第19話 親不孝者
陽架琉は、ばあちゃんと散歩に出かけていた。時間軸は、不明。
せがれとたけしは、当たり前のようにこの家にいる。
「せがれ、たけし」
いつものように、じいちゃんが縁側にいて二人を呼ぶ。二人は、じいちゃんの横に座った。
「じっちゃん、どうした? 」
「二人は、親不孝者って言葉を知ってるか? 」
「前の俺」
「親に心配をかける人、親よりも先にこの世を去る子。僕は、そう聞いたことがあります。せっちゃんの場合は、前者ですね」
じいちゃんは、静かに頷いた。
「じっちゃん、いきなり親不孝者を聞くなんてどうしたんですか? 」
「昔、ワシの親世代がそう言って涙を流したのをふと思い出したんだ」
じいちゃんは、遠い過去を見つめた。彼の言う昔は戦時中も含まれているのだろう。
「ワシの兄貴や親戚の男たちは、戦地で逝った。ワシの姉と妹と弟は、戦争の時代の被害者や病気で死ぬことが多かった。親父のきょうだいは、事故や病気で死んだ。そうすると、祖父や親父はみんなして「この親不孝者が!! 」と言って泣くんだ」
じいちゃんは、当時を思い出したのか声を震わした。
「親は、鬼じゃないから。心の底では、怒りでなくて悲しみがあった。でもみんなは、子どもが自分たちより先に死んで欲しくないし、そのために必死に育ててだけじゃないんだ」
親が鬼なら、あんなに涙を流さないから。親である自分たちよりも先に子が死んでしまうのがとてつもなくつらくて悲しいから声をあげるのだ。
「ワシは、それを聞くたびに不幸とは思わないんだ」
じいちゃんは、近くに置いていたコップに入った水を飲んだ。
「亡くなってしまった子たちは、親を不幸にしたくなかったし、必死に生きようとしていたんだ。見えない人生の分岐点で、もがいただけでな。結果、この世からいなくなった。あの言葉は言う方も言われる方も、どちらもつらいだけだと思うんだ」
じいちゃんは、肩を震わせて泣いた。
「最近、涙腺崩壊がしやすいな」
じいちゃんは、少し明るい口調で言った。
「ワシは、純・すみれさん・竜輝・あおいのことを親不孝者と言われたくないんだ。あの子たちは、まだ正体が分からない予測不可能なモノのせいでいなくなってしまった。確かに不幸になったが、ラベルを貼るような言い方をして欲しくない。あの子たちは、ただ賢明に生きていただけなんだから」
じいちゃんは、声を震わしながら止まらない涙を流した。当時の燃えてしまったあの家が目の前に見えて言ったのだ。
「そうだな。竜輝たちは不幸者じゃない。俺たちは、知ってるからな」
「じっちゃん、そうですよ。せっちゃんの言う通りです。大丈夫ですよ」
せがれとたけしは、まだ夢に現れた竜輝のことを言えないでいた。
本当は早く言うべきからもしれない。でも、まだ自分たちの胸の中にしまっておきたい。
じいちゃんたちの亡くした人への言葉を二人は、可能な限り受け止める。
でも、せがれとたけしもまた大切な人たちを失い、まだ心を癒せずにいた高校三年生だった。
読んでいただき、ありがとうございます。
誰かが亡くなってしまうのは、遺された人にとっては不幸かもしれない。
でも、ラベルを貼るようには誰も言われたくない。
僕は、この話はあるドラマで「親不孝者が! 」と息子を亡くした父親が言うシーンを思い出してそれを元に書きました。