2話
今日も元気に収録現場でドラマを撮影している。
あと2回頑張らないとね。
そんな中、下のほうで番組スタッフがもめている。
ゲッ、あのキモおっさんだ。やだな、もう。ストーカー、ストーカーなの? かわいいのも罪よね。
そんなことを思っていると、キモおっさんが叫んだ。
「おめえ、魔法少女だろ! そんなくだらねえことやっていないで、ひったくりの犯人捕まえろ!」
「そういうのは、警察のやることで魔法少女がやることじゃないんだよ。警察いけ!」
ADさんが叫んで、キモおっさんをあたしに近づけないようにしている。
やがて、キモおっさんは警察に連行されていった。
くだらないことやっている。わかってるわよ。そんなこと。でも、こんなことぐらいしかできないのよ。犯人を捕まえるなんてことは警察に任せればいいし、同級生たちはそんなことしてないわ。
もっとも、こんなこともしてないけど。
眠れずにそんなことを考えていたら、朝になっていた。
バイトに行ってもキモおっさんの言葉が頭から離れない。
普段やらないようなミスを連発していた。
「ルナちゃん、疲れているみたいだから今日は早上がりでいいよ」
店長は気遣って言ってくれるが、そんなことしたら生活できないよ。
「大丈夫です。頑張ります」
そう答えるのがやっとだった。
いよいよ最後の収録の日がやってきた。まだ、追加のバイト決めていないんだよな。てか、魔法少女の仕事がなくなると、補助金が出なくなってシェアハウスを追い出されるんじゃなかったっけ。
あの時のキモおっさんの言葉にまだ悩んでいる。
このまま魔法少女やめてしまおうかな。
収録もいよいよ佳境に入ってきた時、周囲が騒がしいことに気づいた。消防車のサイレンの音が鳴り響いてる。女の人がデレクターさんのところにきて、何か訴えている。
「あのビルに娘が取り残されているんです。消防署の人たちは火力が強くて近寄れないって言っているんです。サキは3歳の女の子で転生魔法少女ルナちゃんが大好きなんです。どうか助けてください」
あたしの体の中で稲妻のような衝撃がはしる感覚があった。体の中から魔力があふれ出てくるような感覚。
すると、喧騒の中から聞こえてくる声。
『たしゅケホけてケホなちゃんケホ』
どこ? どこなの?
そこだ!
あたしは居ても立っても居られなくなり、デレクターさんの制止を振り切って声のする方に飛んで行った。
心なしかいつもよりスピードが速く俊敏になっているけど。
火事のビルの前まで来て、一呼吸。
魔法学校で習った通りにすればいいんだ。
「ウオーターボール!」
思いのほか大きな水の塊のためびしょびしょになってしまった。
そして、声のするほうに飛んでいく。
いた。サキちゃん!
ぐったりしたサキちゃんを抱きかかえて
今度は加減を間違えちゃダメよ。
「ヒーリング!」
サキちゃんはみるみる元気になっていった。
「てんしぇいまほしょうじょるなちゃん! どちたの?」
「サキちゃんをお迎えに来たの。さあ、おねいちゃんにしっかりつかまっててね」
「うん」
サキちゃんを抱きかかえて、お母さんのところに戻る。
「ルナちゃん、本当にありがとうございました。ほら、サキもお礼を言わないとね」
「ルナちゃん、ありがとうございました」
これでいいんだよ。あたしにできることだけやっとけば。カッコよくないけどね。
「困ったときはおねいちゃんの名前を呼ぶのよ。いつでも助けに来るから」
「うん、わかった」
いつもの決めポーズをして、堂々と胸を張って大声で言い放っていた。
「転生魔法少女ルナ参上!」
煤で真っ黒になった顔に、もはや迷いはなかった。