第2話 僕の家族がいなくなった日
私には、詳しい専門知識はないのでそこをご理解ください。
ぼくは、保育所の頃からじいちゃんとばあちゃん家によく預けられた。
ぼくの家とじいちゃんたちの家は、歩いて十五分ぐらい離れている。
ぼくはお兄ちゃんとは年が十二歳、お姉ちゃんとは年が十歳と離れていた。
その当時のお兄ちゃんは、少し反抗期ありの受験生だけど、ぼくの世話を好んでしてくれていたらしい。
お姉ちゃんは、中学に入ってばかりで慣れない環境で反抗期もあったけど、ぼくの世話を好んでしてくれたらしい。
そんな中で父ちゃんと母ちゃんは、まだ小さい子どものぼくの育児をするのは、精神的にも肉体的にも疲れてしまう。
まだ小さいぼくから目を離すと、なにをするかわからずに危険だった。
なかなか夜中に泣き止まないこともあって、みんなは疲れを癒せなかった。
じいちゃんたちは、父ちゃんや母ちゃんを心配してぼくの面倒をよくみるようになった。
元々、じいちゃんは父ちゃんたちが心配で様子を見て、余計なおせっかいだったらと遠慮していた部分もあった。
でも、そんなことを気にしすぎるのも良くないからと、ぼくの家にじいちゃんはばあちゃんをつれて乗り込んでいった。
「何もかも、背負い込まなくて良いんだ」
「お父さん、お母さん。助けてください」
「息子に頼まれなくても、一緒に子育てをするつもりや」
じいちゃんはニカっと笑って、父ちゃんの背中に喝をいれるように叩いたらしい。ばあちゃんが、前に教えてくれた。
この温かい家族がいつまでも続くと良いと誰もが思った。
なんてこともないある日の深夜の住宅街に、赤い炎と煙が現れた。
ぼくは、突然泣き出した。じいちゃんとばあちゃんは飛び起きて、ぼくをいつものように必死にあやしてくれた。
でも、いつもなら少しずつ泣き止むのに、この日だけは泣き止まなかった。異常な夜泣きだった。
「どうしたんや。こんなに泣いたら疲れるぞ」
じいちゃんが抱っこしても、なかなか泣き止まなかった。
二人が泣き止まないぼくを心配していると、深夜の住宅街に大きなサイレンとざわめきが聞こえてきた。
「おい!起きとるか!倉西のじーさん! 」
近所のおっちゃんが、大声を出しながら走って家にやってきた。
「何があった!? 」
「お前とこの息子の家が、燃えてるんや! 」
「はぁ? 」
じいちゃんは、何を言われたか分からなかった。
上を見上げれば、赤い炎の方向がぼくの家がある辺りだった。
ぼくをばあちゃんに預けて、無我夢中で走った。
たどり着いた家を見れば、炎に包まれて燃えていた。じいちゃんは、大切な家族を助けようとその炎に向かって行こうとした。
「じいさん、何やってるだ!危ないぞ! 」
近くにいた人たちに、じいちゃんは取り押さえられた。それでも、じいちゃんは必死に前に進もうともがいた。
「わしの息子夫婦と孫がおるんじゃ!早く助け出さんと。死んでしまうんじゃ! 」
「今、行ったらじいさんまで、死んでしまうかもしれんぞ! 」
「わしは、見殺しにしたくないわ! 」
「おじいちゃん! 」
じいちゃんはその声の先を見ると、ばあちゃんがまだ泣いてるぼくを必死に抱きかかえて立っていた。
「消防隊が頑張ってくれてるから。今は待ちましょう」
ばあちゃんは、涙を流すのを我慢していた。
「おう」
家の中にいた消防隊の何人かが出て来た。
「息子夫婦と孫たちは! 」
消防隊の後ろから、兄ちゃんと姉ちゃんが担架に乗せられて戻ってきた。
二人には、色んな機械がつけられていた。
「落ち着いてください!お孫さんはこれから病院に搬送をします! 」
消防隊は冷静に、じいちゃんに伝えた。
「息子さんとお嫁さんは、今救出活動をしてます」
消防隊は、今の状況をじいちゃんたちに説明をしていた。
ぼくは、目の前の炎と兄ちゃんと姉ちゃんがどこかに連れて行かれると思って怖かった。
三歳のぼくでも、この炎と出来事をわからないなりに覚えていた。
ぼくの家が燃えたのは、その当時よく起こっていた放火事件が原因だった。
父ちゃんと母ちゃんは、兄ちゃんたちを先に逃がそうとして逃げ遅れた。そして、身体の一部に倒れてきた家具が下敷きになって、命が消えていった。
兄ちゃんと姉ちゃんは、病院に搬送されたけど煙をよく吸ったせいで、いなくなった。
じいちゃんとばあちゃんは、まだ三歳ぐらいのぼくがいるから、心身ともに潰れるわけにいかなかった。
ぼくは、父ちゃんと母ちゃんと兄ちゃんと姉ちゃんたちと暮らした日々は、もうおぼろげだ。
棚に飾ってる僕以外の家族写真は、あのひよりも前に時を止めていた。
あの炎で、あの家にあった当時の父ちゃんたちの写真が燃えてしまったから。じいちゃんの家に遺っていた写真を飾った。
みんな、僕とじいちゃんとばあちゃんを残していなくなった。
読んでいただき、ありがとうございました。