ヴァンパイヤ一族
お話に出てくる♯(シャープ)は話が変わりますと言う合図です。
ある日の午前中。本物の吸血鬼が住むヴァンパイヤ城で、人間と吸血鬼の間にエリカと言うハーフの女の子が生まれた。
「エリカは吸血鬼だ」
「生まれたばかりだから、まだ分からないわよ。それにこの子は、吸血鬼と人間の子なのよ」
エリカの母、ハルナはエリカを優しく撫でる。エリカはこの頃から、ヴァンパイヤ城の可愛いお姫様となり、エリカはスクスクと元気に育った。そんなある日。エリカが自分の部屋で1人で遊んでいると、4歳ほど年上の黒のメイド服を着た女の子がやって来た。
「初めまして、エリカ様。私は今日から、エリカ様のお世話を手伝いをするフレナと申します。よろしくね」
エリカはフレナを見てお辞儀をした。
それから6年が経ち、エリカは10歳になった。
「おはよう、フレナ」
「おはようございます、エリカ様」
「ねぇ、フレナは城の外から出たことあるの?」
「いいえ、一度も」
「どうしてお父様達は城の外に出ないの?」
その質問に、フレナは笑みを見せる。
「やっとお話しする時が来ましたね。私達家族は皆んな吸血鬼なんです。ハルナ様以外はね。エリカ様は吸血鬼のマイク様と、人間のハルナ様から生まれた子なんです。実を言うと私は、エリカ様の遠い親戚何ですよ」
「フレナは私のお姉様」
「フレナで良いですよ」
「いくら親戚でも、お姉様だから。と言うか、吸血鬼って何なの?」
「吸血鬼と言うのは、人間の血を吸う生としの狭間に存在する者と言う事です」
「人間の血を吸う・・・フレナお姉様は人の血を吸ってるの?」
「私はあまり」
「私、人の血を吸いたくない」
「その気持ち、よく分かります。これは、今から8年前の夜の事でした。私はもともと人間でした。私は当時、お腹を空かせていた挙句、服もかなりボロボロで、死はわずかでした。そんな時、エリカ様の叔父様のハスク様が私を救ってくれたのです」
「君、大丈夫かい?かなりお腹を空かせている様だけど」
フレナは小さく頷く。
「君にパンをあげる。遠慮なく食べると良い」
フレナはハスクからパンを貰うと、物凄い勢いで食べ始めた。
「君、お家はある?」
「・・・ない」
「もし良ければ、私の城へ来てみないかい?」
「行く」
フレナは迷う事なく答えた。城へ到着。
「綺麗」
「ここにいる者達が、いつも綺麗にしているんだ。そうだ。君、吸血鬼になる気はないかい?もしなるのだったらメイドとするが?」
「なりたい」
「そうか。君に吸血鬼の血を分けよう」
ハスクは盃に真っ赤な血を入れると、フレナに渡す。フレナは盃に口をゆっくり近づけると、血を飲み干した。次の瞬間、体かに強く力が入り、フレナはもがき出す。
「顔を上げてごらん」
顔を上げると、牙の生えた吸血鬼になっていた。
♯「と言う事何です」
「そんな事があったんだ・・・」
「安心して下さい。ハスク様以外には人間だった事は知られていませんから」
「それなら良かった」
ハスクは父親よりも悪い人ではない。
どちらかと言うと、ハスクはエリカに優しく人間でも大切に育てているが、父親はエリカの意思が吸血鬼だったら育てるが、意思が人間だったら放ったらかしという感じだ。父親はいつもエリカの隣の部屋で何かをしているのだった。
フレナが人間だった事を知ってから4年。エリカは外に出てみたいと思い、ハルナに話してみた。
「お母様。私、外に出てみたい」
「良いわよ。でもその前に、これを着て」
ハルナはフード付きで、表が黒で中が赤いフロックコートを差し出す。
「何?」
「これはフロックコート。外に出る時に着てね。フードは絶対に脱いではダメよ」
「はい」
エリカはハルナから服を着ると、外にはしゃぎながらで出た。その外の風はとても涼しく、木々の葉が揺れている。
「外ってこんなに綺麗なんだ」
エリカが感心していると、ハルナがやって来た。
「外は自然豊かで、とても綺麗よ。あそこの森は危険だから、近寄らないでね」
ハルナは城の外から見える森を指差す。
「はい」
エリカは毎日のように外に出た。
そんなある日。エリカは外に出ようと廊下を歩いていると、珍しくマスクの部屋の扉が開いていた。そんな事もあるんだと思いながら通り過ぎようとすると、何かを吸う様な音が聞こえた。何かと思い、そっと部屋に入いると、見知らぬ人の男性の肩に噛みついて血を吸っていた。マスクはエリカが見ていたことに気付くと、嬉しそうに笑う。
「エリカ、お前も一緒に血を吸おう」
マスクは全身血まみれな状態で、どんどん近づいてくる。エリカはあまりの怖さに、後退りをしながらヴァンパイヤ場を飛び出すと、ハルナから近寄ってはいけないと言われたら森の中へ逃げ込む。そのまま森の中を走り続けるエリカは、マスクが着いて来ていない事が分かると、走らせていた足を止め、ゆっくりと歩きだす。ふと我に返ると、出口が分からなくなってしまった。
エリカは辺りを見渡しながら、森の中をまっすぐ歩いていると、何処からか少年の様な声が聞こえた。よく聞くと上の方からだ。上の方を見ると、向かい側の大きな木の上に剣士と思われる少年が立っていた。
「どうした?」
「道に迷ってしまって」
「そうか、とりあえずこの先の街に行こう。事情を話せば、何とかしてくれるから」
「はい」
エリカは少年について行く。エリカはチラチラと後ろを見る。
「さっきから後ろばかり見てるけど、誰かに追われてるのか?」
「はい。・・・実は私、半吸血鬼何です」
「えっ、吸血鬼?」
「はい。ですが、血は吸えません」
「血が吸えないなら良かった。此処が俺達の愛する街さ」
「広いですね」
「ああ、これはオサが作った街だからな」
「おお、スラムではないか。どうしたんだ、こんな所で」
「ちょうど良い所に来ましたね、オサ。
実はこの子がオサに話があるって言うんだ」
スラムと言う少年は頷くと、エリカは語り出した。
「私はエリカと申します。お願いがあるんですけど、良いですか?」
「勿論さ。何でも言ってくれ」
「お願いと言うのは、この街に住ませて欲しいと言うお願いです。もし私をこの街に住ませてくださると言うのなら、約束をして欲しくて」
「約束?」
「はい、実を言うと私は半吸血鬼何です。ですが、一度も人の血を吸った事はありません。もし私があの方に襲われ、この街の人を傷つけてしまった場合は、肉なり焼くなり何でもしてください」
「あの方?」
「本物の吸血鬼の、私の父です」
「本物の吸血鬼・・・」
オサはただただ呆然となるだけだった。
「父は今まで、人の血を喰らう事はなかったのですが、ある日突然、人の血を喰らい始めたのです。それで私は父に追われて怖くなり、母から近寄ってはいけないと言われた家から見える、あそこの森に逃げ込んだのです」
エリカは森を指差す。オサは悲しそうな顔をして、エリカが指を差す森を見た。
するとオサは全てを認め、エリカを見た。
「住んでいいぞ」
「本当ですか?」
「ああ」
「ありがとうございます」
エリカは何度も頭を下げた。
「良かったな、エリカ」
「はい。スラム様もありがとうございます」
「ハハハハ、スラムで良いよ。此処に住む限り、部屋が無いとな」
スラムが案内してくれたのは、手入れが かなり行き渡っている8畳ほどの部屋だ。
右上には小窓があり、ベッドが置かれていて、まるでヴァンパイヤ場の様だ。
ヴァンパイヤ場の自分の部屋は真っ暗で、真ん中にベッドとベッドを囲うカーテンがある。ヴァンパイヤ城には吸血鬼が住んでいるので、自分の部屋もとても暗い。
廊下の灯りは、太いろうそくの火だけだ。
吸血鬼はよほど日の光が嫌いなのだろう。
今、改めて分かった。一つ疑問がある。それは自分は半分吸血鬼で、日の光は苦手なのか。自分的には苦手ではないと思う。
半吸血鬼なので、外に出る時は気を付けなければならない。
「此処がエリカの部屋だ。好きに使ってくれ」
「はい」
エリカは部屋に入ると、早速ベッドの上に座る。
(こんなふかふかなベッド、初めて!)
エリカは興奮する。エリカは今夜が楽しみで仕方なかった。
その夜。
「この街にエリカが来たので、皆んなで宴を開こうと思う」
「イェーィ!」
街の住人は一斉に歓声の声を上げる。
(宴って何だろう?)
エリカは今まで外に出た事がないので、詳しい事はあまり分からない。ただ分かるのは、外の世界がとても楽しい事だ。
「この街では、新しく住人が増えるとこうやって宴を開くんだ」
オサは元気いっぱいに言った。そして、街の皆んなでご馳走を食べた。
宴が始まってから、2時間が経った。
楽しい宴は終わり、皆んなは自宅に帰って行く。こんなに楽かったのは生まれて初めてだった。エリカは嬉しそうに笑いながら、自分の部屋の布団へ入る。
(この街、大好き)
エリカは生まれて初めて"好きな物“に出会った。眠りにつきかけていた頃、外で大きな音がした。何か気配を感じる。
エリカは慌てて外に出ると、目の前にマスクが立っていた。
「お父様、何故此処が分かったのですか?」
マスクはその質問に答えない。すると、音を聞いたオサとスラム、住人が駆けつけて来た。
「この人が、君のお父さん?」
「はい」
瞬間、マスクはスラムに噛みつきそうになった。
「危ない!」
エリカはスラムとオサを押すと、牙を見せたマスクは、エリカの右肩に勢いよく噛みつき、一気に大量の血を吸う。
「うっ」
エリカの肩から大量の血が流れる。だが、痛みに耐えながらもマスクを抱きしめる。
「お父様。お願いです。私を殺しても良いので、どうかこの街の人達は襲わないで下さい」
「ガアアアアー」
マスクは血の付いた牙を、空に向かって差し出し叫ぶ。お腹がいっぱいになったのか、マスクは人を襲わなくなった。
安心したエリカは、フラフラしながら肩を抑えてその場に座り込んだ。
「エリカ、大丈夫か?」
「スラム・・・様・・・」
スラムが駆け寄ると、エリカは意識を朦朧とさせながら、スラムにもたれかかるかの様に倒れた。スラムはエリカの肩を抱く。
「凄い出血だ。誰か止血できる物を持って来てくれ」
「はい」
そうしている間に、マスクは住人に連れられ地下牢へ入れられた。
「これで良いですか?」
住人の1人はタオルの様な物を、スラムに手渡す。
「ああ、ありがとう」
スラムはエリカの肩にタオルをキツく縛ると、エリカを抱えて部屋に寝かせる。
数分後。まるで吸血鬼騒ぎがなかったかの様に、街がしんと静まり返る。そんな中、スラムはエリカにずっと付き添っていた。
次の日の午前中。エリカは目を覚ました。
目を開くと自分の部屋の天井を見ていた。
エリカは自分の横を見ると、スラムがいた。エリカは飛び上がる。
「スラム様。お父様は、うっ」
エリカは右肩を抑える。
「まだ動いたら駄目だよ」
スラムはエリカを横にさせる。
「君のお父さんは地下牢にいるよ」
「そうですか。あの後、父は私以外に襲いませんでしたか?」
「うん、襲ってないよ」
「良かったです。きっと父は、お腹がいっぱいになったんだと思います」
「ずっと聞きたかったんだけど、吸血鬼って人間以外も襲うの?」
「吸血鬼は基本、人間しか襲いません」
「じゃあ、どうしてお父さんはエリカを襲ったりしたんだろう?」
「それはきっと、私の意思が人間だからではないでしょうか」
「えっ」
「半分吸血鬼でありながら魔法も血も吸えない私が、父は嫌いなのでしょう。それにあんなに血を欲しがっていたのは、よほどお腹が空いていたんですね」
「エリカは、お父さんが怖い?」
「正直、とても。ですが、吸血鬼で怖いと思う心情はこの世で初めてだと、母から聞きました」
「エリカは今までどうして暮らしていたの?」
「私の住むヴァンパイヤ城では本物の吸血鬼がいる所で、ずっと外の世界に出ずに暮らしていました」
「これが初めての外の世界?」
「はい」
「でも、何か凄いね。一度も血を吸わないなんて」
「確かに、吸血鬼では珍しいですね」
すると、スラムの仲間の呼ぶ声がした。
「スラム、修行に行くよ」
「はーい、行って来るね」
「頑張って下さい。いってらっしゃい」
2人は手を振る。エリカは目を閉じると、またまた深い眠りについた。
数時間後。外はもう夜になっていた。
エリカはまたまた目を覚ますと、ベッドに座り、夜の光が差す窓をじっと見る。
エリカはベッドから離れると、扉を開き、外に出ると、マスクのいる地下牢へ向かった。
地下牢へ到着すると、見張りをしている人の間を通る。すると壁に映された人影が見えた。ハルナだ。ハルナはこちらを見た。
「エリカ、傷は大丈夫?」
「はい。それより何故お母様が此処に?」
「貴方が家を出た2日後に、お父様はエリカを探し出したの。そしたら街にエリカがいると言って、嬉しそうに探しながら街を襲いかけたところに貴方がいたの。私は、せめて貴方だけは傷つけたくないと思って、お父様をつけて来たの」
「そう、だったの・・・」
エリカは少し驚きながら、マスクを見る。
すると、マスクが珍しく話し出した。
「やっとエリカを見つけたと言うのに、何故私から引き離すのだ?」
「それは・・・」
ハルナは戸惑いながら、言葉を失う。
「私が人間だからです」
普段なら「吸血鬼だ」と毎日言い張る様なマスクが、今は何も言わない。エリカの血を吸って、分かったのか。だが、認めてはいなさそうだ。
吸血鬼は血を吸うと、吸った人の気持ちが分かると、叔父のハスクから聞いた事がある。血を吸った事がない自分には良く分からないが、不思議だと思った。
エリカはその場を去ると、自分の部屋へと向かった。
「エリカ?」
エリカは後ろを振り返る。
「スラム様」
「動いて大丈夫なのか?」
「はい」
「それなら良かった。少し歩こうか」
「はい」
「エリカは何をしに行ってたの?」
「父の様子を見に、地下牢まで」
「お父さん、どうだった」
「いつもと違いました。普段は私が人間だと言っても、吸血鬼だと言い張る父が、人間な事を反対しませんでした。ですが、認めてはいない様です」
「エリカがお父さんに近づいても襲われなくて良かった」
エリカとスラムはふっと笑う。
「スラム様は何をしていたんですか?」
「俺は修行をしていたよ。本当は2時間前に終わったんだけど、強くなるために1人で。ちょうど今終わった所なんだ」
「修行、お疲れ様です」
「ありがとう、エリカ。俺、もっと強くなって、街の皆んなやエリカを守りたいんだ」
スラムはエリカを笑顔で見つめる。エリカは守ると言われて、照れくさくなる。
スラムは誰よりも優しく、私を大切に思ってくれている。そんなスラムが好きだった。
この街で暮らし始めてから、2ヶ月が経つ。そんなある日、この街に最も大きな危機が迫って来た。
エリカは楽しそうにスラムと歩いていると、目の前にフロックコートを着て、鋭い牙を生やしている男性が現れた。マスクだ。
捕まって、地下牢にいるはずじゃあ?
突然現れたマスクに、エリカは戸惑う。
地下牢に長い事いたので、寂しくなったのか。マスクは後ろに立っていて剣を鞘から抜くスラムを見ると、スラムに向かって襲いかかる。だがマスクよりも早くスラムの前に立ち、両手を広げ、スラムを庇った。マスクの狙いはエリカではなく、住人でもなくスラムだった。スラムに何か恨みでもあるのか?
「エリカ、そこをどけ」
「嫌です」
生まれて初めて家族に否定した。
マスクはエリカに否定されて、苛立つと、エリカを押してスラムに飛び掛かる。
どれだけ押されても、すぐに立ち上がり、スラムの元に行く。
ずっとスラムを守っているので、マスクは狙いをエリカに変えた。
マスクは空高く飛ぶと、ずっと強く握りしめる剣を強引に奪う。
「しまった」
スラムは剣を取り返そうと、飛ぶマスクを見る。瞬間、マスクは閃光弾を投げると、白い煙がモクモクと上がるのと同時に、エリカの腹を深く刺す。
閃光弾の煙が止む頃には、エリカは腹を刺されていた。グハッ。エリカは吐血した。
「エリカ」
スラムは駆け寄ろうとすると、エリカが腹を抑え、かなり踏ん張りながら語り始めた。
「スラム様、逃げて下さい」
「エリカを残して逃げれないよ」
「私はスラム様や住人が助かれば、それで良いんです」
「でも・・・」
スラムはエリカを見て何か悟ったのか、悲しそうな顔をして頷いた。
「分かった」
スラムが逃げようとした時、マスクは近くの建物にエリカを投げ飛ばした。建物にヒビが入り、破片がエリカの体に当たる。
マスクはスラムを追いかけ様とする。
エリカは歩くのもままならない状態で、ふらつく足を動かしながらマスクを止める。
「お父様・・・。これ以上、街を壊すのはやめて下さい」
「何故やめなければいけない。エリカを連れ戻せさえすれば、私は街1つや2つくらい無くなっても良いのだが」
「何度連れ戻されても、この街は私が守る」
エリカは息を切らせながら言う。
「お前には、この街は守れない」
マスクはエリカを睨む。
「何故・・・ですか?」
「お前は吸血鬼だからだ」
「吸血鬼でも、守りたい物はあります」
「お前は牙も生えていないし、血も吸えない。吸血鬼として、ふさわしくない。お前はもう、私の子ではない」
その時、マスクはエリカを再び刺した。エリカには、その言葉が酷く心に刺さった。
するとマスクは、エリカを抱えてヴァンパイヤ城に連れて帰る。
「お父・・・様」
エリカは薄らと目を開け、微かに呟いた。
気が付くと、ヴァンパイヤ城の玄関に横たわっていた。マスクの姿はなかった。
エリカは立ち上がると、玄関の扉を開く。
ゆっくり歩いて行くが、上手く歩けない。
「エリカ様」
叔父のハスクの声が聞こえた。
「叔父・・・様・・・」
エリカはハスクの元へ行こうとするが、大量出血のあまり、視界がぼんやりして意識を失いかけた。倒れそうなエリカを、ハスクは優しく受け止めた。
「エリカ様、エリカ様」
ハスクの声がどんどん遠ざかっていく。ハスクは傷だらけのエリカを部屋まで運ぶ。
すると、ハルナが焦りながら部屋に飛び込んで来た。
エリカの寝顔を見て、ハルナは涙を流す。
「どうしてこの子が傷つかなきゃいけないの?」
「・・・」
「吸血鬼って、大切な人も傷つけるんですか?」
「いえ、血の繋がりがある人は襲いません」
「じゃあ、この子とマスクとは血が繋がっていないの?」
「エリカ様とは、血は繋がっています」
「傷付けないって約束したのに・・・」
30年前の冬。ハルナは楽しそうに外で遊んでいると小石に気付かず、転んでしまった。ハルナは泣きそうになる。すると、
「大丈夫?」
ハルナと同じくらいの少年が手を差し伸べる。その少年の瞳は優しい赤で、黒い服で体を包んでいた。ハルナは少年の手を取ると、立ち上がった。
「ありがとう・・・あの、お名前は?」
「僕はマスク」
「私はハルナ」
「よろしくね、ハルナさん」
「よろしくお願いします、マスク君」
「ハルナさんは、あそこの街に住んでいるの?」
マスクは街を指差す。この街は今、エリカが暮らしている所だ。
「うん。私、あそこの街に住んでいるの。マスク君は?」
「僕はお城に住んでいるよ」
「お城って素敵よね。マスク君はお金持ちなのね?」
「お金持ちって訳じゃないけど・・・」
マスクは辺りを見渡すと、ハルナを見る。
「驚かすかもしれないけど実は僕、吸血鬼なんだ」
「吸血鬼?」
「人間の血を吸うんだよ」
ハルナは怖い顔すらしなかった。
「吸血鬼か。凄いな、昔話が実在するなんて」
「僕が怖くないの?」
「怖くないよ。でもマスク君は私の血でも吸えるの?」
「吸えるは吸えるけど、まだ血は吸ってない」
「ご飯は何を食べているの?」
「ぶどうジュースのフリをした、血だよ」
これは叔父のハスクが良く飲んでいる物だ。
「それって、美味しいの?」
「うん。結構美味しい」
「マスク君は、私の血を吸いたい?」
「いや、吸いたくない」
マスクは迷わずに答えた。
「そう言えばマスク君が着てる服って日の光を通さない為?」
「うん。吸血鬼は日の光が苦手だから、普段は外に出ないんだけど、この服を着れば外に出ても平気なんだ」
「その服、最強だね」
「うん」
2人はいつの間にか仲良くなり、付き合いもどんどん長くなっていく。それにつき、お互いの好意を抱き始めていた。
マスクとハルナが出会ってから8年後。
2人は成長し、森の中を歩いていた。
「ねぇ、マスク君」
「何?」
「出会った時からずっと言いたかったんだけど、結婚しない?」
「結婚?」
マスクは少し驚いた顔をする。
「うん」
「でも、ハルナさんと結婚したら、生まれる子供はハーフになるよ?」
「それで良いの。だって、吸血鬼と人間の血を引くって凄い事じゃない?」
「凄いけど、仮に子供が人間と結婚したら吸血鬼の血はかなり薄くなるよ?」
「マスク君がそれで良いなら、私は貴方と結婚する」
「まあ、別に良いけど」
「じゃあ約束して。もし子供が人間だって言っても、傷つけずに認めてあげてね」
「うん、約束する」
2人は指切りをしたのだった。
♯
「ハスクさん。エリカはいつ目を覚ますのですか?」
あれから1週間。エリカは1度も目を覚まさなかった。
「それは、私にも分かりません」
ハスクは医者を呼んでエリカを見て貰ったが、原因はただ1つ。大量出血のあまり、体が再生出来ていない事が判明した。ハルナは必死にエリカを見守る。
「ハルナさん。エリカ様は私が見るので、今日はお休みになられて下さい」
「そうするわ」
ハルナは椅子から立ち上がると、自分の部屋に向かった。
「エリカ様・・・」
ハスクはエリカを見つめた。
眠り続けてから、2週間後。エリカはようやく目を覚ました。
「叔父様」
「エリカ様」
ハスクは安心すると、優しい笑みを浮かべた。エリカも隣にいたのがハスクで安心したのか、涙を流しながらハスクの胸に飛びついた。ハスクはそんなエリカを優しく抱き締める。
「叔父様。私は吸血鬼として、ふさわしくないんですか?」
「ふさわしいよ。ただエリカ様は他の吸血鬼と違うだけですよ」
「他の吸血鬼と違う?」
「エリカ様は人間と吸血鬼のハーフだからですよ」
「じゃあ、お父様がふさわしくないって言ったのは?」
「エリカ様を守るためですよ」
「私を、守るため?」
「兄上は昔、エリカ様と一緒で血を吸いませんでした。それで皆んなから追い詰められてしまいました。なので兄上は、エリカ様が半分人間でも同じ事にならない様に言っていると思うんです」
「叔父様、正直に答えて下さい。私は人間ですか?」
「人間だよ」
エリカは目を見開くと、笑顔で笑った。エリカにとってハスクは、吸血鬼の中で最も自分の事を分かってくれる人だ。
「正直を言うと私は、エリカ様が人間の方が良いな」
「叔父様は私が人間でも良いんですか?」
「むしろ人間の方が良いよ。血も吸わないからね」
「叔父様は人間の血は好きですか?」
「好きではないかな。私達吸血鬼族は、人間は襲わない習性があるからね」
「いつも飲んでいるのは、ぶどうジュースですか?」
「ジュースに見せかけたワインだよ」
「お父様も同じですか?」
「昔はそうだったよ。でも今は変わってしまったね」
「吸血鬼は人の血を吸わないと駄目なんですか?」
「そんな事ないよ。フレナみたいに血を吸わなくても、普通の吸血鬼だよ」
エリカはほっとする。
「叔父様。私、人間の世界にもう一度行きたい」
「良いよ。行っておいで」
「でも、お父様に止められないかな?」
「大丈夫。今からこっそり行けば見つからないよ」
「じゃあ行って来ます」
「いってらっしゃい、エリカ様」
2人は笑顔で手を振った。
♯
エリカは街に続く、森の中を歩いていた。
すると街と森の付け根の辺りに、オサと住人、その奥に俯くスラムが立っていた。
帰りを待っていてくれたのかと喜ぶと、オサに近づく。何故だが皆んな険しい顔をしている。オサが斧を身構えると、代表するかの様に1歩前へ出た。
「お前が来たから街はメチャクチャになったんだぞ」
そんな事を言われるなんて、夢にも思わなかった。
「スラム、2度とエリカに会うな」
「・・・はい」
スラムまで会えなくなってしまう。
「今すぐこの場を立ち去れば、見逃してやる。だが、嫌だと言うのならお前を殺す」
人間に殺されるのは怖い。だが、吸血鬼の自分のせいでこんな事になってしまった。
こんな事になっておいて、嫌だ、殺さないで下さい、なんて言える訳がない。皆んなに迷惑をかける位なら、この街を出て、吸血鬼として生きていこう。そう決めた。 やはり吸血鬼の自分が人間の世界で住む事は出来ないと、初めから分かっていた。でもこの街は好き。だからこの街を選んだ。
だがここで悩んでいても仕方がない。ならもう、出て行くと言った方が良い。
「街から出て行きます」
エリカは皆んなに背を向けると、森に向かって歩く。色んな思いが頭の中で混ざり合い、涙を浮かべながら森の中を走る。
エリカは森の中に消えていった。オサと住人は、森を見ると街に戻っていった。だがスラムはエリカを心配し、森の中に入ると、エリカを探し出す。探し続けていると、黒い服にフードを被って俯いて座っている少女を見つけた。エリカだ。
「エリカ」
スラムはエリカに近づく。
「私と会うなって言われませんでした?」
「言われた。でもエリカと会わないなんて出来ないよ」
(私を心配するのは、家族しかいない。私と会えるなんて、作り話に決まってる)
「これ以上私といると、見つかりますよ」
「エリカの為なら見つかっても良いよ」
「私の心配をしないで下さい」
「どうして?」
「私は吸血鬼です。人間なんかじゃありません」
スラムはエリカの横に座る。
「俺はエリカが吸血鬼でも人間でも、必死に生きようとするエリカが好きだよ」
エリカは顔を上げ、スラムを見つける。
好きだ、なんて生まれて初めて言われた。
今までの想いが溢れかえり、涙が流れる。
「スラム様」
エリカは自ら抱きついた。スラムもエリカを優しく抱きしめる。そんな時だった。
「スラム、会うなと言ったはずだ」
「・・・」
オサはエリカを睨む。
「お前がスラムを誘導したのか」
「・・・はい」
「エリカ」
スラムはエリカをじっと見る。
(エリカは何を考えているんだ?)
「今度こそ、お前を殺してやる」
オサは鎌をエリカの身体中に振り下ろす。
あちこちから血が流れる。だがエリカは、まるでそれを知っていたかの様にオサにも抵抗もせず、傷つけられ倒せるばかりだ。
「エリカ」
スラムはエリカに近づく。
「こっちに来ないで下さい」
「どうして?そんなに傷ついてるのに」
「街がメチャクチャになったのは、私のせいなんです」
スラムは、何も言えなくなってしまった。
オサ達は傷つけられたエリカがもう動けないだろうと思ったのか、エリカを睨みながら去って行った。エリカは傷も抑える事なく立ち上がる。
「エリカ」
スラムはエリカに近寄る。
「来ないで下さい」
エリカはスラムを怖がるかの様に、1歩後退りする。
「俺と一緒に、違う街で暮らそう」
スラムはエリカが後退るのを無視し、エリカに近づく。
(嫌)
エリカは思わず、スラムの頬を吸血鬼の爪で引っ掻いてしまった。スラムの頬から血が流れる。今までずっと隠していた吸血鬼化がとうとう出てしまった。エリカは引っ掻いてしまった、血の付いた自分の手を見ながら更に後退ると、そのままどこかへ走って行ってしまった。
(どうして此処で、吸血鬼化が出るの?)
ハーフ吸血鬼はエリカの様に吸血鬼だと思い込んでしまうと、気付かぬ間に吸血鬼化が進んでしまい、人を襲ってしまう事がある。時には血を吸ってしまう事もある。
此処まで来れば、スラムは追いかけて来ないだろう。エリカは走っていた足を止める。やはりあの街には居てはいけない。人間が怖い。いつの間にか、そう感じていた。
エリカは近くの木に持たれる様にして座る。いっその事、ヴァンパイア城へ帰ろうか迷う。瞬間、頭に作戦が浮かんだ。父、マスクと戦えば良いんだと。エリカは自分の考えに戸惑うが、すぐに立ち上がりヴァンパイア城へ向かった。その先に見えたのは、珍しく外に出ているマスクが玄関の周りに咲いている花を眺めていた。エリカは黙ってマスクの様子を見る。すると、マスクが気配を感じたのか、エリカいるの方に視線を向けた。
「エリカ、戻って来たのか?」
マスクは嬉しそうだった。だがフードの奥のエリカの表情を見て、近付こうとする足を止めた。エリカの顔は”本物の吸血鬼“だったからだ。マスク譲りの赤い目に、少し見えにくいが、小さな牙が生えている。
「ねぇお父様。私と戦ってくれますか?」
「勿論だ。先にエリカからやって良いぞ」
エリカは静かに頷くと、吸血鬼の誰もが持つ魔法を使ってマスクを攻撃した。突然使い出したその魔法の威力に、マスクは放心状態になる。
(今まで、こんな力を蓄えていたのか?)
マスクはただただ魔法を見ているだけだった。気づいた時には、自分の左肩から右の腹部までざっくりと切られた。傷口から服にも染み渡るくらいの真っ赤な血が流れる。だがエリカは、マスクの血を見ても全く怖がらなかった。
「エリカ・・・何故お前は魔法も牙も生えているんだ?」
「吸血鬼化が進んだだけです」
「吸血鬼化?」
「私の様なハーフ吸血鬼に多いんです。吸血鬼化と言うのは自分が吸血鬼だと思い込んでしまった時に起こりゆる現象です。吸血鬼化が進んでしまうと、血を吸ったり人を襲ってしまうんです」
「そう、だったのか」
マスクは吸血鬼化その物を知らなかった。
「エリカ。もう好きな様に生きて良いぞ」
「好きな様に?私が吸血鬼じゃなくても良いんですか?」
「良いさ。エリカの吸血鬼の姿が見れたから」
生まれて初めてそんな事を言われた。エリカと戦って分かったのか。今まで、吸血鬼姿を見たかった様だ。
「お父様」
呼びかけても返事がない。何故ならマスクが眠っていたからだ。戦う時に使った動きを鈍くする魔法と、催眠術を混ぜた物魔法だ。エリカは先程マスクが見ていた、玄関の周りに咲く花の隣に眠るマスクをそっと座らせる。
「お元気で」
エリカはマスクの前でふっと笑うと、とても怖がっていた人間の街に足を運んだ。
オサに会わない様にと願いながら、地面に生えている緑色の草を踏みながら歩く。すると、何故が懐かしく感じるスラムの声が耳に入った。
「エリカ?」
エリカはゆっくりと顔をあげる。
「スラム様」
顔をよく見ると、引っ掻いてしまった頬の血が止まり、傷も見えないくらいになっていた。エリカはスラムの頬にそっと手を当てる。
「さっきは引っ掻いたりして本当にごめんなさい」
「良いよ。別に気にしてないから。それより、エリカは何処に行ってたの?」
「私はヴァンパイヤ城へ行って、父と戦っていました」
「襲われたの?」
「いえ、私が父を戦いに誘いました」
「どうなったの?」
「動きを鈍くする魔法と催眠術を混ぜた物を使いました。その結果、父は眠りにつきました。それに・・・」
「それに?」
「好きに生きろと言われました」
エリカは嬉しそうな笑みを浮かべる。
「良かったね」
「はい」
それから2人は街に帰る。オサや住人にも
謝り、この町で暮らす事を決めたのだった。
暮らし始めてから間も無く10年が過ぎる。
エリカはここの住人として生きていく。
そんなある日、照れくさそうにするスラムがやって来た。
「エリカ、俺と結婚してくれますか?」
スラムはエリカの前で、光り輝く指輪を見せる。
「はい!」
スラムの告白を知っていたのか、街の皆んなから大きな喜びの歓声が上がった。数日後、2人は結婚。翌年、子供が生まれた。
子供の名前はリラ。女の子だ。リラはスラムに良く似ている。
そして時々、生まれ育ったヴァンパイヤ城へ行く。3人で中に入ると、帰りを待っていたかの様に家族全員が出迎えてくれた。マスクもとても嬉しそうに笑っている。
「おかえり。エリカ」
「ただいま」
「エリカ、その子は?」
「私と彼の娘だよ」
瞬間、マスクはハンカチで絞れるくらい大量の涙を流し、リラと共にエリカに抱きついた。孫が見れて、よほど嬉しかったのだろう。
「結婚したんだね」
「うん」
家族全員は一斉にスラムを見る。
「貴方がスラム君だね」
「はい。何故分かりました?」
「子供の頃、エリカが良く貴方の事を話していたのよ」
「エリカが?」
スラムは隣にいるエリカを見る。エリカは嬉しそうな笑みを浮かべて頷く。
(何か、嬉しいな。エリカの家族に歓迎されて)
スラムは満面の笑みを浮かべた。
#今では少し大きくなったリラを連れて、街とヴァンパイヤ城を行き来している。
リラはエリカとスラムだけでなく、街の皆んなからも愛され、幸せに暮らしている。
リラがもっと大きくなったら、ハーフ吸血鬼だった事を話してみようかな。
完
吸血鬼は人間の血を吸わないと、どんどん弱っていくんですよ。知っていましたか?




