第25話 何度もやってくる
陽架琉が眠る時は、心が安定しやすくなるまでは誰かがそばにいることになっている。
それは、陽架琉は心が不安定だったりそうじゃない時にも悪夢をみることがある。
寝ている陽架琉の異変に気が付くと、すぐに起こすせるから。
そうは言っても、なかなか起きない時やこちらも寝ていて気が付かないこともあった。
それでも、陽架琉を起こしたり起きてきたのをじいちゃんは慰める。
悪夢を見る度に、しばらくの間大泣きをする陽架琉は見てるこちら側はとてもつらい。
「たけし、俺が対応するから。課題をしろ」
「うん。ありがとう」
「あとちょっと」の練習の後に、陽架琉はお昼寝をした。でも、三十分もしないうちに寝言が不穏で泣き始めた。
この悪夢は、ばあちゃんが亡くなったあとから頻度が少なっていた。
おそらく今回の原因は、階段からの転落事故だろう。
せがれは、なかなか悪夢から目覚めない陽架琉をなんとか起こしてあやした。
たけしの邪魔にならないように、別室に移動をした。
「陽架琉、大丈夫だ。せっちゃんがいるよ。ほら、こっちを見ようか」
せがれは、何度も陽架琉に呼びかける。
「みんな、バイバイはイヤー!ぼくをひとりにしないで! 」
陽架琉は、成長するにつれて夢を言語化が出来るようになった。
でも、内容は陽架琉も聞いている側も酷なものだった。
「陽架琉、そんなに泣いてたら。呼吸をするのがしんどくなるよ」
せがれは、優しく陽架琉の背中をさすったりポンポンと叩く。陽架琉の呼吸は、少しずつ落ち着きを取り戻す。
「陽架琉、今はみんないなくならないよ。この家にはせっちゃんもたけしもいるから。じっちゃんは仕事から帰ってくるよ」
しばらくして、陽架琉の泣いてるのが落ち着くのを待った。
「せっちゃん、どうしたの?つらそうだよ? 」
「陽架琉、大丈夫だよ。つらいの落ち着いたよ」
陽架琉は、悪夢から目覚めてしばらくは現実が分からなくて泣き叫ぶ。
それでも、こちら側は陽架琉が少しでも落ち着けれるように声掛けをする。
そうして、陽架琉が現実を見れるようになるのだ。
でも、陽架琉はあまりはっきりそのことを覚えてない。夢のように忘れてしまう。
優しい陽架琉は、こちら側が必死に彼の心を少しでも安心できるように尽力してつらくなった顔をいつも心配をしてくれる。
「そう? 」
「うん。陽架琉、あまり寝れてないかもだけど。しんどくない? 」
「ちょっとだけ」
「分かった。教えてくれてありがとう」
「じゃあ、たけしがいる部屋に戻ろうか」
「うん! 」
二人は手をつないで、たけしがいる居間に戻った。
「陽架琉、落ち着いたぞ」
「よかったです。陽架琉くん、こっちに来てください」
「たけしくん、いつもの? 」
「はい! 」
陽架琉は、せがれの方を見た。
「陽架琉、いってやれ」
「はーい!」
たけしは、陽架琉をギューしたり頭を撫でて、心の充電をした。
「陽架琉くん、いつもありがとうございます」
「おやくにたてれて、よかったです」
「陽架琉、難しい言葉を知ってるな」
陽架琉は、ドヤ顔をした。
「たけしくんに、教えてもらったよ! 」
「たぶん、そうだったと思います」
たけしは、頭を少しかいた。
数時間してから、鍵と玄関の戸が開く音がした。
「ただいま〜 」
「じいちゃん〜! 」
陽架琉は、バタバタと音を立てて玄関に行った。
「陽架琉、ただいま」
「おかえり〜! 」
じいちゃんは、陽架琉の笑顔に安心をした。
「陽架琉。じいちゃんが手を洗った後に今日の特訓の成果を教えて」
「は〜い! 」
じいちゃんは、手洗いうがいをしてから居間に行った。
「なんか、ワシの家のはずだか。家を出る前と雰囲気が違うな」
じいちゃんは、たけしが散らかした紙たちをみてため息をする。
「じっちゃん、すみません」
「まぁ、晩御飯までに片付けてくれるならいい」
「じっちゃん、寛大だな」
「せがれ、この状態のたけしは珍しいからな」
「そうだな」
「で、陽架琉は何をしてんだ? 」
陽架琉は、一生懸命にせがれの指示のもとにテキパキと動いていた。
「たけしが、これよりもすごい感じに紙を広げててな。たけしに聞いて、それぞれの分類にまとめてたんだ。そうしたら、陽架琉が手伝うって言ってくれたんだ」
せがれは、紙の分類の途中でファイルがいると言って、一人で近くの店で数種類のファイルを買ってきた。
陽架琉は、お家にいると言ったので買い物間はお留守番をしていた。
「で、そのファイルに分類をしたモノを陽架琉のペースで入れてもらってる。手のリハビリにもなるからな」
「そうか。これよりも多かったんだ」
じっちゃんは、驚きを隠せてなかった。
「おう。たけしは、集中をしたり追い込まれるとその周りを紙だらけにするからな」
たけしは、パソコンも使うが紙が好きなので色々なことを書いている。
「せがれは、手慣れてるな」
「俺、何度も経験をしたからな」
「おつかれ」
「おう」
「たけし、今回はすまんな」
「えっ? 」
じいちゃんは、せがれと陽架琉がお菓子を取りに行った時にそう声をかけた。
「陽架琉の怪我があって、病院やいつもよりもこの家いることに縛りつけたから。今、色々と大変かと思ってな」
じいちゃんは、陽架琉の転落事故のあとのたけしの様子が気になっていた。
今までも、毎日とように我が家に来ていたが、なんだか今回は言葉にしにくい何がか違っていたからだ。
「じっちゃん、この惨状は気にしなくて良いです。じっちゃんも陽架琉くんも、悪くないです」
「惨状ってのは自覚ありなのか。でもな」
「僕は、真面目なので自分のことを色々と考えすぎてこうなってしまいました」
「そうなのか。それでも陽架琉に本を書いくれたから、余計にこの惨状になったんじゃないのか?
」
「じっちゃん、この状態に気にしすぎだ」
「「えっ? 」」
居間の入り口には、さっき台所にお菓子を取りに行ったせがれだけがいた。
「おい。陽架琉はどこだ? 」
「じっちゃん、大丈夫だ。陽架琉はトイレに行ってるし、また俺もこれを置いたらそっちに戻る」
せがれの手には、お菓子と人数分の飲み物をお盆に乗せていた。せがれは、居間にあるもう一つの小さめの机にそれらを置いた。
「じっちゃん、さっき俺もこの状態を経験したって言ったろ」
「あぁ」
「たけしは、陽架琉やじっちゃんにカッコつけたいからあまりこの状態を見せないようにしてたんだ。じっちゃんも知ってると思うけど、たけしがまた賞を取ったのを皮切りに仕事が増えて、それで課題のことを忘れってた」
陽架琉の転落事故の前にも、たけしは大きめの小説の賞を取った。その関係の仕事が増えた。
せがれはこの時に言ってないことがある。たけしは、仕事が急に増えて疲れたので見なかったことにしたい衝動をかられた。
そんな時に、陽架琉の転落事故とあのひのことやせがれの人間性に対する思いが重なったので、そっちに意識を持っていた。
仕事よりも大切なことだから良いだろうと、言い訳をして。
それらをしすぎて、たけしは担当編集者や大学の教師から鬼電話があり、今に至っている。
「早い話、たけしの自業自得だ」
せがれは、たけしの方をみる。
「はい。そうです」
そう認めるたけしは、体育座りをして膝に頭をうつむくように乗せていた。
「気にしなくて、良いから」
せがれは、この状態になれてるので、心配してるじいちゃんにそう言った。
「お、おう」
せがれは、陽架琉がいるトイレのほうにに行った。
「たけし、それでも無理はするな。ワシにも、たけしの素を見せれる範囲みせていいからな。たけしを頼りにしてるから、無理して身体を壊すなよ」
じいちゃんの言葉に、たけしは頭を上げて彼を見る。
「お前の大好きな陽架琉が悲しむぞ」
「はい。分かりました」
廊下からバタバタと、走る音が聞こえた。
「むずかしい顔をしてるね。なんの話をしてるの? 」
陽架琉が居間に戻って、開口一番に聞いた。
廊下を歩いてる時から二人が何かを話してるのが聞こえていたけど。
なんて言ってるのか分からないし、二人の顔はあまり穏やかには見えなかった。
「それは……」
じいちゃんたちがどう言おうかと、少し迷った。その時、せがれが戻ってきて陽架琉の横に座った。
陽架琉は、せがれに気がつくと彼の目を見た。
「たけしが、色々と頑張ってるから。無理したらダメだよ。周りに頼ってね。たけしが元気じゃないと、陽架琉が悲しくなるよって、じいちゃんが話してたんだ」
せがれは陽架琉に分かるように、短い分量で分かりやすくゆっくりと伝えた。
「おい」
「じっちゃん、大丈夫。陽架琉は、成長してるから。さっきの話が聞こえたことも、陽架琉には分かりやすく言えば伝わるから」
せがれは、じいちゃんたちの方を見て言った後に、陽架琉の目を見た。
陽架琉は、真剣な顔をしてまっすぐとせがれを見た。
「陽架琉、俺の言ったことは少しだけでもわかるよな? 」
「うん! 」
「どんなことが分かったか、言えるかな? 」
「たけしくん、頑張りすぎてるからね」
「うん」
「じいちゃんが頼ってね」
「うん」
「たけしくんは、ぼくのことが大好き」
陽架琉は、そこだけは自信満々に言った。その表情に、せがれは少し笑いを堪えれるように頑張った。
「おわり」
せがれは、耐え切れずに笑う。
「せっちゃん? 」
「ごめん。陽架琉、惜しいな」
「あっ!もう一つあったね。たけしくんが元気じゃないと、ぼくがかなしくなるよ」
「正解」
陽架琉は、ドヤ顔をする。
「ほら、陽架琉は成長してるだろ! 」
二人して、ドヤ顔をする。
「確かに、陽架琉は成長してる。心配をかけたくないからって、隠す必要はないな」
「はい。そうですね」
二人は、安心したように言った。
四人は、小さな机があるところに移動をしてお菓子を食べたり飲み物を飲んだりと一休みをすることにした。
「陽架琉。今日の特訓の成果を教えて」
「うん! 」
陽架琉は、嬉しそうに特訓の成果を話した。ところどころで、せがれが補足をする。
「陽架琉!すごいな!よく頑張った! 」
じいちゃんは、すごく喜んで陽架琉の頭をなでる。
「やった〜! 」
「陽架琉、無理はせずに出来ることをこれからも続けよう」
「は〜い! 」
少し時間が経って、じいちゃんはみんなから離れて二階で電話をかけた。
「もしもし、お世話になります。倉西陽架琉の祖父ですが……」
じいちゃんは、陽架琉の通っている小学校にかけて、担任につないでもらった。
「先生。今日の家での特訓ですが、陽架琉が階段を二階まであがって少しだけおりれました。その報告をしたくてご連絡をしました」
じいちゃんは、陽架琉の今日の成果をどうしても担任に伝えたくなった。
陽架琉のために学校や担任が動いてくれて、すごく助かっているのもあるからだ。
「ご連絡とご報告、ありがとうございます。陽架琉くん、すごく頑張りましたね。安心しました」
「はい。こちらもすごく安心しました。陽架琉にはら、今日できたからといって焦らずにゆっくりと前へと進んでほしいです」
「そうですね。私から一つ提案があるのですが。お伝えをしていいでしょうか? 」
「はい」
「もしも、陽架琉くんが学校に行きたいとなったら何時間目の授業や休み時間でもいいのです。支援級が一階にあるので、登校をしてみませんかという案内です。もし登校出来そうなら、お電話をいただければ、こちらは対応をする準備は出来てますから」
「登校できたとしても、すぐに帰りたいってなる場合もあるかもしれん。それでも、いいですか? 」
「はい。お迎えは、必要だと思うので。その間は、学校でいてもらいますね」
じいちゃんは、担任からの言葉にすごく救われたと思った。すごく、生徒に寄り添ってくれるから。
時に学校は、弱者になった生徒を見捨てて強者が大切な生徒として守り寄り添う傾向があるからだ。
じいちゃんは、今までの経験でそれを知っているし、純やせがれたちが苦しんでいたことを見ていた。
今までもこの学校は、自分たちに寄り添ってくれてるのは知っていた。
でも、人は突然前触れを見せずに裏切る生き物だ。
「陽架琉には、このことをあえて言わなくてもいいですか? 」
「その理由をお聞きしても? 」
「はい。言ってしまうと、陽架琉はそのことを気にして落ちつかない時があるんです。陽架琉が、学校に行きたいって言い出したら、そちらにご連絡をして一緒に登校します。ワシか緊急連絡先の誰かになると思います」
「分かりました。そのほうが、陽架琉くんの安心になると思います。こちらも、そのように共有しておきますね」
「よろしくお願いいたします」
「はい。よろしくお願いいたします」
二人は、少し話した後に「失礼します」と言って電話を切った。
じいちゃんは、陽架琉がいないところでこのことを共有したのだった。
この日の陽架琉は、疲れていたのか夜泣きをせずに朝まで眠った。
じいちゃんは、またすごく安心したのだった。
読んでくださりありがとうございます。
学校に対しての感じ方は、僕の経験をモチーフにしてます。




