第3話 じいちゃんの恐怖
正確な医学や法律の知識は、ありません。
あくまで、僕のイメージによる医学や法律だと思っていただけると嬉しいです。この物語は、ドラマや漫画などを見て感じた僕のイメージです。
今回の話は、長いので番号で区切りをつけてます。
ぼくは、小学四年生になった。そして、ばあちゃんがいなくなって二年経った日のことだ。
ぼくが小学校の階段を歩いていると、同級生になにかを言われたと思ったら、突然背中を押された。
その時に、ふと前にも突然背中を押されたなと思った。
ぼくには、よく分からなくて、ただ身体に浮遊感と痛みを感じた。
周りで何を言ってるのか、分からないけど。たくさんの声が聞こえた。
ぼくは、じいちゃんを一人にしてまうのか怖かった。それだけは、正確に分かった。
そして、ぼくの意識はそのまま、奥深くと潜っていった。
2
じいちゃんは、元々腕の良い大工だったけど。火事の後から、家を建てることに恐怖心を感じて建てれなくなった。
じいちゃんが建てたぼくの家をまだ捕まらない放火さんによって失くなったことがフラッシュバックして、トラウマとなった。
じいちゃんは、自分が火事に負けない家を作れば、息子たちは死なずにすんだじゃないのかとどうしても思ってしまう。
理解のある職場は、じいちゃんの腕をかって家具職人や新人の教育者として雇ってくれていた。その才能も、じいちゃんにはあったからだ。
これは、あとから聞いた話しだ。
ぼくが階段から落ちたことを、校長からじいちゃんの仕事場に連絡があった。
「はい、宮本工務店です。倉西魂蔵ですね。えっ、はい。分かりました。すぐに、代わります」
じいちゃんは、職場でじっちゃんと呼ばれていた。
「おい!じっちゃん! 」
「どうした! 」
「じっちゃんのお孫さんの学校から電話や。すごく慌ててるわ! 」
「ありがとう。かせや」
じいちゃんは、乱暴に受話器を奪い取った。
「お電話、代わりました。孫に何があったんですか? 」
じいちゃんは、出来るだけ冷静を装った。
「お孫さまが、同級生とトラブルになり階段から転落しました」
「はぁ?階段から…… 」
じいちゃんのその言葉に、職場の同僚たちは慌てたり、バタバタと何かを準備したりする。
「今から、行きます」
じいちゃんが冷静を装っても、どこか焦りながら帰る支度をしていた。
「じっちゃん、俺が運転するから車の鍵をよこせ! 」
じいちゃんの勤務先の社長のせがれが、乱暴に車の鍵を奪った。
そのまませがれは、じいちゃんを無理やり引っ張って車に乗り込ませた。
「悪い。あの総合病院の救急の方に行ってくれ」
「了解」
社長のせがれは、じいちゃんが慌てすぎて車で事故に合わないように考えてくれた。
「じっちゃん、大丈夫か? 」
「大丈夫じゃないわ」
「そうだよな」
「ワシのせいじゃ」
「はぁ? 」
「ワシがいるせいで、みんな不幸になる。ワシは、死神や」
「じっちゃん、そうじゃねーよ。じっちゃんは死神じゃない。じっちゃんは、なんも悪いことしてねぇ〜よ。それに、ちゃんとした人間だ」
じいちゃんは、下を向いてしわくちゃの手で顔を覆った。
「じっちゃんは、みんなと真剣に向き合ってさ。こんな俺にも優しい。じっちゃんは、自分ができることを背いっぱいにやってるじゃん。それなのに、じっちゃんが死神なわけない。もう言うなよ」
「おう」
じいちゃんは、そう短く言った。
病院までの道のりは、長いように思ったがあっという間に着いた。
「じっちゃん。着いたよ」
「おう」
じいちゃんは、ぼくが家族がいなくなってしまうかもしれないという恐怖で、車から降りれなかった。
「じっちゃん、今病院のロータリーだけど。一旦駐車場にいれるから。一緒に病院の中に入るよ」
じいちゃんは、コクっと頷いた。
「悪いな」
車から降りて、せがれに支えられ病院の救急の中へと向かいながら、じいちゃんは言った。
「じっちゃんは、軽いからさ。俺、おんぶもできるよ」
「調子をのるな」
「そうそう、いつものじっちゃんでいなよ」
「フッ」
じいちゃんは、支えられずにスタスタと歩いた。
3
病院の関係者に案内された手術室の前のベンチに、ぼくの担任が座っていた。
「先生」
「あっ」
担任は、心配そうに赤くライトで照らされた手術中と書かれたモノをじっと見ていて、じいちゃんの声で気がついた。
「大切なお孫さんをお預かりしているのに……」
担任の先生は、最後まで言い切れずに泣いてしまった。
「先生。ワシはまだ何がどうなってんのか。わかんねぇから。まずは、それを教えて欲しい」
「はい」
担任は、涙を拭った。そして、せがれがいるのに気がついた。
「こちらの方は……」
「あぁ、コイツは孫の兄代わりをしてくれてる宮本工務店のせがれです。一緒にここにいさせてもらってもいいですか。ワシ、一人で聞くのは耐えれないから」
「分かりました」
三人は、横並びで廊下に置かれた椅子に座った。
担任は、ぼくが階段から転落をした時のことを分かっている限りの詳細を、じいちゃんとせがれに説明をした。
「お孫さんは、何もしてないんです。加害者生徒に一方的に言われても、気にせずに階段を下りようとしたときに、背中を押されたんです」
「孫は、なにを言われたんですか? 」
「加害者生徒が、お孫さんに向かってこう言ったんです」
担任は、少し言いにくそうにしながらも話しだした。
『お前は、死神だ! 』
『俺は、ママから聞いたぞ。お前の家族はみんなお前が死神だから死んだって! 』
『お前の家は、のろわれてんだ! 』
『お前のせいで、学年で飼っていたうさぎが死んだ! 』
『何、無視すんだよ!! 』
『お前がいるせいだから、消えろよ! 』
階段の踊り場での騒ぎを聞きつけた教師が来た頃には、ぼくは階段から落とされて頭から血を流して倒れていた。
「お孫さんは、何も悪くないんです。学年で飼っていたうさぎは、元々身体が悪くて寿命だったんです。うさぎが亡くなる直前に世話をしていたのが、お孫さんでした。そして、クラスの中で一番うさぎをかわいがっていました」
担任は、涙を流すのを我慢して真剣に話していた。
「孫の両親や兄と姉と祖母が、亡くなったのは事実です」
じいちゃんは、静かにそう言った。
「先生も知ってる放火事件と妻は寿命で、この世を去りました。家が放火されたときに、孫はワシと妻といました。妻のときは、隣で寝ていました」
じいちゃん、ポツリポツリと涙を流した。
「孫は、死神じゃない。ワシも誰も死神じゃない」
「じっちゃん、わかってるよ」
せがれが、じいちゃんの背中をさすった。
「じっちゃんの孫は、俺にとったら弟です。小さい頃からよく一緒にいたけど。悪い子じゃないです」
「はい。家庭の事情もお孫さんが、どういう人なのか担任として理解しているつもりです」
担任は、まっすぐとじいちゃんとせがれを見た。
「お孫さんから前に聞きました。「どんなに嫌なことを言われても、ぼくが悪くなかったら関係ない。だから、反応をしなくてもいいと思うからそうしないんだ」って言ってました」
ぼくは、家庭の事情を知ってる教師たちによく心配をされた。誰かに何か嫌なことを言われなかったかと。
『ぼくは、家族のみんながいなくなってほしくないっておもってる。ぼくもじいちゃんも、みんながいなくなってとてつもなくつらくてさびしい。それなのに、ぼくたちが悪いのっておかしいから』
ぼくは、父ちゃんたちがいなくなって、ばあちゃんとじいちゃんと暮らしてる頃から、よく悪口を言われた。
『おまえんちは、変なの! 』
『パパもママもいないの変だよ! 』
『死神だ! 』
ぼくは、すごく辛くてたまらなくて、よく泣いていた。その度に、ばあちゃんが抱きしめて慰めてくれた。
『父ちゃんと母ちゃんがいないのは、変なことじゃないんだよ。死神じゃないよ』
『本当? 』
『うん。世の中にはね、色々なカタチの家族があるんだよ』
ばあちゃんは、色々ことがあって片親だったり養子で血のつながりがなかったりで暮らしている人もいるんだ。
同性や異性という他にもたくさんのカタチで世の中にある色々なカタチの家族が暮らしていることを話してくれた。
でもその時のぼくには、ばあちゃんの話はとても難しかった。
『自分たちがお互いを好きで、色々なカタチの家族が一緒にいるの。他の人は、それをしらないだけで、変じゃないんだよ。色々なカタチの家族は、悪くないんだよ』
『……うん』
『自分が悪くないから、何言われても関係ないの』
『ぼく、知らんぷりするね』
『知らんぷりしても、辛くてたまらないこともあると思うの。そのときは、じいちゃんとばあちゃんや頼れる大人に頼るの。約束ね』
『うん!約束ね! 』
ぼくは、ばあちゃんと指切りげんまんをした。
じいちゃんは、その当時のことをばあちゃんから聞いたのを思い出した。
「陽架琉……」
病院の廊下で、じいちゃんの声が響くのだ。
「孫は、何度もつらい想いをしてきたから。ばあちゃんとの約束を守ってな。関係ないって思って気持ちを切り替えているんだと思う」
じいちゃんはそう言って、顔を手で覆って下を向いた。
「先生、俺からお願いしたいことがあります」
「はい」
「先生。俺が知ってる学校って、被害者を守ることはあまりしないんです。学校と教師の評判や立場を気にして、加害者のことばかり守るんです」
せがれは、まっすぐと担任を見た。
「俺がなにか言いたいかと言うと。嘘偽りなく、今回のことを俺たちに教えてください。じっちゃんは、また家族を失うんじゃないかって、怖くてたまらないんです」
「はい。私は、子どもがしたことだからとか学校のためだからじゃなくて。子どもたちを守るひとりの大人として、嘘偽りなく今回のことをお伝えするという約束します」
「先生、ありがとうございます」
「先生、ワシからもいいか? 」
「はい」
じいちゃんは、深呼吸をして顔を上げた。
「今回のことは、警察に被害者届けを出す。学校や他から止められてもな。孫の命を危険になるされたんだ。法律で裁けても裁けなくても、学校側で大切な孫を、こんな目に合わせた奴らに重い罰を与えてくれ」
「それは申し訳ありませんが、私の方ですぐに判断が出来ないです」
じいちゃんは、無理かと思った。
「ですが、私の方で校長たちにおじい様が被害者届けを出すことを伝えます。そして、学校側で孫さんにできるサポートと加害者に対して適切な指導や処罰が出来るように教師生命をかけて掛け合います」
「ありがとう」
じいちゃんが、そういったときに手術中の赤いランプが消えた。
「ワシの孫は! 」
じいちゃんは、手術室から出て来た医師のもとに駆け寄った。
「お孫さんは、命をとりとめました。これから、ICUという緊急治療室に移動します。後ほど、詳しい説明をします」
「ありがとうございます」
じいちゃんは、深々と頭を下げた。
「じっちゃん、よかったな」
「おう」
ぼくがストレッチャーに乗って、手術室から出て来たのを、じいちゃんたちは少しだけ見ることができた。
たくさんの機械がぼくの身体に繋がれているのに、じいちゃんは言葉を失った。
じいちゃんたちは、ぼくが運ばれたあとに主治医から説明をされた。
じいちゃんは、説明をされる前に「なんも知識のない人でもわかるように、悪いが説明をして欲しい」と頼み込んだ。医師は、快く受け入れてくれた。
「お孫さんは、階段から転落し、頭を切って出血していました。そして、脳内でも出血してそれが圧迫をしていました。その影響で、後遺症となって障害が残る可能性が高いのです」
「それだけで、よかった」
じいちゃんは、医師の言葉にすごく安心をしたと思った。
「後遺症や障害があって、大変かもしれん。でも、あの子までワシからいなくならずに、生きてくれてるだけで良いんだ。先生、孫を助けてくれてありがとうございます」
じいちゃんは、そういいながらたくさん泣いたと言っていた。
主治医は、じいちゃんに今のぼくの状態や今後予測される後遺症の話を分かりやすく、何度も伝えたという。
看護師さんが、それをメモにして書き留めて渡してくれたという。
4
ぼくが、また目を覚ましたのは、あれから一週間が経っていた。
たぶん、最初のた二日ぐらいは集中治療室にいて、その後は一般病棟の個室にいた。
記憶は、おぼろげだ。何となくそう思っし、あとから教えてもらった。
「生きてくれてありがとうな。じいちゃん、一人になるかと思って怖かったんだ」
じいちゃんは、泣きながらぼくの手を握って話してくれた。
すごく心配をかけたのがわかったし、じいちゃんを一人にしなくてよかったと思った。
じいちゃんは毎日見舞いに来てくれて、主治医や看護師たちに教えてもらったマッサージや色んな話を眠っているぼくのためにしたと教えくれたという。。
「ぼく、怖かった」
「怖かったな」
「ぼく、じいちゃんを一人にしてしまうかもって」
「こんな時まで、じいちゃんのことを考えてくれてありがとうな。良い孫をもって、じいちゃんは嬉しいよ」
じいちゃんは嬉しそうで、どこか悲しそうな顔をしていた。
「じいちゃん、ぼく、なにかしたのかな? 」
「どうして、そう思うんだ? 」
「だって、ぼく、おこられたから」
「誰に、怒られた? 」
「わかんない」
「わかんないか」
「うん」
ぼくは、誰かに何かをたくさん言われたのは、なんでか分からないから怖かった。
だから、怒られたと思った。 よく分からないまま、じいちゃんとバイバイするのかと思うと恐ろしかった。
「何もしてないよ。陽架琉は、何一つ悪くないよ」
じいちゃんは、ぼくの手を優しく握った。
医師によると、転落する前後の記憶が後遺症の一つとしておぼろげになっているようだ。
「じいちゃんたちが、守るから。もう大丈夫だ」
ぼくは、意識を取り戻してから突然泣き出してしまうことがあった。
その度に、じいちゃんがそう言ってくれた。
5
ぼくは、よくわからないけど。
学校側はじいちゃんとせがれと約束した通り、嘘偽りなく今回のことを調べて伝えたらしい。
加害者が言っていた学年で飼っていたうさぎは、三ヶ月ごとにクラスを変えて飼育していた。
ぼくの背中を押した加害者は、学年で飼っていたうさぎをあまりかわいがっていなかった。
でも、うさぎが死んだのにショックを受けていて、加害者はそのことを親に話したそうだ。
加害者の親は、ぼくの家族がじいちゃん以外にこの世からいなくなったり、事実でないことをまぜたりして言ったらしい。
その中に、ぼくとじいちゃんが死神だと言ったそうだ。
それを真に受けた加害者が、ぼくに暴言を吐いた。
でも、ぼくがそれを無視したから、イラついて背中を押したそうだ。
加害者は、だんだんと加害行動に歯止めが聞かなかったようだった。
加害者の親は、まさか自分たちの発言で人を階段から落とすと思っていなくて焦ったらしい。
事を大きくしたくないと言って、面談の申し込みがあった。
じいちゃんとせがれが、加害者とその親と学校側と面談をしたという。
「この度は、息子がお孫さんに、とんでもないことをして申し訳ありません」
加害者の両親は、まっすぐとじいちゃんに深々と頭を下げて謝罪をしていた。
「君は、今回のことをなんとも思ってないのか」
じいちゃんのその声に、加害者の親は気がついた。自分の息子は、反省をせずにぶつくされてることを。
「すみません」
加害者の父親が、無理やり息子の頭を下げさせようとした。
「待ちな」
じいちゃんは、それを止めた。
「ワシはあんたじゃなくて、ずっとあんたの息子に言ってるだろう。今回のことをなんとも思ってないのかって」
加害者はじいちゃんの方を見ると、すぐに顔をそむけた。
「君が孫の背中を押したせいでな。ワシは、また家族を失う恐怖があったんや」
じいちゃんは、じっと下を向く加害者を睨みつけるように見た。
「孫は、頭を切ったり脳内でも出血があったり、一週間も目を覚まさなかったんや。もしも、目を覚まさないと、この世にいなかったかもしれんのや」
せがれは、バンっとテーブルを叩いた。その音に、加害者家族はビックと肩をあげた。
「もし、じっちゃんのお孫さんがこの世からいなくなったら。君は殺人犯になる。重い罪や。君は未成年だから少年法で守られるかもしれんな。俺は難しい法律は分からん。だけどな、君は犯罪をして、慰謝料を払わないといけない。君に払うこと能力はないから、君の両親が払うことになる」
「ワシは、被害届けを警察に渡している。警察官が、今回のことを重く考えて協力の約束してくれた。君の家にも警察官が来たやろ」
加害者はずっと下を向いて、時々ブツブツと何か言っていた。
「息子が、お孫さんの命を危険にさらして申し訳ありません。私たちができることは、しっかりするつもりです。」
「息子によく言って聞かせます。この街からも出ていきます。だから、被害届けを取り下げてください」
「弁護士を通して、示談をしたいです。示談金や慰謝料はそちらのご希望以上ににしますから。いくらでも言ってください」
加害者の両親たちは、急にペラペラと話しだした。
加害者の父親は、どこかの社長をしていた。顧問弁護士がいるから、お金のやり取りをして丸く収めようとしていた。
じいちゃんは、職場の社長の知り合いの弁護士にすでに相談をしていて、今回のことにとても協力をしてくれたらしい。
「ワシらは、あんたらに聞いてない。今、金の話は一切してない」
じいちゃんは、バッサリと言った。
「そんな言葉だけでは、信じれないな。あんたらの息子さん、とても反省をするようには見えないんだけど」
せがれは、睨みつけるように加害者をみた。
「君、何か言ったらどうだ」
じいちゃんの言葉に、加害者はやっと視線を合わして口を開いた。
「アイツのせいで、うさぎが死んだんだ。パパやママがアイツの家は呪われているっていったじゃんか。アイツが大切にしていたせいで、みんな死ぬんだって。だから、死神だって」
加害者は、両親にあることを聞いた。それに対して、両親が恐ろしいことを言った。
『どうしたら、みんな死ぬことがなくなるの? 』
『原因がこの世からいなくなれば良いんだよ』
加害者の父親が、真顔でそう言ったのだという。
「だからこれ以上、アイツがいることで誰かが殺されないようにしないとって」
父親の言葉を真に受けた愚かな加害者が、陽架琉の背中を押した動機だった。
「おい!そんなデタラメを言うな! 」
加害者の父親は、さっきと違って怖い顔をしていた。
「パパ、お酒を飲みながら言ってたじゃん。ママは、それを聞いて笑ってたじゃん」
「コラ、何いってんの。うちの子たっら、バカなことを言うんだから」
加害者は、また下を向きそうになったのをじいちゃんとせがれが止めた。
「「下を向くな」」
「バカな両親のことを信じて、孫にしたことから目を背けるな」
加害者は下を向かずに、じいちゃんたちの目をを見た。そして、目をつむって深呼吸をした。
「酷いことをしてごめんなさい。俺が、アイツを階段から落としました。その時に頭から血が出てるのを見て怖かった」
「君も怖かっただろう。でもな、ワシらよりも孫のほうがもっと怖くてな。目を覚ましてから、突然泣き出してしまうぐらいに、身体だけじゃなくて心にも深く傷がついたんだ」
「はい」
加害者は涙を我慢しながら、まっすぐとじいちゃんたちを見た。
「息子が、こうやって反省をしたんだから。転校をするまでの間の出席停止処分を取り消してください。息子は、私の跡取りで会社を継ぐんですから。貴重な学業をこれ以上奪わないでください」
「いいかんげんにしろ。俺たちは、あんたらに聞いてないんだ」
せがれが、鋭く加害者の両親を睨みつける。
「元をたどれば、あんたらがじっちゃんの家族が亡くなってしまったことを好き勝手に、純粋な子供に言わなければよかったんだ。子供ってのは、とても純粋で親の言ってることがすべて正しいって思うんだ」
「あなたたちは、自分の子供がした行為を心から何も悪くないと思っているのがよく分かった。本当に、何か罪の意識を持っているなら、あなたたちがさっきから言ってる言葉を言わないはずだ」
加害者の両親は、二人の言葉に何も言えなくなった。
「あんたらの子供は、じっちゃんの孫の今後を奪いかけたんだ。あんたらの息子は、これからもどこでも元気にその貴重な学業をすることができるだろ」
「ワシの孫は、頭だけじゃなくて身体中を怪我してるから。治療やリハビリをしても、事件前みたいに暮らすことが難しいんだ」
「あんたらは、さっきから金や自分たちのことしか考えてないのがよくわかったよ」
「そんなこと言ってないですよ。勘違いをさせていたら申し訳ありません。お孫さんのためにサポートはできる限りのことはしますが、私の息子にも義務教育を受ける大事な権利があるので、主張をしているんです」
じいちゃんとせがれの言葉に、加害者の父親は無茶苦茶なことを言い始めた。
6
「申し訳ありません。私たち、教員が発言をしたいのですがよろしいですか? 」
今まで沈黙と静観を貫いていた学校側の校長が、じいちゃんたちに話しかけた。
じいちゃんはあらかじめ、加害者とよく話したいけど、何かあるかもしれないから同席をして欲しいと頼んでいた。
学校側はわかってくれて、何かあってもなくても協力をすると約束をしてくれた。
「はい。校長先生、お願いします」
じいちゃんは、校長に頭を下げた。
「今回あなたの息子さんが陽架琉くんにしたことは、イジメや傷害事件ではない。我々は、殺人未遂事件だと認識をしいています」
校長は、加害者とその両親をみた。
「あなたが、陽架琉くんの背中を押す前後のことは、周りの生徒から目撃した証言があります」
校長は、まっすぐと加害者を見つめた。
「陽架琉くんが、あなたの言葉に対して、何も言わずに階段を下りようとしたことに腹を立てました。そして「消えろよ! 」という言葉の後に、陽架琉くんの背中を押したと言ってました。我々は、そこに殺意があるように感じました」
法律に詳しくなくても、相手の存在を否定する言葉や行為に殺意を感じたと、じいちゃんとせがれと学校側での話し合いでも校長は言ってくれた。
「陽架琉くんは無視をしたのでなく、あなたからの言葉で自分が傷をつける必要がないと、ある意味彼なりの自己防衛をしたのです。それがかえって、あなたが腹を立てるきっかけになってしまった。そして、あなたがその手で何も悪くない陽架琉くんの背中を押したんです。そこは、理解できてますよね」
加害者は、ポツポツと涙を流した。
「担任からも聞いたと思いますが、学年で飼っていたうさぎは元々身体が悪くて寿命で亡くなりました。動物病院の方にも、実際に確認をしてもらいました。陽架琉くんが世話をしたの最後だっただけです。動物は、我々人間よりも短い生涯です。そういう命の大切さを学んで欲しいと、我が校は動物の飼育をしているんですよ」
加害者は、まだ泣いていた。
「命の大切さを学ばずに、何も悪くない人の命を脅かす生徒は、他の生徒にも恐怖を与えます。私は、被害者である陽架琉くんやその場にいて聞いた生徒の心のケアが重要と考えてます。その取組みもしています。そして、君からの恐怖を守らないといけないと考えてます」
加害者は、まだ泣いていた。
「あなたのご両親の言葉は、相手をすごく傷つけるものです。あなたはそれが正義だと思いこんで、今回した行為は許させれるべきものではないです」
加害者の両親は、どこがバツが悪そうな顔をしていた。
「校長である私は、あなたがまだ言えてない本当の言葉を聞きたいんです」
加害者は、泣きながら頷いた。
「本当は、俺だってうさぎをかわいがりたかった」
「はい」
校長は、加害者の言葉に相槌をうつ。
「でも、触るのが怖かった。うさぎの身体が悪いって聞いてたから」
担任は、加害者の言葉を紙に記録をする。
「俺は、力が強いから。何かあったら嫌だったから」
加害者は、涙を拭った。
「アイツがクラスでよく世話をしていた。それが羨ましかった」
加害者は、まっすぐと信用できる大人たちをみた。
「でも、うさぎはアイツが世話をした後に死んだ」
加害者の手は、震えていた。
「俺もかわいがりたかったのに怖いからって、あまり世話をしなかったのをすごく後悔した」
「はい」
「後悔して、すごくつらくて。パパとママに相談をしたら……」
「あなたのご両親は、陽架琉くんの家庭のことをとても酷い言葉で言ったんですね」
校長は言葉を選びながら、加害者が言いにくいことを代弁した。
「はい」
加害者は、もう両親を信用しなかった。
「あなたは、自分の気持ちを落ち着けるために何をしたのか言えますか? 」
「はい。俺は、自分の気持ちを一方的に陽架琉くんにぶつけました」
「全くその通りです。そして、どうなりましたか? 」
加害者は、現実からもう目をそらすことはなかった。
「俺は陽架琉くんに酷いことを言って、この手で階段から落としました」
加害者は、じっと自分の手を見た。
「その時のあなたの気持ちは、スッキリしましたか? 」
「スッキリしません」
加害者は、首を振ってまっすぐ前を見て答えた。
「陽架琉くんが落ちるときに、俺の方を一瞬見ました。俺は何を言っても、言い返さないから何も感じてないって思ってた」
加害者は、自分の気持ちだけを考えて相手の表情や感情が見えなかった。
「でも、本当は違って。一瞬だったけど。まっすぐ俺を見てすごく悲しくてつらそうだった」
加害者の脳に、その光景が深く刻まれていた。
「あなたは、陽架琉くんのその表情を見てどう思いましたか? 」
「……俺は、陽架琉くんに酷いことをしたと思いました」
「あなたは、今回のことでご両親に何を言われましたか? 」
「……」
加害者は、両親の方をみた。
「なんてことをしてくれたんだって、怒ってたけど。俺のじいちゃんに力があるから頼んで、もみ消してもらうって言ってました」
じいちゃんとせがれは、加害者の両親を睨みつけた。
「俺は、パパとママの言葉を信じて、やってはいけないことをしたから。本当は、どうしたら陽架琉くんに償えれるかを、一緒に考えて欲しかった」
加害者は、自分の中でたくさんの葛藤があった。その中で、両親は加害者でなく自分たちのことしか考えてないことを知った。
「君は、自分でもたくさんのことを考えて、どうしたらいいのか整理をしていたんですね」
校長は、加害者にも真剣に向き合った。
「陽架琉くんのおじい様が、君に言った今回のことを何とも思ってないかという質問に答えなさい」
校長の声は、さっきまでと違って低くなった。
「陽架琉くんは、何も悪くない。俺が自分たちのことしか考えてなくて八つ当たりをして、陽架琉くんの命を奪いかけました。本当にすみませんでした」
加害者は立ち上がって、じいちゃんとせがれに身体を向けて頭を下げた。
「頭を上げな」
加害者は、その言葉で頭を上げた。
「謝ったからって、許すつもりはないんだ」
「はい」
「本当は、君が陽架琉にしたことしてやりたいんだ。でもな、そんなことをしても陽架琉は喜ばない」
じいちゃんは、深呼吸をした。
「陽架琉は、君に何かをしたかわからないけど。それが原因で怒られたと思ってる。陽架琉は自分が悪いと思ってるんだ。医者に聞いたら、頭の怪我が原因で記憶がおかしくなってるみたいなことを言ってたんだ」
じいちゃんは、ぼくがそう言ったときの顔が忘れられないと言っていた。
「陽架琉くんは、何もしてない」
「自分で、どうしたらもうこんなことにならなかったかをよく考えなさい」
「はい」
7
じいちゃんは、今回のことを実は加害者のおじいちゃんに話していた。
じいちゃんが若くてバリバリと働いてる時に、加害者のおじいちゃんの会社の建物を立てたことがあった。
その人は、じいちゃんの人柄と腕をかってよく仕事を頼んだり世間話をしたりと交流があった。
詳しいことは難しくてわからないけど。
加害者は今回の話し合いの後に、遠くに転校をしたという。
加害者は両親と離れて、おじいちゃんたちと暮らしいてるらしい。
加害者は、ぼくに直接謝りたかったけど。ぼくの心を心配して、じいちゃんたちが止めたらしい。
『陽架琉くんへ
俺は、君が何も悪くないのにひどいことをしました。ごめんなさい。
俺のことを許さないでください。
でも、ひとつだけ分かって欲しいことがあります。
陽架琉くんは、何も悪くないから。誰も君を怒ってません。
陽架琉くんが、これからを陽架琉くんらしく、元気に過ごしてくれることも願います』
じいちゃんは、この加害者の謝罪の手紙だけならと受け取った。間接的な手紙でも良いから、ぼくが加害者の気持ちや言葉を知るほうがいいと思ったのが理由だった。
じいちゃんは、手紙をぼくに読んでくれた。ぼくは怒られてないと思って安心をした。
親が原因で、純粋な子供はおかしくなってしまう。親が正しいと思い込んだまま、取り返しのつかないことを時にはしてしまうのだ。
じいちゃんの名前は、倉西 魂蔵(くらにし ごんぞう)です。
たくさんの生死をみてきた人で、誰かの魂や居場所として隣にいるイメージです。(うまく言えませんが。)
読んでいただきありがとうございます。