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第10話 ひーくんのおうち

 陽架琉(ひかる)が、じいちゃんの家から抜け出してあの火事があった自分の家に行った日のこと。

 

「陽架琉、寝たな」

 

 せがれに、抱っこをされた陽架琉はスヤスヤと寝ていた。

 

「たくさん動いて、たくさん泣いたから、疲れたんだね」

 

 せがれの隣で、たけしが陽架琉の頭を撫でながら言った。

 陽架琉は一緒懸命に自分の想いを言った後のこと。陽架琉は電池が切れたのかコテッと、せがれに抱っこをされて気持ちよさそうに寝息を立て始めた。

 

 

「俺が、間違ったことを言ったせいだ」  

 

 じいちゃんは、周りの人たちにそう言った。

 

「ワシが陽架琉に言った言葉のせいで、余計にあの子を苦しめた。みんなにも迷惑をかけた。すまない」

 

 じいちゃんは、そう頭を下げた。

 

「倉西のじーさん、アンタはなんも間違ったことを言ってない」   

 

 周りの人たちが驚いて何も言えない中で、近所のおっちゃんが沈黙を破った。

 

「俺は、倉西のじーさんと同じ立場でも、同じことをした。みんなも迷惑に思ってないから。頭を上げろよ。倉西のじーさんらしくない」 

 

 じいちゃんは、その言葉で頭を上げた。その目の前には、近所のおっちゃんに同調するように反応を見せる周りの人たちがいた。

 

「倉西のじーさんが、言うようにな。もしも、陽架琉くんが今回のように苦しめたことになったとしてもな。俺たちがいるからさ、もっと頼ってくれよ。俺たちは、倉西のじーさんたちには世話になったんだから。恩返しをさせろよ」 

 

 じいちゃんは服の袖で目元を拭い、空を見上げた。そして、近所のおっちゃんの方を向いた。

 

「悪ガキだったお前が、偉そうに言いやがって」 

 

「昔のことを、掘り返すなよ〜」

 

 近所のおっちゃんが笑いながら言うと、周りの人たちも笑った。

 

 

 じいちゃんの家に戻る頃には、空は真っ黒でキラキラと星が輝いていた。

 じいちゃんの家の居間にみんなで行って、せがれが陽架琉を抱いたまま座る。そして、陽架琉を座布団の上に寝かせた。

 せがれとたけしは、帰る支度をした。


「陽架琉、せがれたちが帰るって」 

 

「ふぇ〜? 」 

 

 気持ちよく寝ていた陽架琉は、身体を揺すぶられて少しずつ目を覚まして、起き上がる。

 

「陽架琉、寝てるとこ起こしてごめんな」 

 

 じいちゃんは、優しく陽架琉に言った。

 

「なんでぇ? 」 

 

「何でって、そりゃ〜 」 

 

 まさかなことを陽架琉に言われて、じいちゃんはなんだか笑えてきた。孫の寝起きの顔や寝癖も相まって、なんでの言い方が面白かった。

 

「じいちゃんの家に、俺とたけしは遊びに来たから。お家に帰るんだ」 

 

 せがれは、陽架琉の目線になって真っ直ぐとした言葉で言った。

 

「ひーくん、かえんない」 

 

「どういうこと? 」 

 

「ひーくんは、じーのおうちにあしょびきた。ひーくん、おうちナイナイ。せーくん、たぁくん、かえんない」 

 

 せがれは「?」マークを頭に浮かべるが、たけしはまだ小さな陽架琉の言葉の意味が分かった。

 

「陽架琉くんは、じいちゃんのお家に遊びに来たって思ってるの? 」 

 

「うん! 」

 

 陽架琉にとっては、あの火事の前の日に、いつものようにじいちゃんの家に預けられていると思っていた。

 いつものように、じいちゃんの家に行って、たくさん遊んでご飯を食べて、お風呂に入って、たくさん寝るを繰り返してるだけに感じた。


 たとえ、自分のお家や自分以外の家族がなくなったとなんとなく理解をするしか出来なかったとしてもだ。


 陽架琉にとっては、じいちゃんの家にずっと暮らすというよりもいつものように遊びに来て泊まっているという感覚だった。

 

「お家がナイナイだから、帰えんないの? 」 

 

 たけしが、優しく聞いた。


「……う」 

 

「陽架琉くんが帰らないから、せーくんと僕は帰えらないの? 」 

 

「おしょろい! 」 

 

 陽架琉の言葉に、たけしはだんだん悲しく辛くなった。

 

「陽架琉、せーくんと話しをしよう」

 

「う〜! 」 

 

 陽架琉は、せがれと話せるんだと嬉しそうに笑う。

 

「陽架琉のお家は、ここだよ」 

 

「ひーくんのおうち、ナイナイ」 

 

「ナイナイになったおうちとじっちゃんのおうちは、陽架琉のおうちだよ」 

 

「わーない」 

 

 陽架琉は、分からないと首を横に振る。


「じっちゃんのおうちは、陽架琉のおうちになったの」 

 

「陽架琉。いつも、おやつのお菓子を二個ほしいってなるよな」 

 

「う〜!」 

 

「でも俺が、一個だけっていうだろ」 

 

「う〜? 」 

 

「うまく言えないけど。お菓子は一個。おうちは二個でも良いんだよ。陽架琉には、おうちが二個あります」

 

「う〜? 」

 

「でも、一個はナイナイです」 

 

「う〜? 」 

 

「陽架琉のおうちは一個。じっちゃんのおうち」

 

 陽架琉は、首をかしげる。だんだんと、せがれの頭の中もこんがらがった。

 

「じっちゃんのおうちは、陽架琉のおうち」  

 

 せがれは、自分の中にある言語力や単語を総動員して説明をしていた。

 でも、だんだんとうまく言えないと思って、ゴリ押しで陽架琉に納得をさせそうとした。

 

「陽架琉。みんなは、ただいまって帰るおうちがあるんだ」 

 

 今度は、じいちゃんが言った。

 

「せがれもたけしも、ただいまって帰るおうちが別にあるんだ。だから、帰るんだよ」 

 

 陽架琉は、じーっとじいちゃんをみた。

 

「せがれが言いたいのは、陽架琉がただいまって帰るとこがじいちゃんのおうちなんだよ」 

 

「ひーくん、じーとおしょろい? 」 

 

「おそろいだな〜! 」 

 

 じいちゃんは、陽架琉の頭をポンポンとする。

 

「俺、小難しく考えすぎ? 」 

 

「陽架琉くんには、難しすぎだけだね」 

 

「せがれとたけし、ありがとうな」 

 

 じいちゃんは、せがれとたけしの頭をポンポンとした。

 

「ガキ扱いしやがって」 

 

「ワシからしたら、みんな子供だ。せがれも、たけしみたいに素直に喜んでろ」 

 

 せがれが、横にいるたけしを見た。たけしは、嬉しそうに喜んでいた。

 

「たぁーくん、せーくん、かえんない? 」 

 

 空気を読めれない陽架琉の言葉に、みんなが笑った。

 

「帰るよ。でも、明日になったら、また陽架琉くんのお家に来るからね」 

 

 陽架琉は、ほっぺたをプクッと膨らせて、ぼくはイヤだと抗議をする。

 

「陽架琉、約束。明日、陽架琉のお家に行くからな」

 

 指切りげんまんと、せがれが小指を出すとしぶしぶ陽架琉も小指を出す。そこにたけしも混ざって、陽架琉と指切りげんまんを約束をした。


 玄関を出て道を歩いてから、せがれがつぶやく。

 

「ふてくされ顔がかわいい」

 

「せっちゃんは、本当に陽架琉くんのことが大好きだね」   

 

「当たり前だろ! 」 

 

「そうだね、僕も同じだよ」 

 

 二人は、温かい気持ちを抱きながら帰路についた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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