2話
「ええい、ならばこれはどうだ!」
ラーニャは両掌を天に向かって突き上げて怒声をあげる。
「お前になんか止められんぞ! スターライトサンダー!」
ラーニャの両掌から凄まじい魔力の光が上空へと飛んでいく。キラキラと光り輝いて下弦の月の暗闇を無数の星で埋め尽くしていく。
「マジックブレイク!」
私の魔力量では消しきれない!
私は思わず目を閉じる。
ん?
一向に何も起きないので私は目を開ける。私の目の前には大きな光の玉が青白く輝いている。
「リサ。お待たせ!」
ミコちゃん?
てか、若い。
獄門島に行った時と同じくらい。
汚れているけど、それ獄門島へ行った時のコスチューム!
「君がリサ君かい。待たせたね」
東條補佐官が私を見て言う。
はあ?
何を今更。
てか、なんだよ。
その黒縁メガネ、似合わねえ!
「カザミヤ! おまええええ! よくも裏切ったね。覚悟しな!」
「僕は君とは初対面のはずだよ。ルナ君」
ラーニャの言葉に不思議なことを言う東條補佐官。
ななちゃん?
『災厄の魔女』がななちゃんってこと!
「よくわからんことを! それではこれでどうだ!」
ラーニャはふたたび両掌を天に突き上げる。下弦の月を掻き消すように大きな満月が夜空を照らしていく。それを見て東條補佐官は黒縁メガネに手をかける。だから、サイズ合ってないなら買い換えろ!
「リサ君、詠唱しろ! 赤い月⋯⋯」
東條補佐官の言葉に応じ、私は詠唱を開始する。
「赤い月!」
痛っ!
左目の傷が熱く焼け焦げるように痛い。
「グワアアアアア!」
『さゆたん! 何グズグズしている。あたしはグズが嫌いだよ!』
幻聴?
ななちゃんの声!
ななちゃんに嫌われるくらいならやってやる。
「赤い月満ちる時我復活せん。グワアアアアア!」
左目の傷口が開き、何かが出てくる。
熱い!
痛い!
助けて、ななちゃん⋯⋯。
私の左目から赤い光が辺りを照らしていく。遠くでラーニャの怒声が聞こえる。
「ムーンライト⋯⋯」
ダメだ。
ラーニャが必死の形相で私に向かって走ってくる。
やられる!
「さゆたん! 誰にやられた?」
ラーニャの両手が私の両肩を掴み上げた。
「何黙ってんだ! その左目は誰にやらたんだ」
ななちゃん?
「ななちゃん、ななちゃん⋯⋯」
私はしっかりとななちゃんを抱きしめる。
へへへ、ななちゃんのニオイだ!
「さゆたん、離れろ! 治癒せねえだろ」
12年ぶりのななちゃんを離すわけがない。
ななちゃんはええいと言って、右掌を私の左目に当ててくる。私は押し返されてなるものかとななちゃんの右掌を力いっぱい押し返す。
「エクストラヒーリング!」
ななちゃんがそう言うと左目の傷口にあたたかい光が輝き出す。
ふえぇ⋯⋯、ななちゃんだ。
輝いていた光が消えると傷口どころか左目の眼球さえも再生されていた。
ななちゃんが普通に魔法を使ってる?
東條補佐官は私の左目からポトリと落ちた血まみれのモノを手に取って、黒縁メガネに手をかける。
「うん、これは『召喚の指輪』だね。魔界の『災厄の魔女ラーニャ』を召喚するアイテム⋯⋯らしい」
「らしいって、東條補佐官が私の左目に封印したんじゃないですか!」
私の言葉にななちゃんは身構える。
「サリー君にも言ったけど僕は東條さんじゃないよ」
確かに東條補佐官にしては若すぎる。
「僕は風宮薫、25才。しがないフリ⋯⋯、探偵だ」
「カザミヤカオルってラーニャが裏切り者って言ってたカザミヤカオルですか?」
風宮薫は静かに首を横に振る。
「ごめん。よくわからいんだよ。だって僕はラーニャにもルナ君にもさっき会ったばかりだからね。あ、それとリサ君やサリー君もね」
「そういえば白猫の『ぷちぷち』のことは知らねえか?」
風宮薫はちょっと待ってと言って黒縁メガネに手をかける。
なんだ。
この人は?
「白猫ね。ハハハ、そのうち戻ってくるよ。しかし、ルナ君面白いね。あんなもんを手懐けるとはね」
風宮薫は苦笑いをしている。