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オートメーションファームBOX  作者: 短期決戦
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第3話:エラーコードE-203と、秘密のアーカイブ

 育ちゆく野菜は、決してデータだけじゃ語れない。

それを育てる技術にも、それを残そうとした人にも、「想い」が宿っていた――。


理想と現実がぶつかる中で、ひとつの“エラー”が、湊を過去へと誘う。

それは、祖父の記憶を紐解く旅であり、まだ完成されていなかった夢との再会でもあった。


第3話では、壊れかけたBOXが語りはじめる「設計者の想い」と「未来への継承」に迫ります。

物語は、静かに深く、過去の奥へと潜っていきます。

◆E-203エラーと、朝の異変


 朝の陽光が、BOXの金属フレームに反射して光を弾いた。いつもなら、朝露に濡れた土の香りと、育ち始めた苗たちの生気が湊の感覚をくすぐるはずだった。


だが、その朝だけは違っていた。


「おい……おいおい……嘘だろ……?」


湊がコントロールパネルに目をやると、ディスプレイには赤く点滅するコード。


【E-203:ARCHIVE SYNC ERROR】


見慣れないエラーコードだった。過去のトラブルログにも載っていない。自動制御システムが起動停止を繰り返し、循環ポンプの音が不規則に鳴る。


「理央!」


コンテナの奥から、パーツ整理をしていた理央が顔を出す。


「……エラー? 何が起きたの?」


「これ見てくれ、E-203って初めて見る。昨日まで正常だったのに……急に動作不安定になってる」


理央はすぐさまパネルの前に立ち、タブレットを開いた。システムとリアルタイム同期しながら、トラブルシュートを開始。


「……ふむ、通信系統は正常、外部センサーにも異常なし。電源ラインにも問題はない。なのに……制御モジュールのログが途中で切れてる」


「ログが切れてる?」


「まるで、途中で“もう一つの何か”と干渉したみたいな……データが二重になってるの」


湊は額に汗を滲ませた。何が起きているのか、感覚だけが不吉を告げている。


「俺、思い出したことがある。じいちゃんの設計図に……“見たことないマーク”が描かれてた。ずっと謎だったんだ」


「どんなマーク?」


湊は工具箱の奥から、紙焼きされた古い設計図の束を取り出す。一枚を広げると、端に小さな三角形とドットで構成された幾何学的な印が描かれていた。


「これだ。このマーク。多分……何かのキーになってる」











◆秘密のアーカイブ、開封


 「このパターン、見覚えある。前に読んだオープンソースの農業AI、隠しメニューに似た構造体があったわ。コンソールにアクセスしてみる」


理央がBOXの奥にある旧型操作端末を起動させる。通常のUIとは異なる深層プロンプトが現れ、湊は祖父の筆跡を思い出しながら、一つずつコードを入力した。


「パスワード、思い出せるか?」


「たぶん……誕生日だと思う。じいちゃんの。俺に初めてハンダ付けを教えてくれた日」


キーボードを叩き、リターンキーを押す。画面が暗転した次の瞬間、静かな電子音と共に懐かしい声が響いた。


『……やあ、湊。もしこれを見ているなら、君が“あの日の続きを選んだ”ということだ』


祖父の声だった。


コンソール上に、膨大なファイル群が表示される。フォルダ名は全て暗号化されていたが、その中の一つに湊は目を止めた。


【M-ARCHIVE_01:第一世代アグリユニット試作記録】


「……これ、じいちゃん……全部残してたのか」


理央も息を飲んだ。


アーカイブには、過去の試作機の映像記録、研究ノートのスキャンデータ、さらには湊がまだ小学生だった頃、祖父と交わした会話の録音までが収められていた。


湊の胸に、過去の記憶が流れ込む。泥だらけになりながら、祖父と一緒に畑を掘り返し、小さなセンサーを埋めた日のこと。笑いながら「将来はこの畑が機械で回るようになる」と語った祖父の横顔。


「じいちゃん……ずっと、ここまで見てたのか……」











◆E-203の正体と、重なる過去と現在



 理央の手が動きを止めた。アーカイブの中にあった古いログファイル群を覗き込んで、目を細める。


「……湊、このエラー、たぶん単なる不具合じゃない」


「え?」


「アーカイブが勝手に起動して、現在の制御系とデータの衝突を起こしてる。いわば、“記憶”と“今”が同時に動こうとしてるのよ」


湊はログウィンドウを見つめた。確かに、制御コマンドが二重に走っている。

一方は現在のシステムによる命令。

もう一方は、アーカイブに記録された「旧制御データ」——つまり、祖父が残した設計そのものだった。


「つまり……じいちゃんのやり方と、俺たちの今のやり方がぶつかってるってこと?」


「そう。でもね、これは衝突じゃなくて“同期未承認”って表示されてる。つまり、あなたが明示的に“承認”さえすれば、共存できる可能性がある」


「え、それって……」


「E-203。これは“エラー”じゃなく、“選択”を迫るコードかもしれない」


息をのんだ湊の耳に、また祖父の声が流れた。


『……湊。未来は一つじゃない。このBOXはな、進化する装置だ。記憶も、技術も、思い出も……全部詰め込んで、それでも前に進む装置だ。』


その瞬間、少年のころの記憶が鮮やかに蘇る。


——祖父の膝の上で眠りながら、「将来はここに野菜の自動販売機をつけるんだ」と夢を語った日。

——冷蔵庫の裏に隠された、小さなメモ帳とボルト一つ。

——「無駄なデータなんてない」と言って、湊が壊したセンサーを丁寧に分解してくれた夜。


「……全部、生きてるんだな……この中で」


湊は拳を握った。


「理央。どうすれば“承認”できる?」











◆“承認”と、動き出す未来



 理央は、アーカイブ内部に隠されたコマンドラインへとアクセスを試みた。


「これだと思う。『M-ARCHIVE_SYNC.EXE』。ただし、実行には承認コードが要る」


「承認コード……?」


「たぶん、祖父が最後に湊のために設定した“鍵”よ。今の君にしかわからないやつ」


湊は再び設計図を見返す。すると、ふと裏面に手書きの走り書きがあるのに気づいた。


未来ミライの一文字を、イマに足せ」


——暗号だった。


湊は思考を巡らせる。未来に“イマ”を加える……「未」と「今」を足すと?

彼はひとつの仮説にたどり着く。


「“念”だ……。“心”が加わった未来……」


試しに「NEN」と入力する。数秒の沈黙の後、画面が一転。


【承認コード確認:NEN】

【同期モード起動します】


システム全体が静かに震えた。BOX内部の制御ユニットが再起動を始め、これまでにないUIが現れる。


【M-AUTOMATION:ARCHIVE MODE ONLINE】


「やった……! 同期できたのか?」


理央が嬉しそうに頷いた。


「新しいモードが立ち上がってる。祖父が残した設計思想と、今の技術が融合された、新しいBOXよ」


その時、スピーカーから最後のメッセージが流れた。


『……湊。このBOXは、わし一人では完成しなかった。お前と、未来の誰かとで、ようやく動き出す。次は、お前の手で育てていくんだな』


その声は、どこか優しく、少し寂しげで、そしてどこまでも前を向いていた。


「じいちゃん……」


湊はゆっくりと息を吸い、空を見上げた。コンテナの隙間から差し込む春の光が、再び動き出したBOXに降り注いでいる。


理央がふと、微笑みながら呟いた。


「ねえ……このBOX、あたしたちよりずっと長く、生きるかもね」


「なら、ちゃんと育てないとな」


二人はBOXの前に並び立ち、まるで種をまくように、新たな一歩を踏み出した。











◆記憶と現在をつなぐ、新しいUIと、新しい一歩



 「起動ログ、正常。同期シーケンス……完了。新モード起動を確認」


理央の声に、湊が頷く。


目の前のBOXの内部ディスプレイが、これまでとまったく異なるUIへと切り替わっていた。無機質だったインターフェースは色味を持ち、植物の育成状況をリアルタイムにグラフィカル表示するほか、過去のアーカイブと現在のデータの相関が美しいツリー構造で示されている。


「ARCHIVE MODE」——それは単なる過去の再現ではない。

祖父が遺した設計思想、細かなセンサーの設置意図、データの蓄積手法、失敗の履歴さえも資産とし、それを今の技術と照合・再解釈する“進化の土壌”だった。


湊はしばらくその画面を眺めていたが、やがてポツリと言った。


「これってさ……じいちゃんが俺に、“自分で答えを出せ”って言ってた理由が、やっとわかった気がする」


「どういうこと?」


「……“完成品”を渡すんじゃなくて、“未完成なまま託す”ってことが、このBOXの意味だったんだ」


理央はゆっくり頷いた。

かつて研究所で「正解だけを求め続けて、問いを失った研究者」たちを見てきた彼女にとって、それは深く響く言葉だった。


「問いが残るって、きっと大事なことだよね。だからこそ、次の誰かが、それに向き合える」


「うん。俺、ちょっとだけ……じいちゃんに近づけた気がするよ」


その時、BOXの端末に新しいログがひとつ追加された。


【新規エントリ:ARCHIVE_NODE_001】

タイトル:『未完のレシピ』


中身は簡潔だった。祖父が残した未完成のアイディアスケッチ——

“自動栄養調整型ミスト散布システム”、“AI-対話型植物成長ログ記録”、“地域ごとの気候変動パターンに応じた対応モデル”。


「これ……未完成のまま残してくれてるんだ」


「まるで、次の開発者にバトンを渡すみたいにね」


湊は思わず笑った。


「じいちゃん……ずるいな。でも、ありがとな」


そのログの最後には、ひとことだけ文字が残されていた。


「この続きを、湊へ」


春の陽が、コンテナの天窓から優しく差し込んでいた。

BOXの中で、静かに芽吹いたレタスの若葉が、光を受けてきらきらと揺れている。


「理央。俺さ、このBOXを使って、“みんなの農業”を作りたい。子どもでも、お年寄りでも、プログラムが書けなくても使えるような……そんな“誰でも未来を育てられる”箱にしたい」


「いいね、それ」


「で、その中に——ちゃんと、“じいちゃん”も入れてやりたい」


理央は、ふっと目を細めて言った。


「じゃあ……その未来、一緒に作らせてよ」


湊は、静かに頷いた。


「もちろん。これからが、本番だ」


風が、開け放たれたコンテナの扉を優しく揺らす。

その向こう、畑の片隅には、新たに組み上げられた小さなBOXが、陽を浴びて静かに息づいていた。


——新しい芽が、未来へと根を伸ばし始めていた。



※次回予告:第4話『レイヤー67の侵入者』


(サブタイトル:過去ログの彼方から現れた“誰か”)

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


今回の第3話では、「技術の中に宿る記憶」や「想いの継承」といったテーマに挑戦してみました。

ただのエラーコードに見えた「E-203」も、祖父から湊へと繋がる一本の“感情のコード”だったのかもしれません。


アーカイブに眠る音声、再生された古いUI、未完のログ……。

すべてが、湊の中に眠っていた何かを呼び起こすきっかけになっていきます。


次回はいよいよ、“レイヤー67”――想定されていなかった階層へと物語が侵入していきます。

過去と未来が交差するその深層で、湊たちは何と出会うのか。


これからも『オートメーションファームBOX』、どうぞよろしくお願いします!




本作品は、chatGPTを使用しています。


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