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第26話 両親の馴れ初めと影の立役者になる人

僕は、法律や制度など詳しくない。そのため、実在するものと違います。

 倉西(じゅん)と倉西すみれは、保育所の年長の時に出会った。すみれの親の都合でこの町に引っ越して来たからだ。


「すみれです! 」


 すみれが自己紹介をした時から、純は好きになった。彼女の笑顔がとてもかわいかったからだ。

 純は、名前の通り純粋でまっすぐな性格をしていた。

 好きなモノには一途で、もう着れなくなった好きな服を捨てられそうになると大泣きをする。無理に着ようとして、着れなくなると大泣きする。


 好きなのに、着れないからってなんで捨てるのと言葉足らずで大泣きをしながら抗議をする。


 困ったちよこは、純に交渉を試みた。


「純、この服はね。純が着るには小さくなったの」


 純は、首を横に振る。認めたら、捨てられると思ったから。


「お母さんね。この服をハサミで切ってね。他の純が好きな布とひっつけようと思うの」


 純は、首をかしげた。


「ちょっと、むずかったね。これが見本なんだけどね」


 ちよこは、一つのクッションを純に見せた。


「純、見てみてね。このクッションの布はね。全部違うのが分かるかな」


 そのクッションの布は、全部素材や柄になっていた。


「パッチワークっていうの。純が好きなモノをお母さんも、大切にしたいからね」


 純は、パッチワークのクッションやちよこの顔を見る。


「純の好きなモノをいっぱい集めたパッチワークを作ろう〜 」


 ちよこが元気に腕を上に上げると、純もそれをマネて腕をあげた。


 その日から、純は服ならそれの特に好きなところをちよこに切ってもらった。

 好きな服やハンカチなどを集めて、ちよこがきれいに縫い上げてパッチワークにしていった。

 

 ちよこは、かわいい一人息子の純の気持ちを支えていた。


 純がすみれに初めて会った日に家に帰って、ちよこたちを驚かせることを言い出した。


「ぼく、すみれちゃんとけっこんするんだ! 」


 二人は、その言葉に激しく動揺した。


「純。落ち着け」


「おとうさん。ぼくおちついてるよ? 」


「そうか」


「純。すみれちゃんって、今日保育所に来た子だよね? 」


「うん! 」 


 純は、笑顔で答えた。


「結婚って、意味わかるのか? 」


「すきなひとと、ずっといっしょにいることだよ! 」


 ちよこたちは、意味は合ってることに複雑な心境があった。

 純は、子供ながらに有言実行をするタイプだったので、変に暴走をしないか心配になるからだ。


「違うよ」


 魂蔵が、言った。


「大人になって、自分と相手が同じ人を好きでずっと一緒にいることだから。純はまだまだ子供だから違うんだ」


「純、惜しかったね」


 純は、静かに泣き始めた。


「純、好きって気持ちは大切だ。でも、自分だけが想ってたらダメなんだよ」


 魂蔵は、純の目線になってまっすぐと伝えた。


「ちょっとだけ、分かった?」


「ちょっとだけ」


 

 純は、保育所ですみれいることが多かったが自分の気持ちは伝えなかった。相手の気持ちも大切だと子供ながらに想ったから。


 すみれが保育所に来て数ヶ月経ったこと。ある噂があった。

 すみれの両親が離婚をした。父親が浮気をして、不倫相手の駆け落ちをしたらしいと。

 すみれの母親が実家に、子どもたちをつれて戻った。

 その実家から、この保育所は離れているのでなかなか園で噂が広まらなかったらしい。



「ぼくね。すみれちゃんからママとパパがなかよくないってきいたの。ぼくね。すきっていうのしなかった」


 純は、すみれから家庭の事情を聞いていたから自分の気持ちを言わないようにしたという。


「すみれちゃん、すごくかわいいの。ぼく、おとなになっても好きならちゃんと言うんだ」


 と、純の優しさと一途さがかわいいと思うと同時に複雑な心境になる。



 ちよこが保育所に純をつれて登園した。


「すみれちゃん! 」


 二人の前にすみれが、母親に手を繋がれていた。


「じゅんくん! 」


 純の声にすみれは振り向いて、笑顔で彼の名前を呼ぶ。


「あっ」


 すみれと母親の手が離れた。


「すみれ、手を離すなって言ってるでしょ! 」


 すみれこ母親の口調に、すみれは涙を流した。


「すみれちゃん。おはよう。私は、純のお母さんです」


 すみれの母親は、子供に駆け寄らずにじっと見ているだけだった。

 彼女は、抱っこ紐の中にいる赤ちゃんが気持ち良さそうに眠っていたからすぐに動けなかったのだ。

 ちよこは、その様子にたまらずすみれの元に歩み寄った。


「すみれちゃん。お母さんが言うようにいきなり手を離すとね。すみれちゃんが転んでしまうかもしれないの。すみれちゃんのお母さんは、あなたが心配だったから怒ったんだよ。すみれちゃんが嫌いで言ったわけじゃないんだよ」


 ちよこは、すみれにそう話した。親は子どもが心配のあまり時々口調が悪くなる。

 危険が分からない子供にとっては、自分のことが嫌いだら怒ると誤解をしてしまうことがある。

 ちよこは、すみれとすみれの母親のことを想って話した。


「すみれちゃんは、うちの純にあいさつをしようと思ってくれたのかな? 」


「うん」


「ありがとうね。でもね、手を離す時はお母さんに「友だちのところにいくからはなすよ」ってことを伝えてね。走らなくて良いからね」


「わかった!ママに、ごめんなさいするね」


 すみれは、少し離れたところで動けずにいる母親のもとに言った。


「ママ、てをはなしてごめんなさい。こんどはちゃんというね」


「うん。ママも大きな声で怒ってごめんね」


「うん」


「あっ、そろそろ教室に行かないと遅刻するね」


 ちよこが、優しい顔で言った。


「はい」


 すみれの顔はとてもくたびれていた。そして、彼女は抱っこひもで赤ちゃんを抱っこしていた。


 すみれの母親とちよこは、保育所に子供を預けた後に倉西家で話をすることになった。


「いきなり、私の家に誘ってごめんなさい。さっきも、勝手に二人の間に入っておせっかいだったわよね」


 ちよこは、申しわけなさそうに言った。


「大丈夫です。あなたのおかげで私たちは救われたから」  


「今、主人は仕事でいなくて。ちょうど私のパートも昼からだったからね。ここなら、すみれちゃんのお母さんも赤ちゃんもゆっくりできるかなって。一応、ベビー用品があるからね」


「そうなんですね。この子は、すみれの弟の椿(つばき)で夜泣きが酷くて、私自身ゆっくり休めなかったから。その、助かります」


 二人は、赤ちゃん用の布団で眠るすみれの弟を見た。


「純が大きくなると使わなくなるんだけど。なぜか手入れを続けてたの。新しいのも買ってたからね。何度かおなかに、子供が来てくれたけんだけど。お空に行ってね」


「そうだったんですね。でも、手入れをしてくれてたり、新しいのがあったから、すぐに使えました。ありがとうございます」


「うん。そう言ってもらえてよかったわ」


 二人で、気持ち良さそうに眠る椿を笑顔で見た。



「昔はね、今よりも近所同士の付き合いがすごくてね。みんなで自分の子じゃない子をみてたのよ。子育てを終えた家庭や子育て中こベテランの親が責任を持ってね。共働きじゃなかったり、共働きだったりで今も昔も大変なのよね」


 ばあちゃんもその一人で、せがれの父親や近所のおっさんたちの面倒をみていたこともあるし、赤ん坊の純の面倒をみてもらっていたこともあった。


「だからね、私にすみれちゃんと椿くんのお母さんのお手伝いをさせてもらえないかしら」


「良いんですか?こんな見ず知らずの私に」


「良いのよ。私がね、すごく心配なの」


「ありがとうございます」


 すみれの母親は、まだ涙を流していたが笑顔だった。


「見ず知らずと言えば、お互いに名前を言ってなかったわね」


「あっ、本当ですね」

 

 二人は、小さくクスクスと笑った。


「改めまして、私は純の母親の倉西ちよこです。よろしくね」


「はい!私は、今度旧姓に戻る予定なので山ノ内(やまのうち)やえかです。よろしくお願いします」


「はい!やえかさん、純と共々よろしくね。お互いに無理のない範囲で助け合いましょう」


「はい! 」


 山ノ内やえかは、ちよこに今の自分の置かれてる状況を話した。


「噂でご存知かもしれませんが。前の夫とは、離婚の話が本当は上手く出来てないんです。離婚はなんとか同意してもらえたのですが、親権のところで揉めていて」


 やえかの話では、夫の両親が協力して離婚届けや慰謝料と養育費について話しをつけた。

 でも、いざ離婚すると話しが変わったのだ。「片親だけだと子供たちの教育に支障をきたすから。自分と不倫相手が育てる! 」と言い出したそうだ。



『離婚届けを書くように脅されて、金をむしり取るような女では、母親として失格だ。だから、自分と新しい母親が必要なんだ。まだ赤ん坊の子は俺の長男で後継者だから、その子だけでも置いていけ。』


 と、前の夫がそう言い出すようになった。やえかは離婚する前に、「子供なんて産むから、お前のことを女として見れない。だから、不倫をしたんだ」と彼にそう言われていた。

 だから、やえかは彼のことがよりよくわからない存在になり恐怖を感じた。


 彼は、一度もすみれと椿の名前を言わなかった。

 椿が赤ん坊のうちなら、不倫相手のことを実の母親として刷り込みが出来ると思ってるようだった。


「前の夫の両親が間には、入ってくれてるのですが。時々、私の実家に電話がかかったり手紙が届いたりしてて。慰謝料は払ってくれたのですが、養育費は一ヶ月で止まりました」

 

 やえかは、俯いて手で顔を隠した。


 元義母が、情報共有として連絡のやり取りをしていた。


「私の母親が、身体が悪くてで入退院を繰り返してます。父は、母の世話や時々家事育児を手伝ってくれてます。でも、入院や治療費と両親も高齢なってきて、いつまでも頼るのが申し訳なくて。自分も子育てがあるので、とても弁護士に頼る余裕がなかったんです」


 ちよこは、黙ってその話を聞いていた。


「やえかさん。早速、あなたにおせっかいをやいてもいいかしら? 」


「えっ? 」


「私っていうより、夫の知り合いに弁護士と警察官がいるのよ。その人たちは、とても良くてね。夫の頼みを断れないから頼りになるわよ」


 ちよこは、優しい声でそう言った。それに、やえかはゾクッとした。


「詳しいことは、分からないけど。警察官の方はやえかさんが住んでいる方の管轄と連携してくれると思う。それに弁護士も腕利きで、元旦那と不倫相手に接近禁止命令を裁判所に出してくれてると思う」


「ちよこさん、すごいですね」


「あら、そうかしら。でも、すごいのは夫の人脈とやえかさんが勇気を持って私に話してくれたことよ」


 やえかは、大粒の涙を流した。

 ちよこは、やえかか泣き止むのを背中をさすりながら待った。


「落ち着いた? 」


「はい。すみません」


「謝ることはないよ。それよりも、さっき元旦那からの電話や手紙のことを言ってたけど。録音や保管ってしているの? 」


「はい。離婚する時に、周りから証拠が必要って教えてもらいました。それから、携帯や固定電話の録音と元旦那や義母から届いたものは保管と記録してます」


「しっかりできてるね。私のほうから、夫に今回のことを伝えてもいいかしら」


「はい。お願いします」


「はい。頼まれました。あと、役所の知り合いもいるから受けれるサポートの相談に繋いだり、一緒に聞きに行ったりも出来るからね。その人は、私の知り合いね」


「なんだか、私は至れり尽くせりになって良いんですか? 」


「良いのよ!今もすごくしんどいのに頑張ってるんだからね」


 その後、ちよこはやえか親子が帰宅してから紙に色々と今回のことをまとめた。

 それを帰ってきた魂蔵に、見せながら説明をした。


「ちよちゃんの頼みだから、俺が出来ることはするよ。アイツらなら、良い成果をあげてくれるから。やえかさんに、心配するなって伝えて」


「ありがとうございます! 」


 魂蔵は、ちよこの笑顔に照れた。


「早速、順番に連絡をしてくるから。すまないが、純の面倒を頼む」


「はい。こちらこそ、すぐに動いてくれて助かるわ」


 魂蔵は、ちよこの笑顔にまた照れた。そして、二階に行って電話をした。


 ちよこも連絡先を交換したやえかに、魂蔵が動いてくれることや「心配しなくて良いよ」と伝えた。


 翌日から、ちよことやえかは行動することになった。

 まずは、弁護士に相談と打ち合わせをしてから一緒に警察署に行って知り合いの警察官と話をした。

 その後、被害者届けや接近禁止命令などの書類を提出して受理されるのを待った。


 警察には、管轄の警察署に自宅や保育所の周りの巡回を強化してもらった。


「本当に、助かりました。ありがとうございます」


 こうして、やえかは前の夫の恐怖からの解放と養育費や今回のことでのさらに慰謝料の請求をして応じてもらえるようになった。


 そして、地域包括支援やファミリーサポートなどの利用が出来るようになった。


 やえかは、涙を流して喜んだ。



 すみれと純は、成人式をして数年後に結婚をした。純とすみれは、保育所で出会ってからすれ違いもあったが、ずっと隣で支え合っていた。

 その頃には、すみれの祖父母は亡くなっている。その時も、倉西家が山ノ内家を支えた。


 すみれの弟の椿が成人式を迎えた年に、やえかは病気で亡くなった。


 このことは、山ノ内家以外にも倉西家の特にちよこが悲しみに包まれた。


「お母さん、大丈夫? 」


 純は、優しくちよこに話しかけた。


「ううん。大丈夫じゃないわ。やえかさんが病気になって、余命宣告を聞いた時から覚悟はしたの。でも、優しくて頑張りやのやえかさんがいないって現実に心が追いつかない」


「うん」


「私の悲しみよりも、すみれちゃんと椿くんの方が親を亡くしてつらくて悲しくてたまらないと思う。私がこんなに悲しまないほうがいいのは、分かっているんだけどね」


「お母さん、大切な人の死を誰かと比べなくても良いよ。それに、すみれちゃんと椿くんはやえかさんに似てとても強いんだ。たくさん、やえかさんの話をして泣いて悲しみを共有しすぎないように気をつけたらいいんだよ」


「ありがとう」


 ちよこは、純に勧められたことを実行した。そうすると、心の中にいつまでもいた悲しみが明るくなった。



 すみれの弟の椿は、現在も生きてるが海外で暮らしていて『受験生連続放火殺傷事件』の時には、すぐに帰れなかった。

 魂蔵からのメールで、すみれたちが火事に巻き込まれて亡くなったことを知らされていた。


 椿がじいちゃんに、帰る日程について電話をした時のこと。

 姉の死を知ってすぐに帰る準備をしたが、じいちゃんが止めたのだ。


「椿。ワシはお前に酷いことを言う。どうか、ワシを恨んでくれ」


 椿にとって、魂蔵は第二の父親だった。


「今は、日本に帰るな。すみれさんたちが亡くなって、すごくつらくて会いたいと思うけど。でもな、今の日本は恐ろしいんだ。こんな現実を知るのは、ワシらだけでいい。椿には、純粋に悲しんで心を落ち着けてから日本に帰れ」


 これを聞いた時は、正直にいうと椿は魂蔵に怒りが湧いた。

 でも、魂蔵と電話で話す前に、ネットで姉夫婦と甥っ子と姪っ子の死のニュースを調べた。

 椿は、言葉が出なかった。そのニュースの中に、ご遺族や関係者に取材をしたと記されているところがあった。


 魂蔵は、椿に取材をされるの食い止めたくて『帰るな』と言ったのだ。

 本当なら椿は、仕事や家庭を投げ出して日本に帰って姉たちの死を悲しみたかった。

 そして、生き残った陽架琉を抱きしめたかった。


 でも、椿は魂蔵がなんとか踏ん張って、自分を悪者になっても良いという覚悟で言ってるんだと分かったのだ。


「魂蔵さん。分かったよ。日本に帰るのを、()は辞めとく。でも、お願いがあるんだ」


「なんだ? 」


「ちよこさんと話をしたい。ちよこさんが母の死を一緒に向き合ってくれたように、俺も向き合いたい」


「分かった。今、寝てるから日を改めでも良いか? 」


「うん。こっちの時差や仕事は気にしなくて良いから。ちよこさんたちに合わせるから」


「椿は、やえかさんとすみれちゃんに似て強いな。でも、無理をするなよ」


「うん。魂蔵さんたちも、無理をしないでね」


「ありがとう。街のみんなにも、支えてもらってるからなんとかするよ」


「あと、陽架琉の調子はどう? 」


「陽架琉は、やっぱり波があってな。純たちを恋しがって夜泣きをするよ」


「大変だね。いざって時は、飛行機に乗って会いに行く。今は、魂蔵さんの言う通りにこっちにいるから」


「ありがとう。ワシが悲しんでいる椿に酷いことを言ってるのは分かってるから。本当に、ワシのことを恨んでくれよ」


「魂蔵さん。大切な人の死を誰かと比べなくても良いよ。だから、俺は魂蔵さんを恨まないよ」


「純と同じことを言うんだな。別に恨んでも良い」


「純さんのように、魂蔵さんはこういうときでも優しいのを知ってるからね」


 魂蔵と椿は、しばらく話した後に電話を切った。


 数日後に、椿とちよこはテレビ電話で話をした。そのおかげがちよこが倒れるまでに踏ん張れる力が残っていたのだ。


 椿が日本に帰ったり、倉西家を影でも支えていたりしたのは、また別の話だ。

読んでいただき、ありがとうございます。


すみれと椿の年の差は、正確に計算してないです。

たぶん、五〜六歳ぐらい離れてます。

僕は、見た目で人の年齢が分からないし、数字が弱いと思い込みがあるので身近な人の年齢もいつまでも覚えれないです。

年齢が重要なこともあるが、人それぞれのイメージで良いです。特に魂蔵の年齢が分からない……。

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