第10話:寄り添う場所
第4章『寄り添う場所』
夢の中で、私はよしきの隣にいた。
言葉を交わすよりも、ただ並んで歩くその時間が、静かで心地よかった。
なぜか、深く息ができる気がした。
「……よしき、今はどうしてるの?」
私の問いに、彼は穏やかに笑って、こう答えた。
「結婚してるよ。子どももいる。今も教員、やってるよ」
胸の奥が、きゅっと締めつけられた。
でも、その痛みは思ったより静かで、優しかった。
わかっていた。
私だって、家庭があって、子どもがいて、毎日を生きている。
家族は私にとって宝物。
今の暮らしを、大切に思ってる。
それでも、ふと心のどこかで想像してしまう。
あのとき別の道を選んでいたら、どんな未来が待っていたのだろうと。
“たられば”に意味がないことなんて、わかってる。
もう戻れないし、過去は変えられない。
戻りたいわけじゃなくて、ただ――
「確かに好きだった」
その記憶が、今も心の奥に、静かに残っているだけ。
今を捨てたいわけじゃない。
それでもこの夢の中でだけは、
心が昔の“私”に戻ってしまう。
ただ、寄り添って歩けること。
それだけで、涙が出るほど安心できた。
目が覚めたあと、私は少しだけまどろみながら、天井を見つめた。
何も変わってないはずなのに、心の奥で、何かが少しほどけた。
カーテンのすき間から、やわらかな光が差し込んでいた。
夢の中でだけ、時間を巻き戻せたような気がしました。
「今さら」と思っていた気持ちが、少しずつ輪郭を持ちはじめて、
心の中にしまい込んでいた“たられば”にも、そっと触れることができました。
現実では言葉にできない感情も、夢の中ではただ“隣にいる”ことで救われることがある。
そんな静かなあたたかさに、少しだけ背中を押された気がします。




