第4話 ぼくの恐怖
ぼくは、階段から落ちて大怪我で入院してから数ヶ月後に退院することができた。
そして数ヶ月ぶりの家に、なんでか変な気分だった。
お昼前に退院をして、家に帰ってご飯を食べた。ぼくの大好物がたくさん並んでいてうれしかった。
じいちゃんは、ぼくが食べやすい大きさに料理を切ってくれてたから喉を詰めなかった。
あとから、じいちゃんはぼくが喉を詰めていなくならないかをすごく心配をしていたのだと思った。
元々、料理をあらかじめ食べやすい大きさに分けてからじゃないとうまく食べれない。
普段は、自分でもできるけど。怪我をしてからまだうまく自分で取り分けれなかった。
昼ごはんの後にじいちゃんは、ベッドで寝たほういいだろうと一緒に階段ををあがって少し話しをした。
「晩御飯まで、寝たら良い。何かあったら、言うんだぞ」
「うん」
ぼくは、数時間のお昼寝をした。いつの間にか、空が少し暗くなっていた。
「陽架琉、晩御飯を食べるぞ〜」
「は~い」
ぼくは、いつものように部屋を出て、階段を降りようとした。
「うわぁ〜! 」
「陽架琉! 」
じいちゃんは、すぐにぼくの方へと階段を登ってきてくれた。
「陽架琉。どうした、大丈夫か? 」
じいちゃんは、階段の前でうずくまるぼくを抱きしめててくれた。ぼくの背中側には壁があって、じいちゃんが階段をぼくが見えなくなるように、視界をさえぎった。
「こわい」
「こわいな」
じいちゃんは、ぼくの言葉に向き合ってくれた。すぐに、ぼくが何に対してそう思ったのかを分かってくれた。
「陽架琉、立てるか? 」
「わかんない」
「わかんないか」
「じいちゃんがいるから大丈夫。今は、階段で下に行かなくていい。陽架琉の部屋に一緒に行こうか」
じいちゃんは、優しくそう言ってくれた。それでもまだ僕の頭は、混乱をしたままだった。
「うん」
ぼくは、なんとか時間がかかりながらも、じいちゃんと部屋に戻った。
「ベッドに、横になるか? 」
「じいちゃん、ぎゅうして」
「おう」
じいちゃんは、またぼくを抱きしめてから、少ししてある提案をした。
「じいちゃん、せがれに電話したいけどいいか」
「うん」
じいちゃんは、ぎゅうをやめて部屋を出ようとした。
「じいちゃん」
「ん? 」
「ひとりは、怖い」
「分かった。じいちゃんは部屋を出ないけど、陽架琉の学習机のとこで電話をしたい。陽架琉は、ベッドで横になってなさい」
「うん」
じいちゃんは、ぼくに安心をさせるように言ってくれた。
「おう、せがれか」
「じっちゃん、どうした? 」
「今すぐ、わしの家に来い」
「はぁ? 」
「陽架琉のことでな」
「陽架琉に何があったのか? 」
「メールで内容は送るから、それを見ろ」
「分かった。親父に言って、そっちに行くわ」
「晩御飯は、こっちで食べたらええ。多めに作ってるから」
「分かった。ありがとう」
せがれは、その十五分後に家にやってきた。
「じっちゃん、きたで〜! 」
せがれは、そう明るく言って玄関を開けた。そして、少しどこかの部屋に行ってた音がした。
「二階に行くで〜 」
せがれは、律義に行動を二階にいるぼくたちに聞こえるように言ってれた。
「じっちゃん、陽架琉、ドアを開けていい? 」
「おう」
せがれは、部屋に入った。
「じっちゃん、陽架琉はどう? 」
「見ての通り、布団にくるまってる」
「陽架琉、寝てる? 」
「起きてる」
ぼくは、せがれの質問に答えた。
「ぼく、階段下りるの怖いみたい」
「怖いみたいだな」
「うん」
「でも、俺は一階に下りて、みんなでご飯を一緒に食べたいな〜」
「うん。お腹すいた」
ぼくのお腹から、「グ〜」と鳴り響いた。
「じっちゃんと俺が考えた方法なんだけど。一回だけ、陽架琉にすごく頑張ってもらいたいんだ」
「えっ? 」
「陽架琉が、すごく頑張りやなのを俺たちは知ってるから。でも、一人で頑張るのがしんどいときは、誰かと一緒に頑張るんだ」
ぼくは、涙目で布団から顔を出した。
「たすけて」
二人は、優しい笑顔で頷いてくれた。
「陽架琉、まずは一階に持っていきたいものを数を決めなくていいから、このカバンにいれてくれるか。服や下着以外でな」
「うん」
ぼくは、衣類以外に持っていきたいものを、じいちゃんから渡されたカバンにいっぱい詰めた。
「陽架琉は、俺が抱っこをして一階に下りようか」
ぼくは、同級生の中で小柄で体育のときはいつも前の方にいた。せがれはお仕事で重いものを持つから、ぼくを平気で抱っこができる。
「落ちない? 」
「落ちないよ。俺は、毎日力仕事や鍛えてるんだ」
せがれは、僕を安心させるようにマッスルポーズをして笑わせてくれた。
「じいちゃんは、俺たちの後ろでこの荷物を持って下りるから。陽架琉は、じいちゃんの顔を見て、せがれにしがみついてたらいいんだ」
「本当? 」
「本当。みんなで頑張ろう! 」
せがれは明るく言って、ぼくの頭を撫でた。それでも、ぼくの顔は曇っていた。
「陽架琉の好きなチョコケーキが家にあったから。それを持ってきたんだ。勝手に冷蔵庫を開けて、入れてるよ。ご褒美に、ご飯の後にデザートで食べよう」
「うん! 」
ぼくは、まだ子供なので、ご褒美のチョコケーキに惹かれた。
「陽架琉、今から俺が抱っこするよ」
「うん」
ぼくは、せがれに抱っこをしてもらった。さっきみたいに、階段の直前で怖くないようにしてくれた。
「陽架琉、軽いな。もっと、ご飯を食べて大きくなってな! 」
「うん」
「陽架琉は、そうやってせがれにしがみついて、じいちゃんを見ているんだぞ! 」
「は~い! 」
「じいちゃんとしりとりをしながら、ご飯を食べるためにがんばっていこうな〜」
「は~い! 」
当時のぼくは、しりとりが大好きで、よくおじいちゃんとせがれにしてもらっていた。
「出発進行! 」
せがれの言葉に、僕たちは部屋を出た。
「しりとりのりからはじめるぞ〜 」
「りか」
「蚕」
「こいのぼり」
「離島」
「うし」
「シマウマ」
「まいこ」
「国語」
「ごま」
「丸太」
「たぬき」
ぼくはせがれにしがみつきながら、後ろにいるじいちゃんとしりとりを楽しんだ。
せがれは、ぼくの恐怖が少しでも減るように、時々心配して声をかけながら慎重に階段を下りきった。
「よ〜し、陽架琉。階段下りれたな〜! 」
じいちゃんはニコニコしながら、僕の頭を優しく撫でた。
「うん! 」
「せがれ、ありがとうな」
「じっちゃん、いいってことよ。久しぶりに、陽架琉を抱っこできて嬉しかったからな〜」
せがれは、照れくさそうにそう言っていた。
ぼくはまだ抱っこされていて、じいちゃんはぼくの目の前にいるから、せがれの表情はわからないけど。とても嬉しそうな顔をしてると思った。
「陽架琉。居間まで抱っこで行くぞ〜 」
「うん〜! 」
僕がまだ小さいときから、せがれは兄代わりでよく抱っこをしてくれた。
ぼくは、成長とともに抱っこはしてもらいたくなくて、せがれは少しの間グレていた。
ぼくは、せがれに久しぶりに抱っこをしてもらうのが嬉しかった。
居間についてから、三人で晩御飯を食べた。じいちゃんは、晩御飯にもぼくが好きなものを作ってくれたからうれしかった。
その後は、ご褒美のチョコケーキを食べた。とてもおいしかった。
その日の夜は、じいちゃんと一緒に一階で就寝をした。
ぼくが入院をしている間は、やっぱり夜寝るときはいつもひとりですごく寂しかった。
時々、看護師が様子を見に来たり、ぼくが寝るまで読み聞かせをしたりと夜が怖くないようにしてくれた。
病院を退院して、じいちゃんが隣でいびきをかいて寝てるのがすごく安心したんだ。
読んでいただき、ありがとうございます。