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復活の魔女  作者: 杉山薫
魔法の種編
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4話

 あの不思議な仕事から1週間が経過している。僕はあれからずっと家に籠もっていた。そりゃ、そうだろ。2.5日で9万なんて。あの日以来、バイトのサイトであの雇い主は募集を掛けていない。


そんなある朝のこと。


ドアをノックする音。とりあえず、無視。ドアをドンドン叩く音。


僕は仕方なくドアを開けた。

誰もいない。


ノックする音。とりあえず、無視。ドアをドンドン叩く音。


近所迷惑だろ。

常識ねえな。


僕は仕方なくドアを開けた。

誰もいない。

ドンドンやってピンポンダッシュかよ。常識ねえな。


ドアを閉めて寝床に戻る。


「ちょっと何やってんのよ? ノックしたらすぐ開けなさいよ!」


いや、防犯上、すぐ開けないのが、正解だろ!


てか、ミホだ。

相変わらず失礼な女だ。


「仕事よ。サイトに仕事依頼したから。現場に直行して。あ、メガネ忘れないでね」


こいつ何言ってんだ?

仕事って、応募してねえのに……。


僕は慌ててスマホでアルバイトのサイトを開く。


マジかよ。

決定してるし。


取り消しボタンもない。

どうせ運営に連絡しても、この間と同じ対応だろう。


まあ、いいか。

日給3万なら。


日給10万!


これ絶対ヤバいやつだろ。

今話題の闇バイトだよ。

僕の人生終わったよ……。

いや、まあね。

元から終わってたわ。


僕はサイトの仕事内容を確認。

殺人事件の犯人の特定。


殺人事件!


そんなの一般人に特定できるわけねえだろ。

無理。

無理。

無理。

絶対無理!


「ちょっと何やってんのよ。準備できた?」


「殺人事件って、民間人じゃ無理だろ」


「これギルドからの依頼だから、ギルドで探偵登録したあんたならできるよ」


「警察が黙ってねえだろ」


「その警察からの依頼なのよ。さっさとして。本当、かおるはグズなんだから」


僕は急いで着替えをする。


現場はN大学キャンパス1号館102教室。


そりゃ、近所だけどさ。

非正規の僕が立ち入っていいのか?


「ホラ、準備できたら、さっさと出発よ」


 僕はN大学キャンパスに足早に急ぐ。僕の家の近くでこんなに頻繁に事件って起きるもんなんだな。まるで、あの都市伝説みたいだ。


どんな都市伝説だって。


名探偵の行くところ殺人事件ありってね。


そんなこと考えてたらN大学キャンパスに到着した。


緊張する。


N大学キャンパスの正門。

守衛さんがこっちにくる。

ホラ、やっぱり非正規オーラが出てるんだよ。


守衛さんの引き留める声。


「ちょっと、お嬢ちゃん。お兄さんかお姉さんと待ち合わせかい?」


お、お、お嬢ちゃん?

どう見たって、僕は男だろ!


「うっせえな、ジジイ。こっちは仕事なんだ。引っ込んでろ!」


ミホの怒声。


「もう、お嬢ちゃん。いい加減にしてね。こっちも仕事なんだから」


ふたたび守衛さんの声。


「おい、かおる。サクッと事件解決しとけよ。後で行くから」


ハイハイ、できればずっと捕まっていてほしいな。


 僕は1号館102教室に到着した。警察の警戒線が張られている。僕は前回同様に無視して教室侵入した。


おかしい。


警戒線が張られているのに、学生が5人、教室の中にいる。重要参考人か何かか。教室の前の方には警官が2人。


でも、殺人事件の割には死体がない。死体がないのにどうやって犯人を特定するんだよ。


もういいや。僕は聞き込みを開始する。まずは机に両肘をつき呆然として椅子に座っている女学生。


「藤堂教授がね」


ん?


念のためもう一度。


「藤堂教授がね」


ああ、こいつはこっちの奴で決まりだな。


次に窓際の席で文庫本を読んでいる男学生。男学生っておかしいか。男でいいや。


「僕はやっぱり悪役令嬢だね」


ラノベかい!


念のためもう一度。


「僕はやっぱり悪役令嬢だね」


こいつもこっちの人間で確定だね。


次は一番前の席で寝ている男。


「佐伯さんは何しているんだろう?」


佐伯さんって誰?


念のためもう一度。


「佐伯さんは何しているんだろう?」


次は前の出入口でドアを叩いている女学生。


「このゼミは魔法の種の研究をしている」


念のためもう一度。


「このゼミは魔法の種の研究をしている」


へえ、ここでも魔法の種か……。

魔法の種は人気者だな。


最後に警官の2人。

警官Bに話掛ける。


「おかしいな。確かにこの教室に死体があるっていう通報きたのに」


念のためもう一度。


「おかしいな。確かにこの教室に死体があるっていう通報きたのに」


だからね。

それをいたずら電話っていうの。

暇なのか!


警官Aに話掛ける。


「名探偵遅いな」


だから民間人に頼るな!


 全員に声を掛けたので僕は後ろの出入口から教室を出る。


「ご苦労様。もう解決したの? あんたにしては早いわね」


出入口でミホに話掛けられる。


「いや、死体なんてなかったですよ。誤報ですよ。誤報」


「ちょっと、あんた。まさかとは思うけどさ。今、メガネしてる?」


「持ってますけど、ハイハイわかりましたよ。掛ければいいんでしょ」


僕がそう言うとミホは苛立つ。


「あんたね。探偵でしょ。探偵はみんなメガネすんのよ。さっさとメガネかけろ。グズ」


完全なパワハラだ。


僕は仕方なく胸ポケットからメガネを取り出し掛ける。


「ホラ、早くしてよね。日10万の仕事なんだから」


僕は仕方なくふたたび教室に入る。人の配置は変わっていない。変わっていない?


ん?


なんだろ。

警官2人の間で倒れている赤ペンキまみれのオジサンがいる。僕は気になって最初にそのオジサンの元に歩いていく。


なんだろ。

頭部と上半身が赤ペンキまみれのオジサン。


「⋯⋯」


死んでいるようだ。


僕は隣にいる警官Aに声を掛ける。


「おお、やっと来たか。名探偵」


だからね。

民間人に頼るな!


机に両肘をつき呆然として椅子に座っている女学生。


「変なオジサンがいきなり教授の頭に鈍器のようなもので叩きつけたの」


おお、いきなり核心部分の証言!


念のためもう一度。


「変なオジサンがいきなり教授の頭に鈍器のようなもので叩きつけたの」


ちょっと待て。

そんなことしたら死んじゃうよな。


次に窓際の席で文庫本を読んでいる男に声を掛ける。


「悪役令嬢で魔法少女に転生。グフフフ」


意味がわからん。


念のためもう一度。


「悪役令嬢で魔法少女に転生。グフフフ」


次は一番前の席の男。


「佐伯さんはなんでドア叩いているんだろう」


ああ、あの女学生が佐伯さんってことか。


念のためもう一度。


「向こうに何かあるのかな?」


出入口なんだから向こうにあるのは廊下だけどね。


次は前の出入口でドアを叩いている佐伯さん。


「この向こうは時の狭間」


念のためもう一度。


「この向こうは時の狭間」


なんだ?

時の狭間って。


もう一度、教室の前の方に行き、警官Bに話掛ける。


「うわっ、血だらけだ!」


血?

赤いペンキに見えるけど。


念のためもう一度。


「うわっ、血だらけだ!」


ん?


なんか変だぞ!


僕はずり下がってきたメガネのボタンに手を掛ける。


ポチッ!


その瞬間、僕の頭にこの教室での会話が蘇る。


『数』


だから何の数なんだよ。


僕は教室を見渡す。


ん?


なんだろ。

1人足らないような気がする。

いや、気のせいだろう。


机に両肘をつき呆然として椅子に座っている女学生。


「変なオジサンってね。あれ、なんでオジサンだって思ったんだ?」


知らねえよ。

お前が見たんだろ!


念のためもう一度。


「変なオジサンってね。あれ、なんでオジサンだって思ったんだ?」


次に窓際の席で文庫本を読んでいる男に声を掛ける。


「魔法の種は未来からきたんだ」


へええ。

って、未来って。

おいおい、大丈夫か?


念のためもう一度。


「魔法の種は未来からきたんだ」


次は一番前の席にいる男。


「佐伯さんは藤堂教授の助手」


こりゃ、失礼。

女学生かと思ったら助手だって。


念のためもう一度。


「佐伯さんは藤堂教授の助手」


次は前の出入口でドアを叩いている佐伯さん。


「藤堂教授が殺された。次は私」


なんで?


念のためもう一度。


「藤堂教授が殺された。次は私」


なんだ。

この違和感。


僕は警官Bに話掛ける。


「なんだろ。ダイニングメッセージかな?」


ん?


赤いペンキで何か書いてある。


『魔法の種は暴走する』


暴走?


警官Aにもとりあえず声を掛ける。


「そろそろ推理タイムといこうか。名探偵!」


だから、民間人に。

もういいか……。


そういえば。

この倒れているオジサンにも話掛けよう。


「魔法の種が盗まれた」


ホラ、やっぱり死んでない。

ハイハイ、事件解決。

さっさと帰ろう。


僕は意気揚々と後ろの出入口へと歩いていく。


えっ!


僕は何もない場所で何かに躓いて転んだ。


なんだよ。

躓いた拍子にメガネも外れて落としてしまう。


メガネ。

メガネ。


いや、僕は元々視力はいい方なので、別にメガネがなくても見えるはずなのだが。


メガネが見えない。

どこにもない。


僕は出入口に行き、ミホに話掛ける。


「やっぱり殺人事件じゃなかったですよ」


「あんた、そんなわけないでしょ。ちゃんと仕事しなさいよ。給料泥棒!」


「ちょっと頼みがあるんだけど」


「仕事と関係あるの?」


「わからんけど教室の中のあのへん見てくれる?」


あのへんとはさっき躓いたあたりを指差しているのだが。


「だからね。あのへんとかやめろよ。あたしにはあんたが見えないんだから」


「いや、出入口のちょっと先だから。ちょっと見て」


「仕方ないな。あんたちゃんと仕事しなさいよ」


どうやらミホも観念して教室の中を見ることにしたらしい。


「あれ、黒縁メガネが落ちてるよ。あんたメガネしてないの?」


「さっき落としたんだよ」


「ギ、ギ、ギャアアアアアア!」


その瞬間、まるで電源が切れたかのように僕の意識は吹っ飛んだ。


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