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オートメーションファームBOX  作者: 短期決戦
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第2話:畑に芽吹くデータと光

本作『オートメーションファームBOX』第2話では、湊と理央が祖父・誠一の遺したオートメーションファームBOXを再起動させ、その機能と理念を再発見していく様子を描いています。農業とテクノロジーの融合に焦点を当て、祖父が目指した理想的な農業の形が、今まさに息を吹き返す瞬間を描写しました。この話では、過去の遺産を未来に繋げる力と、科学と自然が調和することの重要性に触れています。湊と理央の再会を通して、農業に対する新たな希望と情熱が芽生え、物語は次第に深い意義を帯びていきます。

 納屋の奥、暗がりの中にひっそりと横たわる巨大な箱──オートメーションファームBOX。それは、かつて湊の祖父・誠一がたった一人で設計・試作した、自律型農業ユニットだった。


 床には乾いた土埃が積もり、棚には使われなくなった農具が無造作に立てかけられている。壁に打ち付けられた釘には、いつからぶら下がっているのか分からない麦わら帽子が揺れていた。


 そんな古びた空間に、ほんのわずかな熱と光が戻ってきた。


「これが、最後の希望ってわけか」


 湊が呟く。埃を払いながら手を滑らせた金属の筐体は、冷たく、けれどどこか人の温もりが感じられた。それはただの装置ではなく、祖父が遺した“思想”だった。


 彼の隣には、理央がいる。大学時代の同期で、農業IoTを研究していたエンジニア。今は東京の研究機関を離れ、湊の呼びかけに応じてこの山村へやってきた。


「……ほんとに、動くと思ってるの?」


「動かすしかないんだ。俺たちの、未来のために」


 理央はため息をつきつつも、その目はどこか懐かしさを帯びていた。スケッチブックに残された設計図を開き、BOXの全体構造を確認する。


「電源……ここ、だよね」


 湊がコードを辿る。コンセントは納屋の木壁に半ば埋もれ、苔とホコリに覆われていた。掃除用ブラシで丁寧に磨き、コンセントに古びたプラグを差し込む。


 数秒の沈黙ののち──。


 カチ、とリレーの音が響き、筐体前面のパネルがぼんやりと発光した。


「……きた!」


 理央の声に、湊の胸も跳ねた。液晶には《BOOT MODE:VER 0.00.1α》の表示。その後ろでブザーが小さく鳴り、内部のファンが低く唸る。


「十年以上も眠ってたのに……ちゃんと応えてくれるなんて」


 理央がパネルにそっと手を当てる。その指先は震えていた。見つめる先にあるのは機械の表面ではない。祖父・誠一の“哲学”だった。


「祖父は、ネットワークに依存しない農業システムにこだわってた。山奥でも、被災地でも、インフラが整ってなくても、自律して作物が育つようにって」


 理央がスケッチブックをめくる。そこには赤ペンで大きく書かれた文字があった。


「“完全スタンドアロン”。……農業の、平等化か」


「見かけ倒しの理想論に見えて、でも……きっと祖父は本気だった。機械やネットじゃなくて、“自然”とどう向き合うかって」


 ふと、1枚のメモがスケッチブックから滑り落ちた。湊が拾い上げると、そこには走り書きのような文字と、植物のシルエット、そしてLED波長を示す簡易グラフがあった。


「“LEDは呼吸のリズムに合わせて調整。朝夕の再現。自然は静かだが、退屈ではない”……?」


 理央はその文を見て、思わず小さく声を上げた。


「これ……呼吸リズム照明。波長と光量をわずかに揺らすことで、植物に“時間”の流れを感じさせる技術だよ。今じゃ先端の都市型植物工場でもようやく研究され始めたレベルの発想なのに……これ、10年以上も前のだよね?」


「祖父にとって、植物はただ育てる対象じゃなかったんだ。“生き物”として、向き合おうとしてた」


 湊は、装置の天板を外し始めた理央の手元を見つめながらそう言った。


 パネルの内側は埃まみれだったが、配置は合理的で、メンテナンス性を考慮した配線が美しく折りたたまれている。LEDは三波長構成。赤・青・白。それぞれの波長が独立制御可能になっており、反射板はポリカーボネート製で鏡面加工が施されていた。


「断熱性も反射効率も申し分ない……すごいな、お祖父さん」


 理央の声には、技術者としての敬意がこもっていた。


 さらに内部の水循環系を確認すると、わずかな傾斜がつけられ、自然な水流が生まれる設計だった。動力の消費を最小限にし、メンテナンス性も高い。


「これ……完璧すぎるでしょ。何者だったの、あなたのお祖父さんって」


「元は機械設計士だった。でも、退職後にこの村へ戻って農業始めて……それから、ずっとこれを作ってたらしい」


「現場に立って、手で土を触って、技術者としての知識と融合させて……“思想”だね。これはもう、機械じゃないよ」


 理央の声には、心の底から湧き上がるような感嘆があった。


 屋根の上に設置されたソーラーパネルを点検すると、苔に覆われながらも、わずかに電圧を発していた。湊が静かに呟く。


「生きてる……」


「なら、いよいよ起動だね」


 培養タンクに水を注ぎ、理央がpHチェッカーで値を確認。栄養剤を投入し、センサー群の起動も順調。すべてのチェックを終えると、理央が軽く手を上げた。


「光源、オン!」


 スイッチが押された瞬間、装置内部に柔らかな光が広がる。三色のLEDが波のように点灯し、ポリカの反射板に反射して室内を幻想的に染め上げた。


「……未来、みたいだね」


「うん。……やっと、動き出した」


 だが、その静寂は唐突に破られた。


《エラーコード:E-107 湿度センサー未反応》


 液晶パネルに赤く表示されたその警告に、ふたりの表情が引き締まる。


「まさか、センサーが壊れてる?」


「……いや、これ“0”って出てる。つまり、反応がないってより、読めてない。接触不良の可能性高い」


 理央は素早く工具箱を開き、精密ドライバーで端子を開ける。綿棒に接点復活剤をつけて、金属部分を丁寧に磨く。手際に一切の迷いはなかった。


「……よし、再接続」


 パネルを閉じて再起動すると、数値が跳ね上がった。


《湿度:65%》


「きた……!」


 思わず湊はガッツポーズ。理央も満面の笑みを浮かべた。


 パネルに再び現れた《湿度:65%》の数値を見て、湊は深く息を吐いた。その表示は、まるで目の前にある機械が“返事”をしてくれたかのようだった。


「理央、ありがとう。本当に助かった」


「何言ってんの。あんたが呼んでくれなかったら、こんな“宝物”に出会うこともなかった」


 ふたりの間に静かな笑みが交わされる。かつての研究室での夜更かしの日々。理屈と実験と失敗を何度も繰り返したあの時間が、今のこの瞬間にも続いているようだった。


 理央は再びスケッチブックを手に取り、慎重にページをめくる。祖父・誠一が遺したそれは、まるで“紙の迷宮”だった。手書きの図面、鉛筆での計算跡、赤いボールペンで書かれた補足、そして──ときおり挟まるメモや写真。


「これ……なんだろう」


 理央が指差したのは、一枚の黄ばんだ写真だった。まだ木の骨組みだけのBOXと、その前でポーズを取る誠一の姿。作業服に帽子をかぶり、少し照れたように笑っている。だが、その目は確かに何かを“見据えていた”。


「ねぇ湊、このBOX……ハードだけじゃない。きっと、ソフトウェアも自作だったんじゃない?」


「祖父、プログラミングは得意じゃなかったって言ってたけど……C言語くらいは触ってたらしい」


「うん、このファームウェア表示、“VER 0.00.1α”って……まるでまだ“始まり”だってことを言ってるみたい」


 理央はタブレットを取り出し、BOXとBluetooth接続を試みる。しばらくして、端末が自動的にログフォルダを開いた。


《LOG_001》 《LOG_002》 《LOG_003》……


 そこには、日付付きのテキストファイルが数百件。最終更新日は、誠一が亡くなる少し前の日付だった。


「これ、祖父が毎日記録してたんだ……栽培記録と、きっと開発日誌も」


 湊は、感慨深く画面を見つめた。


 理央がいくつかのログを開く。そこには、装置内部の温度変化、湿度、LED照度、培養液の濃度──緻密な観察と分析が綴られていた。だが、ある時期を境に、内容に変化が現れ始める。


「ここから、急に“思想的”な記述が増えてる……。“命にとって必要なのは、数値の最適化ではなく、リズムと意味”……?」


 理央は息を呑んだ。


「これ、科学と感性を融合させようとしてた……?」


 湊も静かにうなずいた。


「祖父、言ってたよ。“畑は自然の論理でできてる。だから機械も、人間の都合だけで動かしてはいけない”って」


「……かっこよすぎるでしょ、その考え方」


 装置の外では、もう夕暮れが近づいていた。納屋の隙間から差し込む橙色の光が、床の上に細い線を描く。


「理央、ちょっと外に出てみよう」


 湊の言葉に頷き、ふたりは納屋の裏手に回った。そこはかつて誠一が畑として使っていたスペースだった。いまは雑草が伸び放題で、所々に使いかけの肥料袋や錆びたスコップが放置されていた。


「ここ、全部再生できたら……小さな循環型農場になる」


 湊が言った。理央は、納屋の屋根に設置されたソーラーパネルを見上げる。


「太陽で電気を得て、電気で作物を育てて、育てた作物を食べて……その一部が堆肥になって、また土に還っていく。……循環、か」


 ふたりはしばらく無言で立ち尽くした。空の彼方には、一番星が瞬いていた。


「ねぇ、湊。ひとつだけ聞いてもいい?」


「うん」


「なんで……東京を捨てて、こんな田舎に戻ってきたの?」


 その問いに、湊はしばらく答えなかった。遠くでカラスが鳴いた。


「……逃げたんだよ。理想を語りながら、現実に押し潰されてさ。祖父が倒れたって聞いて、理由が欲しかったんだと思う。戻るための、理由が」


「じゃあ……今は?」


 湊は空を見上げた。その瞳に、どこか晴れやかな光が宿っていた。


「今は、ようやく“始めたい”って思ってる。ここで。俺自身の手で、“再起動”するんだ」


 理央は静かに頷いた。そして、ぽつりと呟く。


「なら、私も……ここで始めるよ。技術者としての、次の章を」


 ふたりは再び納屋へ戻った。BOXの中では、センサーが静かに動作し、培地の中で植物が呼吸を始めていた。


 その夜、再び仏壇の前に座った湊は、線香に火を灯した。


「じいちゃん、今日ね……芽が出たんだ。すっごく小さいけど、ちゃんと光に向かってるんだ。……俺も、あの芽と一緒に、少しずつ光に向かっていくよ」


 仏壇の上に置かれた誠一の写真は、どこか誇らしげに笑っているようだった。


 翌朝、湊と理央は再び装置の前に立っていた。植物の芽はさらに成長し、透明な培地の中で白い根を張っていた。


「すごい……1日でこんなに」


 理央は装置のセンサー群をチェックしながら、画面に映る数値を記録していく。その姿は、まるで現代の“農夫”そのものだった。


「ねえ湊。この装置さ、全部の環境データを記録してる。温度も湿度も、LED照度も、栄養濃度も。そして、そのとき植物がどう反応したかも」


「つまり……農業の“経験”が、“知識”になるってことか」


 湊の声に、理央は頷く。


「そう。これがあれば、環境と反応をひとつずつ積み重ねていける。“再現可能な栽培”が、誰の手にも届くようになるかもしれない」


「祖父が言ってた。“平等な農業”って、そういうことか」


 湊は、改めて装置を見つめた。


「俺たちの手で、祖父の残した未来の続きを創ろう。農業っていうより、“生き方”そのものを、再構築するみたいに」


 BOXの中で、青白いLEDが静かに瞬いていた。その光に照らされて育つ小さな芽は、湊と理央の再生の象徴だった。そして、ふたりが歩き出す“未来の農業”の第一歩でもあった。


※次回予告:第3話『エラーコードE-203と、秘密のアーカイブ』


起動後、BOXが記録していた謎のログファイルに気づくふたり。そこには祖父・誠一の“未公開開発記録”と、もうひとつの“未完成モジュール”の存在が記されていた。BOXの真の姿とは──?

第2話「畑に芽吹くデータと光」は、祖父・誠一が残したオートメーションファームBOXの設計思想とその復活をテーマにした話でした。湊と理央が、誠一が追い求めた“平等な農業”のビジョンに触れ、機械と自然がどのように共生するかを考えるきっかけとなるエピソードです。特に、誠一が残した思想的な記録や、BOXの内部設計に込められた深い意味を感じ取りながら、二人が一歩ずつその使命を引き継いでいく様子に注目していただきたかった部分です。


農業とテクノロジー、そして“自然”と向き合うことの大切さ。これらのテーマを通して、登場人物たちの成長とともに、物語がどんどん深みを増していくことを感じていただけたら嬉しいです。次回の第3話では、さらに謎が深まり、祖父の未公開開発記録や未完成モジュールに関する秘密が明かされます。どんな新たな発見が待っているのか、引き続きご期待ください。


本作品は、chatGPTを使用しています。

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