第12話 ニュース
僕は数字が苦手です。例えば現時点から何ヶ月遡っての何を正確な数字で表せないことがあります。
それもあって、書いている小説によって季節の描写は少ないです。この物語も今のところその一つです。
受験生の年は、受験まで同じ期間という感覚でいます。
違和感があるかもしれませんが、ご理解ください。
陽架琉の家では、テレビの番組は子ども向けのものしか見ない。
ニュースが流れるチャンネルを極力見ないようにするためには、そうするしかなかった。
陽架琉が、子供向けのチャンネルで喜ぶからあまり支障はなかった。
報道番組があるテレビ局では、連日のように陽架琉の家族が亡くなったニュースや連続放火殺傷事件が起こるたびに報道されるからだ。
『今年になってから始まった受験生がいる家庭を狙った連続放火殺傷事件と関連する放火がありました。映像が映ってますでしょうか」
倉西家の燃えた家が映った。誰かが提供した燃えてる時とその後の映像が世の中に放送されている。
「この家に住む夫の倉西純さんと妻のすみれさん。そしてわその二人の子供の長男の竜輝くん(十五歳)と長女のあおいさん(十三歳)の四人が火災でなくなりました」
モニターに、倉西家の家族構成を書いたものを映し出した。そして、説明を続けた。
「この家には、元々五人で暮らしていて、そのうちの一人の次男の三歳の男の子は、別の場所にいて無事だということです」
キャスターやアナウンサーは、遺族であるじいちゃんが許可をしてもないのに、孫の名前や年齢を公表をした。
いくつかのメディアは、どこから入手をしたかも分からない亡くなった家族の写真を公表した。その近くには、関係者からの提供と書かれていた。
そして、陽架琉の名前は出さなくても、連続放火殺人ではなく嫌な憶測を生むような発言をする者もいた。
じいちゃんとばあちゃんは疲弊をしていたが、日々の生活や警察とのやりとりで報道に対して行動を起こせなかった。
少し日々の出来事に、余裕が出来た頃のこと。
じいちゃんは感情を落ち着けて、一度報道機関にファックスを送った。
『私は、息子夫婦と孫二人の合計四人を突然亡くしました。一人だけ、私と妻と一緒にいた幼い孫がいます。
どうか、そっとしてください。
これまでと、同じように取材には応じません。どこから入手をしたのかは分かりませんが。
遺族である私たちは、名前や年齢、写真も提供をしておりません。
どうか、遺族になってしまった私たちや周りの関係者に取材をしないでください。
警察が、懸命に捜査をしてくれてます。我々は、真実を知るのを待つしかできません。
連日の報道や我が家への連絡で、我々は心を休めるのが難しくなっております。
なぜ、家族を失った我々を苦しめるのか分かりません。
全てのテレビや雑誌に新聞などといった報道機関が悪とは言いません。
でも、無闇矢鱈と個人情報や事実無根、望まない取材をしては良いとはなりません。
相手の状況や心をどうか見てください。逆の立ち場になった時のことを考えてください。
今を、現実を受け入れない中で必死に生きております。
どうか、そっとしてください』
じいちゃんは、その内容を国民的なテレビ局の一つに報道で伝えるように頼んだ。
ファックスを送り、そのテレビ局に胸のうちを少し明かしながら頼み込んだのだ。
やりとりをしたスタッフが、上層部と掛け合いじいちゃんとも電話で話し合った。
上層部は、じいちゃんに謝罪をしてから送られた手紙を大切に向き合って放送をすると約束をした。
その時に、どのようにして欲しいかの要望を聞いて放送をしたのだ。
そのキャスターは、番組内で全文を読んだ。
「以上が、遺族からこの番組に届いた内容です。私たち報道機関のあり方を、私は見直すべきだと思います。今回に限らずに、家族を亡くした遺族や周りの関係者への望まない取材をした者もいます。遺族の許可なく、被害者名前や写真の公表を無許可でしたことについて考えなければなりません。この場をお借りして、遺族の方や周りの関係者さま、ご迷惑やご心労をおかけしまして申しわけありません」
キャスターは、頭を下げた。そのニュース番組をきっかけに、少しずつ陽架琉の家族が亡くなった事件に関しての報道規制がされた。
倉西家の個人情報になる名前や写真の公表はなくなり、家の前には報道機関がいなくなって、電話もかからなくなった。
報道機関の中には、許可なく名前や写真を入手して公表していたのもあったことについては、全てではないがそれについての謝罪のお手紙がポストに入っていた。
もしかしたら、じいちゃんがある報道番組を通して「公表をしていない」と言ったのを受けて、上層部や民間人からのクレームが入ったのだろう。
生放送のニュース番組で、頭を下げたのは国民的なアナウンサーだったのもあるのか、効果が絶大であったのだろう。
ネットでも、最近は被害を受けた人のプライバシーが無いと言う意見が多発していた。
「遺族は、取材を受けなくていい」
「被害者からの写真を、遺族提供としても出してはいけない」
「被害者の写真に関係者って書いてるのに、疑問に思ってた。遺族に許可を貰わずに公表ってありえない」
「関係者って、誰なんだろう。個人情報の流失がこわい」
「この事件って、受験生の家庭を狙ったって公表をやめたほうがいいと思う」
「被害者や遺族がかわいそう」
「遺族の言葉に、全力で同意する」
「マスゴミ」
「色んな受験生に、かなり影響しそう」
「加害者の名前や顔写真だけでいい」
「被害者遺族が、声明?を出すまで追い詰めてるってことだよね。二次被害出してんじゃないよ」
「兄が受験をするのがこわいと言い出した。両親は、悩んでる」
「なんかのニュース番組で、今回のあの放火は受験生を狙った連続放火殺人事件じゃなくて、無理心中のだと思うって言ったコメンテーターもいた。あの人ヤバイと思う」
「確か、そのコメンテーターは炎上してるわ」
「今更だけど、誰が最初に『受験生を狙った事件』って言い始めたっけ? 」
「被害者まで、デジタルタトゥーにするのはおかしいよね? 」
「キャスターが謝るんじゃなくて、上層部が謝れよ」
「報道って、変に不安を煽るような言葉って言ったら駄目だとダメだと思うのに。最近は言いたい放題だよね」
『報道機関の印象操作、最高』
「遺族の「相手の状況や心をどうか見てください。逆の立ち場になった時のことを考えてください」って何に対しても言えることだよね。学校とか会社でも」
『今回のは、連続放火で死人も出てるから頻繁に報道するよね。もう少し、おめでたい話とか他の事件事故なんかすればいいのに(笑) 』
「報道は、おかしい」
「報道を放送するのも、人。人だから誰だってミスをするけど。今回の遺族の方の言葉がないと、立ち止まって、反省出来ないのはおかしい。報道するなら、責任を持って欲しい」
『警察って、無能(笑)』
「自分の家族が同じことをされても、平気だからしてるのかな」
様々な、目には見えない人物がネットに多く言葉を残していた。
今回の「受験生がいる家庭を狙った連続放火殺傷事件」について多くの不安や厳しい言葉などがつぶやかれた。
そう言った声とじいちゃんの要望により、陽架琉の周りは少しずつ落ち着きを取り戻した。
陽架琉は、たけしの家に泊まってからも、時々周りがつらくてたまらないぐらいにグズってしまうことがあった。
それでも時々、せがれやたけしの家に陽架琉を泊めて面倒をみてもらうようになっている。
陽架琉は、じいちゃんに抱っこをしてもらっても涙は止まらなかった。
「ひーくん、かぁーにあうの〜」
「会いたいな」
じいちゃんとばあちゃんは、寝不足になりながらも陽架琉に向き合った。
今日もせがれとたけしは、じいちゃんの家に遊びに来ていた。
「せがれとたけし、いつも助かってるよ」
「俺たちは、たくさん陽架琉といたいから。泊まって欲しいんだ」
「じっちゃんは、気にしなくていいですよ」
「そうだな」
じいちゃんは、自分の膝の上にいる陽架琉の頭を撫でた。
陽架琉は、きょとんとしてから嬉しそうに笑っていた。
「陽架琉、保育所の再開そろそろしようかって。話になってんだ」
「えっ? 」
「いつまでも、仕事を休ませてもらうわけにもいかねぇ。ワシが仕事に行ったら、ばあちゃん一人で陽架琉といるのも大変だからな」
「親父には、相談したのか? 」
せがれの父親がやってる宮本工務店で、じいちゃんは働いている。
「あぁ。社長には、相談したよ。陽架琉も、落ち着いてきたし、今後のために金を稼がないとって。陽架琉も、友達に会いたいと思うからな」
陽架琉は、あの火事のあとから保育所を休んでいる。役所や保育所と相談をして、落ち着くまで休む選択をした。
陽架琉の家族を亡くした事件の報道が多く、関係者への取材や保護者の反応がじいちゃんたちは怖く感じていた。
そして、陽架琉の心の不安定なのを心配したのも、休んだ理由の一つだ。
『働いてくれるのは正直助かる。でも、じっちゃんたちが本調子になるまで、マイペースに働いて欲しい。陽架琉くんやじっちゃんたちの体調をみながら、早退や遅刻はしていいから。無理だけは、絶対にしないで欲しい』
せがれの父親に、そう言われた。昔は悪ガキだった社長が、すっかり丸くなりやがって良い大人になったと思うとじいちゃんは嬉しかった。
「みんなに、世話になるな」
「世話になってるのは、俺たちだって」
「せーちゃ」
「陽架琉、どーした? 」
陽架琉は、せがれの方に手を伸ばした。
「だっこ〜 」
「おいで」
陽架琉は、せがれの方に行く。
「陽架琉、ニコニコだな〜 」
「陽架琉くん、ご機嫌だね」
たけしは、陽架琉を見て笑顔になった。
「陽架琉、さては眠いんだろ」
「ないない」
陽架琉は、手で目をこすったり、せがれの服に顔をこすり付けたりした。
「ねんね、しようか」
「ふぁ〜、」
陽架琉は、大きなあくびをしてからあっという間に 寝た。
せがれは、少しの間陽架琉の背中をトントンとした。
「助かる。夜寝る時は、まだ熟睡が出来てないから。日中は、眠くなりやすいみたいでな」
「うん。今、布団の上に下ろすと目を覚ますと思う。まぁ、寝すぎないようにしないとな。」
「せーくん、足が痺れないように頑張って」
「おう」
「せがれ、タオルを服と陽架琉の間に挟んだ方が良い。すごい量のよだれが服につくからな」
じいちゃんは、タオルをせがれに渡した。
「ありがとう」
「おう」
「じっちゃん、さっきの陽架琉くんの保育所の再開の話なんですが」
たけしは、じいちゃんの横に座って言った。
「うん」
「陽架琉の保育所の行事や送り迎えを可能な時で、僕が参加してもいいですか? 」
「もちろん、俺もな」
じいちゃんは、二人の言葉にポカンとしていた。
「良いのか?無理して陽架琉の兄代わりにでいってんじゃないよな」
「おう」
「はい。無理はしてません。僕は参加したくて……」
たけしは、そう言いながら涙を流した。
「たけし? 」
「無理は、してないです。竜輝くんたちが、見れなかったこれからの陽架琉くんを僕が見て。僕の中にいる竜輝くんたちが、見れたら良いなって思って。自分でいってて、うまく言えてないのですが。僕にとって、陽架琉くんは弟です」
じいちゃんは、たけしの頭を撫でた。
「えっと、竜輝くんがいない代わりじゃなくて……」
「たけし、もういい。分かったから」
「えっ? 」
「兄代わりって言って悪かった」
「そんなことは……」
「たけしやせがれが陽架琉のことが、大好きなブラコンってのがよく分かった」
「「えっ? 」」
「ん? 」
「じっちゃん、ブラコンって言葉を知ってんの?なんで? 」
「あおいが、よく竜輝にブラコンって言ってたんだ」
「おぉ」
「何で、ひいてんだ」
「気にすんな」
「さっきの続きだが」
「はい」
「お互いが無理ない範囲で、参加をして欲しい。二人がいてくれると、陽架琉が喜ぶから。保育所には、ワシから話しを通しておくから」
「「じっちゃん、ありがとう」」
「おう」
たけしの言葉がきっかけで、後に陽架琉の保育所の送り迎えや行事を可能な限り参加をすることになった。
せがれにだけ、父親に条件がつけられている。
「陽架琉くんの保育所の送り迎えや行事に参加出来る許可はもらえたとして、父さんから条件がある」
「はい」
「今よりも、成績を良くすること。不良みたいな行動を気をつけること。まぁ、この二つは今も頑張ってると思うから続けることだな。どんな理由でもしたいことがあっても、お前はまだ学生だから。学業を優先して欲しいってのが親の気持ちだ」
「分かった」
せがれは、あの火事の日から今までの自分の行いをより見直すようになった。
陽架琉の兄代わりとして、小さな子どもをどうやったら守れるのかと。
そう考えると、今のままではダメ奴になることに行き着いた。
その日の晩御飯で話し合いをして来たという。
「じっちゃん、確か陽架琉くんは保育所では体調不良で休みってことになってるんですよね」
「あぁ、他に通う園児や保護者のこともあるから。あそこは、昔から地元の子たちが通う時だからな。色々と良くしてくれてるんだ」
あの火事は、数カ月経ってもみんなが恐怖に感じていた。
受験際の家が狙われると思っていて、陽架琉の家が最初にこの街で被害に遭ったから。
次は自分の家かもと考える人もいた。みんなは恐怖を感じて日々を過ごしている。
保育所での陽架琉は、対面的に体調不良で休むほうが良いと言う大人たちの判断だ。
「保育所を再開すると言っても、様子をみながらって感じだ。陽架琉が、しんどくなればすぐに迎えに行く約束をしている」
「はい」
「たけしとせがれは、受験生でもあるから。無理せずに陽架琉といてくれたら良いからな」
「はい」
「おう」
せがれとたけしも、竜輝と同じ受験生だ。二人の場合は、高校から大学への受験になる。
それでも、テレビや新聞では、一つの推測として『一連の事件の共通点は、受験生がいる家でした。受験生がいる家庭を狙った連続放火殺傷事件の可能性があるのではないか』と報じている。
せがれたちの大切な友達とその家族が、放火の被害にあって亡くなったことに、勉強での少なからず支障をきたしていた。
もしかしたら、自分たちも狙われるかもしれないという恐怖が襲うのだ。
じいちゃんは、そんな二人を心配していてる。少しでも、陽架琉といたいと望む彼らの慰めになればと思った。
読んでいただき、ありがとうございました。
今回の報道についての書き込みにでてきた『』を注目してたほうが良いかもです。
「『』」は、別です。