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第5話 退院当日のもう一つの話

 ぼくが、退院した日に、お家でお風呂に入っていたこと。


「せがれ。陽架琉(ひかる)が、風呂に入ってる間に布団を敷くのを手伝ってくれ」

 

「お安い御用〜 」 

 

 せがれは、ニカっと笑った。

 

「じっちゃん、平気か? 」 

 

「・・・・・・ 」 

 

「じっちゃん? 」

 

「陽架琉は、どれだけキズがついたんだろうな」

 

 じいちゃんはうつむいて、布団を敷く手がピタッと一瞬止まった。

 

「陽架琉は、あの日から、当たり前が少しずつ減ってきた」 

 

 せがれは、黙って聞いたそうだ。

 

「身体は、前みたいにきれいじゃない。動かしにくくなった」

 

 ぼくの身体は、階段から落とされてたくさんのキズがついた。

 そのケガのキズのせいで、細かい動きやみんなみたいに激しいスポーツが出来なくなった。

 じいちゃんやお医者さんが言うには、頭や脳のケガが主な原因だって。


「当たり前に、階段を駆け下りるのができなくなった」

 

 ぼくは、なんでか階段を下りるのが怖くてたまらなくなった。  

 

「じっちゃん。それは陽架琉が頑張って生きてる証だ」 

 

「それは、分かってんだ」   

 

 じいちゃんは、悔しそうに言った。

 

「陽架琉が、生きるのと引き換えにたくさんのキズが残ったのかもしれん」 

 

「うん」 

 

「でもな。ワシには、今までの当たり前がずっと続いていくと思っていたんじゃ。あの子は、火事やおとどしにとばあちゃんを亡くした。それでも、陽架琉なりに元気に生きてると思ってたときやった……」 

 

「そうだよな。誰もこんなことになるなんて思ったことねぇーよな」 

 

 じいちゃんとせがれは、顔をを大きな手で覆った。

 

「じいちゃん〜 」 

 

 ぼくの声で、二人はハッとして顔を上げた。

 

「おう。今、行くからな〜 」 

 

「うん〜 」 

 

 じいちゃんたちは、話しながらもぼくが寝れるように布団を整えてくれた。

 残りをせがれに任せて、じいちゃんは風呂場に向かった。


 じいちゃんは、ぼくがいなくなったら、ひとりぼっちになってしまうのが怖かったって言ってた。ぼくはまだ生きているからすごく嬉しかった。  

 

 でも生きることで当たり前を失ったのを、じいちゃんはぼく以上に辛くて悔しがった。

 

 ぼくは病院で入院している時に、どうしたら今の自分でも身体を洗いやすくなるのかを病院関係者と一緒に考えた。

 そのおかげで、なんとか一人でも身体を洗うことができた。補助のアイテムを使うと、頭も身体も洗えるんだ。

 

 でも、まだまだ自分で服を脱いだり着たり、体を拭くのも難しかったりする。

 自分でできることだけをして、その後の難しいことを手伝ってもらう。

 少しずつ僕一人でできることを増やしてたらいいから、焦らなくてもいいって、みんなが言ってくれた。

 

 じいちゃんは風呂場に来て、ぼくが拭きれてないところを丁寧に拭いてくれた。髪の毛に泡が残ってないのもチェックをする。

 下着やパジャマの上下もぼくが難しくなるところも手伝ってくれる。特にボタンを閉めるのがしんどかったらすごく助かった。

 

 今日、ドライヤーで髪を乾かすのはせがれだった。  

 ぼくが座椅子に座るとお店の人みたいに、丁寧にドライヤーで髪を乾かしてくれたのは意外だと思った。

 

 せがれは夜遅くまで、ぼくたちの家にいて話をしたり、部屋と環境を少し整えてくれたりと、それを当たり前のようにしてくれた。

 

「泊まるか? 」 

 

 もう遅いからと、じいちゃんがせがれに聞いた。

 

「俺、枕が変わると寝れないから帰るよ。おやすみ」

 

 そう言ってせがれば家を出た。

 ぼくは、せがれがどこでも寝れるのを知っている。せがれなりに気を使ってくれたと思うと嬉しかった。 

読んでいただき、ありがとうございました。

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