第6話 兄ちゃんの友達
ぼくの新しい部屋は、元々客室みたいな感じに使っていた。今はちょっとした物置になっている。
でもそこは、じいちゃんの部屋の隣でぼくに何かあっても大丈夫だと。
この部屋を使わせてくれることになった。せがれが帰る前に物を移動してくれていた。
退院した次の日は、ぼくの新しい部屋をいい感じにすることが目標だ。
せがれとせがれの友達が勉強机や重たいものを二階から一階へと移動を昼前からしてくれた。
せがれの友達は、「秋原たけし」くんと言ってせがれの幼馴染で心友でもある。
せがれとたけしくんと兄ちゃんも友達で、ぼくともよく遊んでくれていた。
「陽架琉くん、体調どう? 」
「前よりも、たぶん元気だよ! 」
「そうだね。前よりも顔色いいね」
たけしくんは、すごく優しい。せがれと違って頭がすごく良くて丁寧に勉強も教えてくれる。
入院中も安定しないぼくの身体と心を考えながら、宿題を教えてくれた。
たけしくんの職業は小説家で、交友関係に有名な小説家の星時空がいる。
「ねぇ、たけしくん」
「ん? 」
「あとで、一緒に宿題をしよう? 」
「うん。いいよ」
せがれとたけしくんは、ぼくの兄代わり。
でも兄ちゃんとは、絶対に呼ばせてくれない。ぼくの本当の兄ちゃんは、もういなくなった兄ちゃんだけだから。
せがれは、時々たけしくんのことをこういうふうに言っている。
『陽架琉は、たけしの本当の凄さをまだ知らないんだ。たけしを怒らせたら俺でもビビる』
ぼくにはその言葉がよくわからない。いつもぼくには、ニコニコとして優しいから。
時々、たけしくんがせがれの方を見て、彼が少しシュンとして震えているのを見たことがある。
でも、ぼくにはたけしくんの顔が見えない位置にいたから、いつもその光景は見ていて不思議だった。
大体の荷物の移動が終わったから、じいちゃんは出前をとって、みんなで昼ご飯を食べた。
「たけし、いつも陽架琉の面倒を見てくれてありがとう」
じいちゃんは、たけしくんを真っすぐ見てそう言った。
「じっちゃん、俺は? 」
「いえいえ、陽架琉くんがとても頑張り屋なので、勉強の教えがいがあったり、話したりするのはすごく楽しいですよ」
「そう言ってくれると、ワシも嬉しい」
「じっちゃん、たけし、俺は? 」
どうやら二人はせがれの声が聞こえていないようだ。
もしかしたら、視界にも入っていないのかもしれない。
せがれは、ぼくがご飯を食べやすいように、切り分けながらも、二人の話の輪に入ろうとしていた。
「兄代わりとして、陽架琉くんが元気でいてくれるのがすごく嬉しいんです」
たけしくんは、ぼくの方を見てにこりと笑った。ぼくは少し恥ずかしくなった。
「せがれも助かってるよ」
「おう」
せがれにも、嬉しさと恥ずかしさが襲う。
「せーくんも、頑張ってるね」
「たけし、追い打ちをかけるなよ〜 」
せがれは更に顔を赤くさせた。
たけしくんは、せがれをせーくんとかせーちゃんって呼ぶ。せがれは特別な時以外は、まだ一人前になってない間は、せがれと周りに呼ばせているから。
「たけしくん、また小説読んで。ぼくの新しい部屋に持ってきてるから」
ぼくには、たけしくんが書いている小説は読めない漢字や内容が難しいから。
たけしくんは、ぼくにでもわかるようにアレンジして渡してくれるんだ。それをぼくは、いつも読んでと読み聞かせを頼んでいる。
たけしくんは、ぼくが一人でも自分の小説を読んでくれると嬉しいと言っていた。ぼくは一人でも、少しずつ本を読めるようになってきた。
「いいよ。今日は、陽架琉くんのための本を何冊かを持って来てるよ。その本も一緒に宿題の後に読むね」
「やった〜」
「たけし、ありがとうな」
じいちゃんは、優しい顔で言った。
「僕ができることを、陽架琉くんにしてるだけですよ」
たけしくんは、小説の締め切りもあるのに、入院中にもよく来て、読み聞かせをしてくれた。
これは後から聞いた話だけど。ぼくは頭や脳を怪我していたから。
後遺症を心配して、たくさん話かけたり、頭を動かしたり、今までの当たり前が少しでも変わらないように考えてくれたんだって。
「たけしくん、ありがとね」
「はいっ! 」
たけしくんは、嬉しそうに笑って言った。ぼくが今を生きてくれるのが嬉しいんだって、これもあとで教えてもらった。