第16話 帰宅
繰り返しになりますが、僕は法的なことも医療的なことの専門的なのは素人です。あと、誤字脱字が多くなりやすい傾向があります。ご理解ください。
今回はそんなに長くないはずですが、区切りの数字があります。
じいちゃんが入院をしてから一週間が経った。無事にじいちゃんは体調を整えて退院することが出来た。
「ただいま〜 」
じいちゃんは、のんきな感じで家の中に入った。
「じっちゃん、おかえり」
「すばる、留守番してくれて助かったよ」
「うん」
すばるが、玄関でじいちゃんと正智を出迎えた。
「陽架琉の調子はどうだ? 」
「元気なんだけど……」
すばるは、言いにくそうに一瞬目を反らした。
「何かあったのか? 」
「陽架琉は、体調が落ち着いて元気になったけど。じっちゃんとばあちゃんが帰ってこないって落ち込んでて。入院のことはお泊りって伝えたんだけど。それで、急にじっちゃんたちがお泊りしたのは、聞いてないって盛大に絶賛スネてまして」
すばるは、早口で説明をした。
「はぁ? 」
「今、たけしたちが必死に機嫌を直せるように奮闘してるよ」
「早く行ったたほうがいいな」
居間の方から、陽架琉がグズっている声が聞こえた。
じいちゃんは手早く手洗いうがいをして、陽架琉がいる居間に向かった。
「陽架琉、ただいま! 」
「じ〜! 」
陽架琉は、じいちゃんに気がついた。そして、せがれに抱っこをしてもらってるところから抜け出そうと暴れた。
「陽架琉、危ないから」
せがれは、慌てて陽架琉を腕から解放をした。
「じ〜! 」
陽架琉は、じいちゃんの元へと走った。
「陽架琉が、元気になって良かったよ」
じいちゃんは、座って陽架琉を抱きしめた。
「ひー、プンプン! 」
「怒ってんのか? 」
じいちゃんは、陽架琉の顔を見た。陽架琉は、ほっぺを膨らましていた。
その様子に、じいちゃんは陽架琉がかわいく思えた。でも、必死にそれを隠した。
「陽架琉、じいちゃんがお泊りしてるの嫌だったのか? 」
「ひーも、おしょろい」
陽架琉は、じいちゃんたちとおそろいじゃないのが嫌だった。たとえ最初はおそろいと喜んでも、三才の子どもは気分がかわりやすい。
「そうか。おそろいじゃなくてごめんな」
それでも陽架琉は、ほっぺを膨らましている。
「実は、じいちゃんたちも陽架琉とおそろいで、元気がなかったんだ」
陽架琉は、じーとじいちゃんを見る。
「じいちゃんたちも元気がなくて。たくさんお泊りして、たくさん陽架琉と一緒にいれるようにって。パワーアップをして来たんだ。ばあちゃんも、今パワーアップを時間かけてしてるんだ」
「パアップ? 」
「おう!だから、今日からじいちゃんとたくさん一緒にいれるから。許してれないか? 」
「い〜よ! 」
陽架琉は、少し分からないこともあったけど。それよりも、じいちゃんとたくさん一緒いれるのが嬉しかった。
数時間後、陽架琉は昼寝をした。陽架琉を起こさないように、他ののみんなで小さな声で話し合いをすることになった。テーブルには、人数分のお茶やお菓子ご置いてあった。
「みんな、助かった。ありがとう」
じいちゃんは、一度みんなに頭を下げた。
「じっちゃん、困った時はお互い様です」
たけしが、言った。
じいちゃんは、グビッとお茶を飲んでテーブルに置いた。
「たけし、お前の家族のおかげで、ワシは入院と無事に退院が出来た。ありがとう」
「そう言ってくれて嬉しいです」
「ワシは、みんなに言いたいことがあってな」
「えっ? 」
誰かの驚いた声の後に、じいちゃんは咳払いと深呼吸をしてから話しだした。
「あのひは、ワシらにとっての人生の分岐点で予測不可能なことが起こった」
じいちゃんは、正智からの懺悔を聞いた後にあのひのことをたくさん考えた。
正智のように、自分のせいで誰かを死なせてしまったと思ってる人がいるんじゃないかと思った。
それで、償いのように自分たちを支えて欲しくないと思う。
自分たちは家族を喪ったけど。でも、その人たちが直接的に、彼らに手をくだしたわけじゃないから。
だから、じいちゃんは恨んだり憎んだりする気持ちも、償いを犯人以外に求めるつもりもないのだ。
「あのひに、自分たちがあの言動をしたり逆にしなかったりすればって。あの家の中で、誰かを死なせることはなかったって後悔をするのは、もう金輪際やめて欲しい」
「えっ……」
誰かが、小さくそう言った。
「そういうワシも、その一人だ。あのひに無理やりでも、陽架琉以外のみんなを家に泊めれば、あの家だけが燃えるだけで済む。今度は、火事に負けない家を建てて、みんなと一緒に生きていけばいい。ワシは、それをずっと後悔をして苦しんでんだ」
じいちゃんは、まだ誰にも言ってない心の底にあったもの打ち明けた。
「陽架琉が何かを感じて大泣きをしたんだ。その前に、ワシが駆けつけてあの火の中に飛び込んだら。息子たちを助けれたかもしれないって、今でも思うことがあるんだ。夢で悪夢を見る。仕事で現場に行くと、ワシが建てたせいで、家が燃えて誰かを死なせてしまうと思うと呼吸がしにくくなって立てなくなる」
カランっとコップの中の氷が動いた。
2
事件後に、じいちゃんは急きょ家を建てる現場に行くことがあった。
現場に行って、若い連中に指示をしながら作業をしようと道具を持った時に異変があった。
いや、現場について骨組み状態の家を一瞬に、燃え残った息子の家に見えて呼吸がしにくくなっていた。
でも気の所為だって、社長に頼まれてのと今後のために働くんだ。
これは、ただの寝不足でしんどいだけだと、じいちゃんは必死に自分に言い聞かせた。
「ハァ、ハァ…… 」
呼吸が荒れて、視界が歪む。誰かが何かを言ってる気がする。
「じっちゃん! 」
じいちゃんは、大切な道具を地面に落として座り込んだ。呼吸が荒く、嫌な汗があふれた。
「じっちゃん、大丈夫か! 」
少し離れたとこにいた社長が、慌ててじいちゃんのところに走って駆け寄った。
「社長、すまん。ワシには、家を建てるのは無理や」
じいちゃんは、社長にだけ聞こえる声でなんとか伝えた。
「分かった。車で、ちょっと休んでくれ。俺と事務所に戻ろう」
じいちゃんは、無言のまま頷いた。
「じっちゃんは、俺たちが車に連れていきます」
「ありがとう。頼むよ」
社長は、若い連中の二人にじいちゃんを任せた。じいちゃんは、若い連中に抱えられて現場を後にした。
十五分ぐらいして、駐車場に社長が現れた。じいちゃんの車は、ロックをしていなかった。社長は、若い連中から聞いていた。
「じっちゃん、お待たせ」
社長は、車のドアを開けて言った。じいちゃんは、後部座席に座っていた。
「じっちゃん、体調はどう? 」
「マシになった」
「よかった」
社長は、車の運転席に乗り込んだ。
「社長が、現場に離れていいのか」
「大丈夫、俺やじっちゃんが育てた熟練の職人もいるから。指示をしてるし、任せて大丈夫だ」
「そうか」
「俺は、現場よりもじっちゃんの心が心配だ。事務所でじっちゃんの話を聞いた上で、今後の業務内容を決めよう」
「助かる」
じいちゃんは、膝の上で苦しそうに拳を握る。
「じっちゃんは、うちにいてもらわないと困る凄腕の職人だ。いくらでもして欲しい仕事がある。だから、家を建てれねぇからって、うちを辞めるとは言わないで」
社長は、現場の駐車スペースから車を出して道路を進んでいく。
「やめねぇよ。何早とちりしてんだ。今、やめたら陽架琉やばあちゃんが苦労をするから働くよ。それに、ワシは仕事が好きなんだ」
ばあちゃんは、あのひから少ししてパートを辞めた。陽架琉の世話や事件のショックもあったり、同僚に変に慰めらたりするのが苦しくなったから。
倉西家の一家の大黒柱は、じいちゃんだった。職人に一つ筋のじいちゃんが仕事を辞めると大変なことになる。
亡くした家族の遺産や保険金があったとしても、今はそれを使いたくない。それは、今使うべきものでないから。
「事務所に着いたら起こすから、少し寝たらいいよ。さっきよりは、顔色はマジだけど。しんどそうだから」
「おう」
じいちゃんは、事務所着くまで仮眠をとった。
「じっちゃん、現場に行かずに事務所で仕事をして欲しい」
社長とじいちゃんは、事務所でお茶を飲みながら今後の話し合いをした。
「じっちゃんが現場に出て、さっきみたいな苦しみをまた味わってほしくないからな」
「事務所で、何をしたらいい? 」
「若い連中の技術指導と家具づくりと設計図や備品の確認、他にもして欲しいことはあるんだ」
「いいのか」
「うん。じっちゃん、さっきも言ったけど。熟練の職人がいて、若い連中の面倒は見れるから。それで、現場で熟練の職人がメインで動く。そして分からないところはスマホやタブレットを使って、電話やビデオ通話で事務所にいるじっちゃんに相談って方法もある」
社長は誰にも言っていないが、もしものことを本当はあのひから考えていた。
もしかしたらじいちゃんが現場でまた働けないかもしれないし働けるかもしれないこともあるかも。どちらかが分かった時に、じいちゃんのためになる仕事を用意した。
本当は、今日はどっちになるのか賭けをした。社長自身、残酷なことをしてる自覚もあるが何かあった時の準備も念入りしていた。熟練の職人たちがいれば、回る工程だった。
もちろん、じいちゃんに仕事をしてほしいのもあるが、今後のためになるならと苦肉の策だった。
社長は、じいちゃんにこの作戦を知られないように、怒られないように、心のなかでは必死だった。
「ワシのために考えてくれてありがとう。助かる。みんなに迷惑をかけているな」
「迷惑じゃない。今日は、元々休みだったのを無理に出勤を頼んだ俺の落ち度。じっちゃんが、現場で大切な道具を落とすなって昔から言ってたのに。今回、落とすようなことになってすまない」
「社長は、悪くない。ワシだって、今日もこんな予測不可能なことが怒るとは思わなかった」
予測不可能は、いつだって誰かを苦しめる。
「それに、ワシが事務所で出来る仕事をたくさんこの短時間でか考えてくれたじゃないか。さすが、社長だな」
「じっちゃんや親父たちに鍛えられたからな」
社長は、少し誇らしげに言った。そして、心がチクりと痛んだのを悟られないようにした。
「勘助は、立派にやってるよ。お前の親父の信助さんが生きてたら涙して喜ぶぞ」
「親父が、泣いたとこ見なかった。拳を何度もお見舞いされたこしかない」
「信助さんは、意外に涙もろいんだ。でも、子供の前では泣かないって言ってたな。子供には、強くてカッコいい親父って、ずっと思って欲しいって言ったわ。まぁ、隠れて泣いてるのは見たことある」
じいちゃんは、そう言ったあとに少し思い出したかのように笑った。
3
社長こと勘助は、この宮本工務店の三代目だ。その父の信助とじっちゃんは、親のような年の離れた兄のような関係性だった。
じいちゃんは、貧乏で親のためになるならと小学生の頃に工務店に道場破りかのように入った。
信助は驚きはしたが、度胸があると笑った。それから、「俺が怪我をしないように考えて、魂蔵の面倒をみるから」と当時の初代の社長に頼み込んだ。
そして、信助はじいちゃんが出来ることを考えて仕事を与えた。
そして、じいちゃんは社長を通して毎月給料代わりの小遣いをもらった。
じいちゃんは、そういう暮らしを何年も過ごした。
信助は、じいちゃんが成長するたびに言い訳をしては場所を移動した。そして「良かったよ」と嬉し泣きをしていた。
そのことは初代の社長や先輩たちにバレていて、じいちゃんに教えた。
『信助さん、隠れて泣かなくてもいいですよ』
じいちゃんは、ある日突然そんなことを言った。みんな、一瞬固まりシーンとした。
『何いってんだ? 』
『俺やみんなに良いことがある度に、泣いてますよね』
じいちゃんは、同時は若かったので言葉はストレートだった。
『いや、男が泣くのはカッコ悪いと思って』
『それは、おかしいですよ』
『えっ? 』
『泣くことに性別は関係ないし、それで言うんだったら、生まれたての男の子の赤ん坊が泣いてんのもカッコ悪いってことになりますよね』
じいちゃんの言葉に、周りはヒヤヒヤした。
『確かに、魂蔵の言う通りだな! 』
信助は、じいちゃんの言葉に納得して笑った。周りは、ホッと胸をなで下ろした。
そのことをじいちゃんは、勘助に聞かせた。
「じっちゃん、すげぇ〜 」
勘助は、腹を抱えて笑った。じいちゃんは、「当時、分かったから。怖いもの知らずのガキだった」と言い訳を言った。
「まぁ、信助さんは、かっこ悪いって理由で泣くのは隠さなくなったけど」
「なったけど? 」
「恥ずかしいだの威厳のある男として見られたいってのがあってな。隠れては泣いてるのを続けてはいたな。クセになってるのかもしれん。だから、勘助は信助さんが泣いてるのは知らないかもな」
「なんか、親父のそういう話って新鮮だな」
二人は、笑った。
4
じいちゃんが、退院した日の話し合いの時に戻ろう。
「ワシは、あの子たちを失って、今までの日常がかなり変わった。今まで大好きで、みんなに頼られていた家を建てる仕事も出来なくなった。あのひが、今までの日常を燃えて消し去ったんだと思う」
みんなは、黙ってじいちゃんの話を聞いた。
「ワシが、葬儀のときも言ったことをみんな覚えてるか? 」
じいちゃんは、みんなに問いかけた。
『いいか。犯人が息子たちにしたことを許さなくていい。でもな、犯人を恨んだり、おかしな真似をしたりするな』
と、じいちゃんはみんなに言った。負の連鎖になって欲しく無かったからだ。
「覚えてる」
せがれが、ポツリと言った。じいちゃんは、頷いた。
「なぁ、その犯人の中にまさかと思うが、自分を入れてないか。それで罪の意識を感じて、ワシらに償う真似をしてないか」
じいちゃんは、正智にだけ向けた言葉を言ってるわけじゃなかった。他の人も、同じように考えてないのか心配だった。
「ワシは、何度もいうから。金輪際、そう思うなってな。ワシからやめろって言われても、すぐには無理だと思う。でもな、負の連鎖になってるのに気がついて欲しい。自分のせいで誰かが死んでしまったと思って自身を追い詰めてるってことをな」
じいちゃんは、お茶をまたグビッと飲んだ。
「自分のせいで誰かが死んでしまったって思っていいのは、真犯人だけだから」
じいちゃんの目から、涙が流れていた。
「そうだよな」
せがれがポツリといった。
5
じいちゃんは、警察から捜査状況を何度か聞いたことがあった。
あの家の周りで不審な人物がいないかについては、数人の男女が該当していた。
でも、防犯カメラや目撃者があっても人相が分からなかった。
理由としては、夜で街灯があっても防犯カメラの画像が粗いのと、帽子や眼鏡とマスクをしていたこと、男女兼用の服だったのもある。
そして、他の放火事件でも該当する可能性の人もいるが。
でも、怪しいだけで犯人に出来ない。警察が該当者を突き止めても、確固たる物的証拠は何もないからだ。
じいちゃんは、警察官から見覚えあるかと写真を見せられた。
「分かりません」
じいちゃんは、そう答えるしか無かった。本当に分かりにくい画像だったから。
この捜査情報は、まだ公表されていないものだ。じいちゃんは、まだ誰にも話していない。
なぜなら、誰かがおかしな真似をする人がいるかもしれないのが怖かったからだ。
6
じいちゃんの話を聞いたみんなは、暗い顔をしていた。
じいちゃんが心労になった出来事や自分たちを思ってつらいことを言わしてしまったと落ち込んだ。
でも、せがれだけは違っていた。
「じいちゃん! 」
「なんだ、急に社長みたいに大きな声で呼んで、びっくりするだろ」
「ごめん」
じいちゃんは、そう謝るせがれの雰囲気も社長に似ていると思った。
「おう、それで何か言いたいことがあるのか? 」
「うん、あるよ」
さっきのじいちゃんみたいに、せがれはお茶をグビッと飲んだ。
「じいちゃん、話してくれてありがとう」
「ん? 」
「じいちゃんは、自分がつらいのに俺たちのことも心配してくれてるだろう。それで、俺たちに余計なことまで考えないで、そばにいて欲しいって思ってくれてありがとう」
「せがれ、なんか変なもの食ったか」
じいちゃんは、不思議そうな顔をする。
「食ってない」
せがれは、いたって真剣ですという顔をする。
「そうか。せがれ、前より成長したな。からかって悪かった」
「おう! 」
じいちゃんは、自分の想いを素直に受け取ってくれたせがれに安心したのだった。
そして、じいちゃんは思ったことがあった。この家に、陽架琉たちがいる場所に戻って来れて良かったと。
読んでいただき、ありがとうございます。