第20話 とおちゃんたちのいろ
倉西陽架琉は、ピッカピッカの小学一年生になった。あのひから四年の時が経った。
せがれとたけしがいつものように、じいちゃんの家に遊びに来ていた。
「せっちゃん! 」
「陽架琉、ニコニコでどうした? 」
「このランドシェル、かっこいい?? 」
陽架琉は、じいちゃんに買ってもらったランドセルがお気に入りで家の中でもよく背負っていた。
そして、「かっこいい?? 」とみんなに聞いていた。
「うん。すごくかっこいいよ。じっちゃんに良いのを買ってもらったな」
せがれはそう言って、キラキラの目をする陽架琉の頭を撫でる。
「えへへ」
陽架琉は、すごくニコニコしてくるりとその場を回る。
「陽架琉、俺がいう言葉をゆっくり言ってみて」
「うん」
「ラ・ン・ド・セ・ル」
せがれは、一文字ごとに区切りながら言う。
「ラ・ン・ド・セ・ル」
陽架琉は、マネをしていう。
「ランドセル」
「ランドシェル」
「ランドセル」
「ランドセル」
「もう一回、今の調子で言うぞ。ランドセル」
「ランドシェル」
陽架琉は、首をかしげる。
「陽架琉、惜しいな。でも、なんて言いたいのかは前よりも通じやすくなったな。また、頑張ろうな」
「うん! 」
陽架琉の発達は、少しゆっくりで言葉も舌足らずなところがある。
色々な専門家のもと、これからの陽架琉が生きやすいようにサポートをしている。
「ひかるのランドシェル、あおいよ」
「うん、陽架琉のランドセルは青いな」
「陽架琉は、何でその色にしたんですか? 」
「えっとね」
「ゆっくりで、いいですよ」
「みんなのいろだから」
「みんなのいろ? 」
「うん!お空のとおちゃんたちのいろなの! 」
せがれとたけしは、首をかしげた。
「せがれとたけし。陽架琉とランドセル選びの時に行った時のワシとばあちゃんもこの言葉に首をかしげたよ」
縁側にいたじいちゃんが、振り向いて言った。
「じっちゃん、どういう意味か分かるの? 」
せがれが、聞いた。
「おう。陽架琉、代わりにじいちゃんが言ってもいいか? 」
「うん、いいよ! 」
「陽架琉にとっては、青って空なんだ。昔、ワシが言った空から家族のパワーをもらおうってのを覚えててな」
じいちゃんは、ランドセルの販売店に行ったことを話し出した。
『陽架琉、気に入ったのがあったら教えて』
『は〜い! 』
陽架琉は元気に返事をして、ランドセルがたくさん並んでいるところに走っていった。
『陽架琉、走ったら転ぶわよ』
『はーい』
陽架琉は、元気に返事をしてランドセルを見に行った。
『じ〜!ば〜! 』
『良いのがあったのか? 』
『うん〜 』
陽架琉は、ニコニコであるランドセルに指を指してた。
『シンプルだな』
今どきのランドセルのデザインじゃなくて、昔からあるようなタイプだった。色は、昔のより明るめではあった。
『おぞらのあお! 』
陽架琉が言う通りに、ランドセルの色は青空のような青色だった。
『そうだな』
『良い色だね』
『うん! 』
『何で、これにしたんだ? 』
『とおちゃんたちのいろ! 』
『『ん?? 』』
じいちゃんたちは、首をかしげた。
『とおちゃんたちとがっこういくの! 』
じいちゃんたちは、意味を察して少し複雑に思った。
『にいちゃん、ねえちゃん、がっこうたいへんっていってた』
陽架琉は、三才までの記憶をおぼろげに覚えていた。
兄と姉が「学校が大変で疲れたから補給させて」とよく陽架琉にひっついていたから記憶に残ってたのだろう。
『そうだな』
『みんなは、そらにいるから。パワーをもらうの〜 』
陽架琉は、じいちゃんが言ったこともちゃんと覚えていた。
『陽架琉は、学校が大変だから。お空の色をしたランドセルで行きたいんだな。お空は、父ちゃんたちかいる場所ってことであってる? 』
『うん〜! 』
陽架琉は、数ある青の中から自分が思う父ちゃんたちの空の色を選んだ。
値段も予算内で、思ったよりも軽くて収納も工夫されていたのでそれを買ったのだという。
じいちゃんからの話をせがれたちは少し複雑に思いながら聞いた。
「そうなんだ。父ちゃんたちの空の色のランドセルがあれば、陽架琉らしく頑張れるな」
「陽架琉くんは、選ぶセンスがありますね」
「うん! 」
「ひかる、とおちゃんたちとがっこういくの〜 」
陽架琉は、ニコニコと笑顔でまたくるりと回る。
「陽架琉、大切に使うんだぞ」
「うん〜! 」
陽架琉は、竜輝とあおいも通っていた学校の交流学級と支援級に通う。
「陽架琉、写真を撮ろう」
じいちゃんが、カメラを陽架琉に向ける。
「おい、せがれとたけしも入り込むな」
「良いだろ。記念だ」
「陽架琉くんも僕らと写真を撮りたいですよね」
「うん〜 」
「卑怯だぞ」
せがれとたけしは、笑う。
「陽架琉、ランドセルを前に抱っこして。たけし、サポートしてやれ」
「はい」
たけしは、陽架琉がランドセルを下ろして前に抱っこするのをサポートをする。
「よし。そのまま、たけしとせがれが陽架琉を挟め。で、とびっきりの笑顔をしろ」
じいちゃんは、何枚もシャッターをきった。
「じっちゃん。写真、撮りすぎるだろ」
「な〜に、記念だ! 」
みんなが、笑う。
なんてことない穏やかな日常が、このまま続くことを祈るばかりだ。
読んでいただきありがとうございます。
私は、交流学級や支援級をあまり分かってないところがあります。ご理解ください。




