第6話:選択という迷路
第2章『白衣の中の迷い』より
医師として働く中で、同期もできたけれど、
それぞれが自分の夢に向かって必死で、私はどこか一人だった。
診療科を選ぶ時期がきた時、私はまた迷っていた。
周りの同期たちは、次々と診療科を決めて進んでいった。
それが当たり前のように見えた。
でも、私は足が止まっていた。
それは、決断を怖れていた訳じゃない。
自分の未来を“なんとなく”で決めたくなかった。
ちゃんと納得して、ちゃんと選びたかった。
でも、まわりの足並みがどんどん揃っていく中で、
自分だけが取り残されているような気がして、焦ることもあった。
真剣に向き合おうとする分だけ、時間がかかってしまう。
私は昔から、そういうところがある。
ある日、後輩から聞かされた。
「同期の女医たち、あき先生のこと“休みすぎ”とか“進路決められなさすぎ”って言ってましたよ」
有給の範囲内で休んだだけ。
私にとっては、自分を保つためのリズムだった。
進路だって、医者になる前は、自分が憧れた「町のお医者さん」くらいのイメージしかなかったのに、
実際は臓器ごとの専門科が細かく分かれていて。
自分がどの科を選ぶのか、どんな人生を歩みたいのか――
全部を考えたうえでなければ、私は選べなかった。
周りが決まっていくのを見ていると、
“まだ選べない”自分が、とても遅れているような気がしていました。
でも本当は、
自分のことをちゃんと考えたかっただけ。
焦らずに、自分の選択を信じたかった。
自分で納得したかった。
それが、あのときの正直な気持ちでした。