンデレラ