第13話:王子の暴走と、拒絶の『お玉』
積み上がる書類の山。
リリアーヌ様は連日の「仮病作戦」で部屋に籠もり、文官たちは冷ややかな目で見ている。
ついに追い詰められたバカ王子は、狂ったような笑みを浮かべて騎士団の厨房へと強行突入した。
「アンジェリカ! 決めたぞ! 貴様を王宮へ連れ戻す!」
その言葉に、厨房の空気が凍りついた。
バカ王子は、武装した近衛騎士を数名引き連れ、勝ち誇ったように私を見下ろしている。
「……は? 殿下、何を寝言を?」
「いいか! 貴様の有能さは認めてやる。今後は私を支える『補佐官』として、あわよくば『側妃』、あるいは『愛人』でもいい! 私のために働き、この山積みの公務を片付けろ! 貴様も光栄だろう? 王族の寵愛を受けられるのだから!」
厨房中が静まり返った。……呆れと、怒りと、憐れみで。
私がかつて命を削って尽くしていたのは、こんなにも想像力の欠如した男だったのか。
「……本気で言ってます?」
私は手に持っていたお玉を、コンと作業台に置いた。
金属音が、異様に大きく響く。
「殿下。貴方は『補佐』と『奴隷』を履き違えていませんか? 私を愛人? 側妃?……とんでもない。私は今、騎士団という『正規の雇用主』のもとで、正当な対価(と最高に充実した食環境)を得て働いているのよ」
「なっ、この身分で……! 貴様は王家に逆らうのか!」
「いいえ、ただの『契約上の問題』です。もし私が殿下の補佐に戻れば、また過労で倒れるまで放置され、感謝もされず、最後には『泥棒猫』呼ばわりされるのでしょう? ……そんなブラック企業、誰が志願しますか」
「ブラック……何だそれは!」
「意味は自分の頭で前後の文脈から推察して考えなさい。……とにかく、私の答えはNOです。私の未来に、貴方の名前を書き込む余地なんて一ミリもありませんわ」
王子が激昂して手を上げたその時、視界の端で銀色の閃光が走った。
いつの間にか、カイル様の剣先が王子の首元に突きつけられている。
「……団長、下がってください」
私が冷静に言うと、カイル様は剣を収めずに、氷のような瞳で王子を見据えた。
「殿下。貴方が指をさしたその女性は、騎士団の兵站を預かる『将』です。その将に対し、部下の前で侮辱を重ねることは……騎士団全員への宣戦布告と見なします」
「き、騎士団の……将……?」
「その通り。そして俺は、部下の心身を害する有害なあなたを、力ずくで排除する権限を持っています」
カイル様の背後に、厨房から出てきた騎士たちがズラリと並ぶ。全員が、怒りで肩を震わせている。
王子は自分の命の危険を悟ったのか、顔面蒼白になり、足をもつれさせながら後ずさりした。
「……覚え、ていろ……! 私の補佐を断った結果、この国がどうなろうと知らんぞ……!」
「どうぞご自由に。」
捨て台詞を残して去っていく王子。
厨房には静寂が戻ったが、それは騎士たちの殺気を含んだ静寂だった。
「……アンジェリカ。二度とあいつをここへは入れない。……次は、本当に切り伏せる」
カイル様が眼鏡を外し、私の肩を抱き寄せる。
その瞳は、いつもの冷静な団長ではなく、獲物を守る猛獣のように鋭かった。
※
とはいえ、この国が傾くのはちょっと問題よねー
私もあいつの補佐?愛人?なんて真っ平御免
それにあいつが諦めるとは思えないし……
この国のためにできる事って何かあるかしら……
気は乗らないけど、そうも言ってられない。
聖女の事も心配だし少し考えてみますか。




